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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
第七部 第三章
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『父』と『母』の物語・出会い 01 —迷いの森のエリス—









 少女には『父』がいた。




 少女には『母』がいた。




 涙が一粒、ポタリと落ちた。









「……エリス……あなたがエリスさんか。ああ、あなたの名前はナーディアさんから聞いているよ」


「やっぱり! あなたなんだ、オフィーリアやナーディアが拾った子って!」


 彼女は胸の前で手を合わせ、目をキラキラと輝かせている。


 彼女——『西の魔女』エリスの名前は、オフィーリアさんやナーディアさんから聞かされ知っていた。そうだ、確かこの森に住んでいるんだったか。


 そしてどうやら向こうも私のことを知っているらしい。口ぶりから察するに、オフィーリアさんかナーディアさんが私のことを話に出したのだろう。


 ——それにしても、つくづく私は魔女に縁があるんだなあ。


 そんなことを思いながら、私は再び彼女に頭を下げた。


「本当に助かったよ、ありがとう。しかしこんな真っ暗な中、よく私がいることに気づいたね」


「あー、それねー……結界に反応があったから探してたんだけど……」


 そこまで言って、彼女は襟を正した。


「ねえ、セイジ。私に何かご用なのかな?」


 ……? 何を言っているのか分からない。彼女がこの森に住んでいるのは今さっき思い出したばかりだし。


 私は包み隠さず彼女に説明をすることにした。


「いや、私はドワーフ族の知人の元を訪れようとしていたんだ。でも情け無いことに道に迷ってしまったみたいでね」


「ああ、ドワーフの。そっかそれでか。でも……場所は知らなかったの?」


「ん? あ、いや、もらった地図を見ながらだけど……この地図なんだが……」


 私は彼女に地図を差し出す。それを受け取った彼女はまじまじと地図を眺め——やがて、「あっ」と声を漏らした。


「ねえねえ、セイジ。あなたもしかして、北の方から来たりした?」


「……そうだ、よく分かったね。つい先日までこの森の北の方に滞在していてね。壊れた武器を直してもらおうと三日ほど前から……」


「あちゃー」


 ちょっと待て、『あちゃー』ってなんだ。私の視線に気づいたのか、彼女は咳払いをして続ける。


「……あの、ごめんねセイジ。この地図通りサランディアルートから入れば迷わずにたどり着けたはずなんだけど……」


「けど?」


「……あはは。この地図だと北からのルートが乗ってないから、正確な場所知らないと私の張った結界が邪魔して一生たどり着けないかな、なんて……」


 沈黙。風が木々を揺らす音だけが聞こえる。


 私は彼女の言葉を噛み砕き——やがてその場に突っ伏した。


「……マッカライさん……そういうことは先に言っといてくれ……」


「あ、知人ってマッカライさんなんだ。じゃなくてっ。ごめんなさい、ごめんなさい、私の結界のせいでっ!」


「……いや、エリスさんは何も悪くないよ……確認しなかった私のせいだ」


 力なくヨロヨロと立ち上がる私。そうか、だから『迷いの森』なのか……。


 まあ、結界を張ったという彼女なら正規ルートも分かるだろう。


「……では、エリスさん。すまないが道を教えてくれると助かる。あと、申し訳ない。もし携帯食があれば分けて欲しいのだが……」


「ん?」


「ん?」


 不思議そうに首を傾げる彼女。もしかして携帯食の申し出は厚かましかったか。いや、そもそも彼女は森の中に定住しているのだ。携帯食なんて無縁の生活を送っているのかもしれない——。


「何言ってんの、あなたボロボロだよ? 私の家においでよ。迷わせちゃったお詫びもしたいし」


「……え、いや……エリスさん。気持ちはありがたいが、それは迷惑ではないかな……」


「エリスでいいよー。大丈夫、私一人暮らしだから。ささ、セイジ、こっちこっち!」


「……は? え……ええっ!?」


 促されるままに私は彼女についていく。


 柄にもなく一人暮らしという言葉に反応してしまったが、彼女は『魔女』だ。きっと親切心から言ってくれているに違いない。


 それに、魔女にしてはまともそうな人だし——。


 私はナーディアさんやセレスさんを思い返し、苦笑しながら彼女の後をついていくのだった——。







「さ、たんと召し上がれ!」


「……おお」


 目の前に出された湯気の立つ料理に、私は感嘆の息をつく——。





 空腹と疲労でフラフラと後をついてくる私を見かねたのか、家につくなり彼女は「ちょっと待っててね!」と言い残してリビングから出て行った。


 手持ち無沙汰になった私は、部屋の中を見回して時間を潰す。


 ここは私が助けられたところからそんなに離れていない、ロッジ風の建物だ。


 室内の家具や建具は多くが木材を基調として作られており、温かみのある空間を作り出している。


 私は木材の心地よい香りに包まれながら、落ち着きなく彼女を待つ。いや待て。なんで私はソワソワしているんだ?


 そして三十分くらい待っただろうか。美味しそうな匂いと共に、彼女は料理を持って戻ってきたのだった——。




「……これは、エリス。あなたが?」


「そうだよー。お口に合うかわからないけど、お腹空いてるんでしょ? よかったら食べてみて!」


 目の前に並べられているのはハーブをまぶして焼いた肉に野菜のスープ、それにチーズが練り込まれているパンだ。その食欲をそそる香りに反応し、私のお腹がぐうと鳴る。


 しかしだ。いくら『魔女』とはいえ、行きずりの私に優しすぎやしないか。だが、空腹には抗えない。私は唾を飲み込み、手を合わせた。


「……いただきます」


 私は料理を口に含む。うん、美味しい。見た目から想像した通りの味だ。


 彼女の手前、がっつくのを我慢しながらも私は料理を堪能する。久しぶりのまともな料理ということもあってか、自然と顔が綻んでしまう。


 そのように舌鼓を打ち頷きながら食べる私を見て、彼女はニコニコしながら身体を横に揺らしていた——。





「ご馳走様でした」


 綺麗に平らげた皿を前に、私は手を合わせる。


 食事をする私の様子をずっと眺めていたエリスは、身を乗り出して私に尋ねてきた。


「どうかな? 美味しかったかな?」


「ああ、見ての通りだ。こんな美味い食事は久しぶりだったよ」


「よかったあ!」


 彼女は嬉しそうに微笑んでいる。私は彼女に頭を下げた。


「本当に、ありがとう。すまない、食事までご馳走になって……」


「ううん、いいのいいの。ところでなんだけど——」



 彼女は微笑みを浮かべながら、私のことを目を細めて見つめた。私は唾を飲み込み彼女の言葉の続きを待つ。



「——さっき食事の前に『いただきます』って言ってたけど、あれは何? 詳しく教えてよ」



 ——エリスの瞳が、キラリと輝いたように見えた。




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