『父』と『母』の物語・出会い 13 —『約束』—
戦いも終わり、今、私とエリスは『魔女の家』の玄関前に二人並んで座っている。
顔を赤らめながら押し黙っているエリス。
私はというと——何故、あのようなことをしてしまったのかとグルグル考えていた。なんで唇を奪ったから勝ちなのか、我ながら理解に苦しむ。まあ、勢いだ勢い。
私は真っ直ぐに景色を見ながら、エリスに語りかける。
「……君はさっき、『一人でも大丈夫』、そう言っていたね」
「……うん」
「なら何故、この家にはたくさんの部屋があるんだい?」
「………………」
そうだ、彼女は言っていた。この家はドワーフに作ってもらったと。
一人になることを決めて森に引きこもった彼女が、なぜこんなに大きな家を建てたのか。それは簡単だ。
「——エリス。君は望んでいたんじゃないか? 君の生活が、一人じゃなくなる日を」
「……うん。そう、なのかも。私、こう見えて、寂しがり屋なんだ」
「知ってるよ」
小鳥のさえずる音が聞こえてくる。もう初夏に近い頃合いだ。風が心地よい。
「そういえば、エリス。確か言っていたな。『勝った方の言うことを聞く』って」
エリスが唾を飲み込む音が聞こえてくる。私も緊張してしまうが——大丈夫だ。気持ちは、通じ合っているはずだ。
「エリス。私と一緒に暮らす気はないか?」
彼女の肩がピクッと揺れる。少し沈黙したのち——エリスはつぶやいた。
「……でも、セイジ……私を置いて、先にいなくなっちゃうんでしょ?」
「……ああ。おそらくは」
エリスの目尻が再び濡れる。人間族と魔族の寿命の差。こればかりは絶対に、覆せない。
たが——私は続ける。
「……エリス。私も出来るだけ長く生きようとは思うが、いずれは君を残して逝くことになるだろう」
「……なら……」
言いかける彼女の言葉を、私は遮る。
「——心配するな、エリス。その頃には君は、私のことなんか構っていられなくなるぞ?」
「……そんなことない、と思う。私は……セイジを……」
私は彼女の目を、真っ直ぐに見た。
「その頃にこの家は、私達の子供でいっぱいになっているはずだ」
エリスは目を大きく開き私を見つめ返す。そんな彼女の表情を見て、私は微笑みを浮かべた。
「……こんなに部屋があるんだ。きっと、とても騒がしくなるんだろうな。それにそれだけ人がいたら、お手伝いさんも雇わなきゃいけないかもなあ」
「……ふふ。ねえ、セイジ。どれだけ頑張る気なのかな?」
「ンッ!」
ジト目で私のことを見るエリスに、私は思わず咳き込んでしまう。まあ確かにそうだとはいえ、今は切り離して考えて欲しかったが——。
だが——いつものエリスの調子が戻ってきたのは、確かだった。
エリスは優しい瞳で私のことを見つめる。
「じゃあ……約束してくれる? 一つは、出来るだけ私と一緒にいてくれること。そして——」
彼女は家の方へと首を向けた。
「——この家を、私たちの子供たちでいっぱいにするの。もしセイジがいなくなっちゃっても、私が寂しさを感じる暇がないくらいに」
「はは、努力する……いや、『約束』するよ、エリス」
心地よい風が、花々を揺らす。
しばらく、ほんの少しの間、はにかみながら顔を合わせていた私たちは——
——再び唇を、重ね合わせるのだった。
お読みいただきありがとうございます。
これにて第三章完。第四章も引き続きお楽しみいただければ幸いです。よろしくお願いします。




