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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第三章
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『父』と『母』の物語・出会い 12 —エリスの想い—





 あの日、彼は、退屈な日々を送る私の前に突然現れた。


 蜘蛛の巣に掛かって、照れくさそうに笑う彼。



 ——『……エリス……あなたがエリスさんか。ああ、あなたの名前はナーディアさんから聞いているよ』



 話には聞いていた。オフィーリアやナーディアが拾ったという、別の世界から来た子。


 そっか。もう、こんなに大きくなってたんだ——。







「——では、行くぞ、エリス。本気でかかってきてくれ」



「……うん」







 私の『知りたい』という欲が、疼かないわけがなかった。


 私は彼を、自分の家へと誘う。



 ——『エリスでいいよー。大丈夫、私一人暮らしだから。ささ、セイジ、こっちこっち!』



 何百歳も歳下の子。そう、ただ保護してあげるだけ。仲良くなる前に別れれば済むだけの話だ。







 彼は手加減する様子もなく、私に向かってくる。



「——どうした、エリス。あの日の君の動きは、こんなもんじゃなかったはずだ」



「……わかってる……わかってるよ」







 彼は私の手料理を、それはもう美味しそうに食べてくれた。


 嬉しかった。


 そしてそれをきっかけに始まる、彼のいた世界の話。


 新鮮だった。


 当たり前だけど、私の知らない話がいっぱいだった。


 でも、それを差し引いても、彼の話し方の上手さ、そして知識量の多さに私は驚いた。


 だから私は——はしたない女だと思われるかもしれなかったけど、彼の部屋に布団を運び込んだ。



 ——『私、ここで寝るから。寝るまでお話の続きしようよ!』






 彼の猛攻は続く。私の『揺らぎの魔法』はタネが割れてしまっている。


 でも、それでも——私は彼の戦いたいという想いに、応えることにした。



「——『蜃気楼の魔法』」






 彼がドワーフの集落に行く日。


 この時にはもう、私の欲求は抑えられないでいた。


(……もう少しだけこの人と、一緒にいたいなあ)


 そう、これで最後なんだから。私は私にそう言い聞かせ、彼との同行を申し出る。


 彼は困惑していたようだったが、快く了承してくれた。やった!


(……あれ? なんで私、こんなに嬉しいんだろ)


 そしてマッカライさんに告げられた、刀が出来るまでの期間『三ヶ月』。ダメだ、抑えきれない。私は彼から、もっと話を聞きたいのだから。



 ——『セイジ! もっといっぱいお話できるね!』


 ——『……迷惑じゃなければ、是非……』



 飛び跳ねたくなるほど嬉しかった。けど、そのあと彼に、あんなに弱い姿を見せてしまうなんて——。






 彼の振るう木刀が、私との距離を測りかね空振りをする。


「……どうしたの、セイジ。私に、勝つんでしょ?」


「……ああ、勝ってみせるさ」






 弱さを見せた私に、彼は『私を頼れ』と言ってくれた。


 本当に嬉しかったんだよ、セイジ。


 調子に乗って一緒の布団に誘っちゃったけど、でも彼は私が眠りにつくまで話に付き合ってくれた。


 手を出されてもしょうがないと思っていたけど、彼は誠実なのかな? 嬉しいような、少し残念なような——。


(……残念?)


 私は自分の気持ちを自覚し、ショックを受ける。


 そっか。私はこの人のことを——好きになったんだ。






「——『空弾の魔法』」


 私の放った魔法をかわしきれずに、吹き飛ぶセイジ。


 けど彼は、口角を上げながら立ち上がってきた。


「……そう来なくっちゃな。さあ、エリス。全力を尽くしてくれ!」






 これ以上、好きになっちゃいけない。


 だって私は、人間族は好きにならないって決めているから。


 もし一緒になってしまったら、あなたも私を置いていってしまうだろうから——。



 それからの私は、彼の身体に触れないように気をつかった。


 夜、彼の部屋に行くのも我慢した。


 昼間、お話をしているだけで十分。それで私の欲求は満たされるのだから——。


 そう思っていた。


 でも、おかしい。日に日に胸が苦しくなっていく。なんでだろ、こんなはずじゃなかったのになあ——。






「……もう、やめようよ」


 傷つく彼の姿を見て、私は声を漏らしてしまう。


 セイジの木刀は私に何回か届いているけど、私には『身を守る魔法』が掛かっている。それがある以上、私の勝ちは揺るがない。


「……はは。舐めるなよ、エリス」


 それでも彼は——目を輝かせ、私に向かってきた。





 彼と出会ってから三ヶ月、別れの日だ。


 別れがこんなに辛いものだなんて、久しぶりに思い出した。


 依頼していた刀が届いてからは、彼と時間を共有しないように頑張った。お話をしたら、別れたくなくなってしまうから。


 冷たい態度になってしまっているのは分かっている。でも、私とあなたは一緒になれない。だから、行って。そして、もう二度と——。




 ——『——あの男には帰ってくる場所が必要だ。もし好きなんだったら、しっかりと掴んで、絶対に手放すんじゃないよ』




 ふと、レティさんの言葉が記憶に蘇った。



 私は——



 ——泣きながら、彼の服の裾を掴んでいた。






 セイジは私の空弾をかわしながら迫って来る。『蜃気楼の魔法』で狂わしたはずの距離感も見切られている。すごい対応能力だ。



 かわしきれない——。


 まあ最後だし、一発くらいまともに食らってあげてもいいか——そう一瞬、ほんの一瞬私が気を緩めた時だった。



「甘いぞ、エリス」



 セイジが、つぶやいた。



 そして彼は腕を伸ばし——。




「……えっ?」





 頭が真っ白になる。



 彼の腕が、私の首の後ろにまわる。



 そして——私の唇に、暖かいものが触れた。




 何が起こったのかを理解し、木刀を落としてしまう私。



 彼は少しだけ唇を離し、私の耳元で囁いた。



「……体内は『身を守る魔法』の対象外だったよな。なら、エリス。私の勝ちだ」




 頭が痺れ、何も考えられなくなった私は——




 ——気がつけば彼の顔を引き寄せ、唇を奪い返していた。




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