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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第五章
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『父』と『母』の物語・異変 04 —『影』—




 影に覆われた街、サランディア。


 城のテラス付近で、私は眼下に広がる街の様子を窺う。


 陽を遮る雲はないというのに、明るさは普段の半分以下といったところだろうか。


 そして『人影』。奴らはこの城の東側、城内にも現れた。


 どうやら昨日も出現したらしいが、しばらく時間が経過すると消え、今度は反対側、西側に出現したらしい。


 私は一つ、試してみることにした。


「失礼」


 大きな木の板を用意してもらい、それを窓を塞ぐように横から滑り込ませた。


 塞がる窓。そこから差し込む光がなくなると——その場にいた『人影』は、まるで最初からいなかったかのように消えてなくなったのだった——。





「——つまりあの『人影』は、月の光の届く場所にしか出現しねえってことか?」


「ああ、恐らくは」


 ここは先ほどの部屋、先ほどの面子。『人影』の出現条件をある程度絞り込めた私は、皆に情報を共有する。


「『人影』は月の出と共に現れ、昨日の様子だと月の入りと共に消えるだろう。その間は空も地面も暗くなる。そして今話した通り、『人影』は月の光の届く場所でしか活動出来ない可能性が高い」


 私の推論を紙にまとめる重鎮たち。この場でずっとサラの元にいるということは、執政官だろう。


 サラはその紙を覗き込みながら指示を出した。


「じゃあ、おねがい。月がしずんだら、すぐに村やしゅうらくのみんなにこのことを伝えてあげて」


「はい、出来る限りのことはいたします。おい、早馬の準備を——」


 目の前のやり取りを眺めながら私は考える。


 ここ、サランディアは王国は小国とはいえ、その全地域をカバーするとなると相当広い。私の拾われた南の地スドラートも、サランディア王国領内だ。


 ——果たしてナーディアさんは無事だろうか。


 推論の段階ではあるが、もしこの条件が周知されれば被害は最小限に抑えることが出来るだろう。


 私は何も出来ない自分に歯痒さを感じながら、薄闇を睨み続けるのだった——。







 翌朝、エリスは戻ってきた。


 送り出したものの心配で寝つけなかった私は、彼女の無事な姿を見てたまらず抱きしめる。


「エリス!」


「わ! もう、人前で照れるなあ」


「ンッ。で、大丈夫だったのか?」


「んー。とりあえずはねえ……」



 ——ゲートを使ってサランディアから自宅、そして妖精王の元を訪れたエリスは、ことのあらましを無事、伝えたようだ。


 妖精王のところには各集落への連絡が出来る魔道具があるらしく。それを使って各集落に周知してくれたとのことだ。


 私は気になりエリスに尋ねてみる。


「『通信魔道具』? そんなものがあるのか?」


「あー、あの人ね、不思議な魔道具いっぱい持ってるんだー」


 ただ、連絡を取ってみたところエルフ族にも決して少なくない犠牲者が出ているみたいだ。


 しばらく妖精王と話し合い情報を共有したエリスは、妖精王の住処をあとにする。


 そして人影を避けゲートを潜り抜けたエリスは、ドワーフ族の元を訪れ彼らとも情報を共有し、朝を待ってここに戻ってきたとのことだ。


「……バカ、エリス。無茶するな……」


「ふふ。ごめんね、セイジ。でも、みんなのことほっとけなくて」



 彼女に危険を冒して欲しくはないが、取り敢えずは、だ。エリスのおかげで助かった命も多いに違いない。私は妻のことを誇りに思う。


 だが私には一つ、懸念点がある。それは——。


「なあ、エリス。もし月の力でこの現象が起きていた場合……『満月』の夜は大丈夫だろうか?」


 そう。あと五日後くらいに訪れる満月。もし月の力の影響で事態が動いていた場合、その力が最大限になる満月にはどうなってしまうのか——。


 考え込むエリスに、私は提案した。


「動けるうちに動こう、エリス。ゲートを使って飛び回れるのは私たちしかいないのだから。まずはナーディアさんのところに行ってみないか?」






 私とエリスはゲートを使って家へと戻り、庭の一角にある『スドラート・ゲート』の前に立つ。


 今はまだ昼前、今日の月の出は午後二時くらいだから、まだ時間に余裕はある。


「では、行こうかエリス」


「うん!」


 彼女は空間に手を当てゲートを開く。その瞬間——



「わっ!」



 ——なんと、ゲートから大量の雪がなだれ込んできた。


 雪に埋まる私とエリス。なんだこれは、いったい何が起こっている?


 私は雪の中からエリスを引っ張り出した。プルプルと頭を振って雪を払うエリス。


 私は茫然と雪の出てきた空間を見つめる。


「……エリス、これは……」


「んー、なんだろ……ま、やってみる。セイジ、離れないでね」


 ゲートの中は雪で埋まっている。エリスは片方の手を雪に当て、もう片方の手を反対側に広げた。


「——『放水の魔法』」


「……なるほど」


『放水魔法』、近くの水源から水を引っ張ってくる魔法だ。言うまでもなく雪は水。彼女は埋もれた雪を背後に放出しながらゲートに入っていく。


 彼女にぴったりと寄り添ってゲートを潜り抜けた私は、その先の光景を見て言葉を失った。



「……エリス、なんだこれは……」


「……わからない、何これ……」




 ——ゲートの先に広がっていたのは一面の銀世界。


 私の知る漁村は見る影もなく。


 全てが雪で覆われ、埋め尽くされていたのだった——。




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