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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第四章
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『父』と『母』の物語・二人 02 —会談—





 完成したこの温泉は、エリスの空間魔法で『魔女の家』に繋がっている。


 湯の中で、この五年の思い出に浸る私——。



 チャプ



 『魂』の気配を感じて目を開けると、目の前にエリスの顔があった。


「どうしたの、セイジ。ボーっとしちゃって」


「……ああ。君との幸せな生活を、噛み締めていたところだ」


「やだ、もう、恥ずかしいなあ!」


 パチッ。顔を上気させたエリスが私の肌をはたく。痛い。


「でもさあ」


 彼女はジャブっと私の横に移動してきて、肩を寄せた。私は静かに目を瞑る。


「……子供……なかなか出来ないねえ」


 そうなのだ。彼女と結婚してから五年経つが、まだ、私たちは子供を授かっていない。


 まあ一般的に、魔族と人間族の間に子供は少し出来にくいという話ではあるのだが——『約束』をした身だ。私は素直に彼女に謝罪をする。


「……ああ、すまない。私が不甲斐ないばっかりに……」


「……!……ううん! セイジはすっごい頑張ってると思うよ!」


「ンンッ!」


 そういう事を改めて言われてしまうと照れ臭さしかないが——まあアレだ。この家を子供たちでいっぱいにすると約束したのだ。まだまだいけるとは言え、残り時間を考えると一人目はそろそろ欲しいところではある。頑張るしかない。


「……まあ、温泉も子作りに良い影響を与えるという話もあるしな。早く君の子供の顔が見たいよ」


「ふふ。私はねえ、早くあなたの子供の顔が見てみたい!」


 私たちは顔を合わせて笑い合う。



 このように、私とエリスの幸せな日々は続いていたのだった——。








 サランディア城、貴賓室。


 この部屋で国王デメルトロイは、ある人物と向かいあっていた——。



「無理を言ってすまなかったな、デメルトロイ王。この場を設けてもらい、感謝をする」


「……構わないが用件はなんだ、ヘクトール卿。貴公と密会しているのがブリクセンに知られたら……」


 デメルトロイは眉間にシワを寄せ、不満を漏らす。



 向かいあっている彼はヘクトール、魔法国の代表人物である。


 そして——デメルトロイはヘクトールを睨む。


 ブリクセン国『北の魔女』ハウメアから、きつく言われているのだ。もしも魔法国が動きを見せた場合、些細なことでもいい、すぐに報告しろと。


 そのように暗に伝えるデメルトロイの言葉を聞いたヘクトールは、とぼけた表情で聞き返した。


「ブリクセンが、どうした?」


「……いや、なんでも——」


「失礼、言い直そう——」


 ヘクトールは、ほくそ笑む。


「——『遠くない内に滅ぶブリクセン』が、どうした?」


 目を大きく開くデメルトロイ。なんだ? この男は、何を言っている?


 冗談でも国のトップが言っていい言葉ではない。デメルトロイは慌てて部屋内を見回す。


 彼の腹心であるヒンガスは、デメルトロイ同様、困惑した表情を覗かせている。


 そして、ヘクトールの連れてきた魔法国の三つ星冒険者の女性は——表情一つ変えず、佇んでいた。


 デメルトロイはヘクトールに向き直り、深くため息をついた。


「……勘弁してくれ、ヘクトール卿。誰かに聞かれたらどうする。冗談でもそんなことを——」


「——ブリクセンは滅ぶ。『厄災』の力でな」


 言葉を遮り、きっぱりと言い切るヘクトール。その瞳からは真意がまったく読み取れない。デメルトロイは唾を呑み、彼の言葉を待つ。


 そのデメルトロイの様子を見たヘクトールは柔らかい笑みを浮かべ、彼に語りかける。


「ブリクセンだけではない、オッカトルもだ。『厄災』の力によってな」


「……ヘクトール卿……『厄災』とは……? いったい二国に、何が起こるというのか……?」


「それを説明する前に、一つ聞いておきたいが、いいかな?」


 神妙に頷くデメルトロイ。ヘクトールは彼の瞳を覗き込んだ。


「もしその二国が滅んだとして、だ。その時君は、何を感じる?」


 突拍子のない質問にデメルトロイは困惑するが、それでも回らない頭で必死に考える。


(……もし、二国が滅んだ場合……か。もしそうなったら……うん?)


 考え込むデメルトロイを見てヘクトールはほくそ笑み、その口から甘言を吐き出した。


「想像してみたまえ。もしその二国がなくなった時、その時こそ君は、本当の意味で『王』になれるのではないか?」


「………………」




 そうだ。せっかく王になり好き勝手できると思っていたのに、『西の魔女』はわざわざ非難しにやってきた。


 別に彼女を恐れているわけではない。本当に怖いのは——そう、彼女の背後にいるブリクセンとオッカトルを敵に回すことだ。


 それがある以上、デメルトロイは鎖を繋がれた飼い犬に過ぎない。


 だが、もし——もしも、その二国が滅べば——。




「——サランディアを私に預けてくれ、デメルトロイ王」


 思考は、ヘクトールの言葉によって引き戻された。その唐突な提案に、さすがのデメルトロイも眉をしかめる。


「……何を言っている」


「なに、君はこんな小国に留まる器でないのは明らかだ。このトロア地方……いや、世界の王となるべき人物だと私は評価している」


 真顔で語るヘクトール。いよいよ現実離れし始めた彼の物言いに、デメルトロイは鼻白んだ。


「……はん、馬鹿馬鹿しい。世界だと? そんなこと——」



「もし、『不老不死』の力が手に入るとしたら?」



 ——沈黙。



 しばらくその言葉を頭の中で反芻していたデメルトロイは、何とか言葉を絞り出す。


「……不老不死……だと?」


「ああ」


 ヘクトールは口端を上げた。



「与えるのは『不老不死』。見返りはこの『サランディア王国』。協力は惜しまない。共に世界を、支配しようじゃないか」




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