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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第三章
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『父』と『母』の物語・出会い 13 —『約束』—





 戦いも終わり、今、私とエリスは『魔女の家』の玄関前に二人並んで座っている。


 顔を赤らめながら押し黙っているエリス。


 私はというと——何故、あのようなことをしてしまったのかとグルグル考えていた。なんで唇を奪ったから勝ちなのか、我ながら理解に苦しむ。まあ、勢いだ勢い。


 私は真っ直ぐに景色を見ながら、エリスに語りかける。


「……君はさっき、『一人でも大丈夫』、そう言っていたね」


「……うん」


「なら何故、この家にはたくさんの部屋があるんだい?」


「………………」


 そうだ、彼女は言っていた。この家はドワーフに作ってもらったと。


 一人になることを決めて森に引きこもった彼女が、なぜこんなに大きな家を建てたのか。それは簡単だ。


「——エリス。君は望んでいたんじゃないか? 君の生活が、一人じゃなくなる日を」


「……うん。そう、なのかも。私、こう見えて、寂しがり屋なんだ」


「知ってるよ」


 小鳥のさえずる音が聞こえてくる。もう初夏に近い頃合いだ。風が心地よい。


「そういえば、エリス。確か言っていたな。『勝った方の言うことを聞く』って」


 エリスが唾を飲み込む音が聞こえてくる。私も緊張してしまうが——大丈夫だ。気持ちは、通じ合っているはずだ。



「エリス。私と一緒に暮らす気はないか?」



 彼女の肩がピクッと揺れる。少し沈黙したのち——エリスはつぶやいた。



「……でも、セイジ……私を置いて、先にいなくなっちゃうんでしょ?」



「……ああ。おそらくは」



 エリスの目尻が再び濡れる。人間族と魔族の寿命の差。こればかりは絶対に、覆せない。


 たが——私は続ける。



「……エリス。私も出来るだけ長く生きようとは思うが、いずれは君を残して逝くことになるだろう」


「……なら……」


 言いかける彼女の言葉を、私は遮る。


「——心配するな、エリス。その頃には君は、私のことなんか構っていられなくなるぞ?」


「……そんなことない、と思う。私は……セイジを……」


 私は彼女の目を、真っ直ぐに見た。



「その頃にこの家は、私達の子供でいっぱいになっているはずだ」



 エリスは目を大きく開き私を見つめ返す。そんな彼女の表情を見て、私は微笑みを浮かべた。


「……こんなに部屋があるんだ。きっと、とても騒がしくなるんだろうな。それにそれだけ人がいたら、お手伝いさんも雇わなきゃいけないかもなあ」


「……ふふ。ねえ、セイジ。どれだけ頑張る気なのかな?」


「ンッ!」


 ジト目で私のことを見るエリスに、私は思わず咳き込んでしまう。まあ確かにそうだとはいえ、今は切り離して考えて欲しかったが——。


 だが——いつものエリスの調子が戻ってきたのは、確かだった。


 エリスは優しい瞳で私のことを見つめる。



「じゃあ……約束してくれる? 一つは、出来るだけ私と一緒にいてくれること。そして——」



 彼女は家の方へと首を向けた。



「——この家を、私たちの子供たちでいっぱいにするの。もしセイジがいなくなっちゃっても、私が寂しさを感じる暇がないくらいに」



「はは、努力する……いや、『約束』するよ、エリス」




 心地よい風が、花々を揺らす。


 しばらく、ほんの少しの間、はにかみながら顔を合わせていた私たちは——




 ——再び唇を、重ね合わせるのだった。






お読みいただきありがとうございます。


これにて第三章完。第四章も引き続きお楽しみいただければ幸いです。よろしくお願いします。


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