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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第二章
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『父』の物語・冒険 10 —リベンジ—








 ここは誠司が寝ぐらにしている、近場の洞穴内。


 ノクスとミラは夜営の道具をこちらに運び込み——今、誠司に詰め寄っていた。


「おい、セイジ。お前さん、どういうことか説明してくれんだろうな?」


「そうよ、何よアレ! なんであんなのと戦ってるの!?」


 二人の剣幕に仰け反る誠司。彼は苦笑いを浮かべながら、沸かしたお湯をすする。


「いや、なんで戦っているかといえば……まあ、腕試しだな。どうだい、彼は強かっただろう?」


 呑気に尋ね返す誠司の様子に、顔を見合わせてため息をつくノクスとミラ。


 二人は先ほどの戦いを思い返す。





 ヴァナルガンドが天に駆け上がり遠吠えをした直後——想像もしていない現象が三人に襲いかかった。


 一つ目の遠吠えで彼の周囲に青白い炎が次々と浮かびあがり、二つ目の遠吠えでそれは降り注いできた。


 必死に避け続ける三人。それは何とか躱しきれたのだが——遠吠え三つ目。今度はヴァナルガンド自身が巨大な火の玉となって降ってきたのだ。


 全力で逃げる三人だったが、衝突の余波で吹き飛ばされてしまい——気がつけば、地面に転がっている三人をドヤ顔で見下ろすヴァナルガンドの姿がそこにはあったのだった。





 ノクスはあぐらの上に肘をつき、悔しそうに眉をしかめる。


「……ありゃ、反則だろ。アレがなきゃ、何とかなってたかもしんねえのにな。どうしたもんか……」


「え?」


「いやあ、私一人では全然隙がつくれなくてね。君たちとなら或いは、と思ったんだが……それほど甘くはなかったか。対策を練る必要があるな」


「え?」


 男二人の会話に理解が追いつかないミラ。ため息をつく彼らに向かって、彼女は身を乗り出した。


「あの、二人ともちょっと待って。セイジさん、あなたが腕試しをしているのは分かりました。それで、なんで私たちが巻き込まれてるの?」


「……ん? いや、ミラさん。君も見ただろう、彼の強さを。悔しいが私一人では勝ち筋が見えなくてね。だから付き合ってもらったんだが……」


「え、あの、勝つ必要があるの?」


 ミラは呆けた表情で尋ね返す。誠司は首を傾げ、考え込む。


「……勝つ必要……と言われれば、まあその必要はないが……もしかして、迷惑だったかな?」


 その顔に申し訳なさそうな表情を浮かべる誠司。よかった、話せば分かりそうな人で——。


 ノクスが憮然と口を開く。


「迷惑なんかじゃねえ。それより次は負けねえぞ。セイジ、ヴァナルガンドについて教えろ」


「ノクス!?」


 ミラは思わずすっとんきょうな声を上げてしまう。なに? なんで再戦する流れになってるの?


 二人の注目を集めるミラは、咳払いをしてノクスに向き直った。


「ノク……ベッカー団長。私たちの任務をお忘れですか?」


「おう、どうしたミラ。急に改まって」


「私たちの任務は、『空が青く輝く原因の調査』ですよ? 目的は達成されたのでは?」


 ミラは半目でノクスを睨む。その視線を受けたノクスは気まずそうに髭面をかいた。


「ああ、まあそうだが……なあ、セイジ。お前さん、俺らがいなくなっても奴と戦うんだろ?」


「……すまないね。私は彼に、せめてひと泡吹かせるまではやるつもりだ」


「なら、青い光は止まねえな。つー訳だ、ミラ。俺はセイジに協力する。お前さんはここで待ってろ」


 ノクスの返答を聞き、頭を振るミラ。彼女は息を吐いて、半ば呆れた目でノクスを見つめた。


「……ねえ、それは答えになってないわ。私が聞きたいのは、何で任務を放棄してまで戦おうとするの、ってこと」


 ジッと覗き込むミラの視線に耐えられなくなったのか、ノクスは助けを求めるように誠司の方を向く。


「……だって、なあ、セイジ。強いヤツがいたらなあ?」


「ああ。普通、倒してみたくなるもんだろう?」


「………………」


 何故だか意気投合したっぽい二人を見て、ミラは沈黙する。そして突如、荷物からチョコレートを取り出してバリバリと食べ始めた。


 それを見たノクスの顔から血の気が引いていく。


「ミ、ミラ? 怒ってんのか?」


「おふぉってまふぇんっ!」


 チョコレートを口に含みながらミラは怒鳴り返す。キョトンとその光景を見る誠司に、ノクスが顔を寄せてこっそり耳打ちをした。


「……ミラはなあ、不機嫌になるとヤケ食いをするんだ……」


「……なるほど。何か気に障るようなことを言ってしまったかな……」


「きふぉえてまふっ!」


 ミラの恫喝にビクッとなる二人。やがてゴクンとチョコレートを飲み込んだ彼女は、口の周りについたチョコレートをハンカチで拭き取りながら静かに目を閉じた。


「失礼、取り乱しました。つまりあなた方は、『そこに山があるから』、『そこに洞窟があるから』みたいなノリで、ただ『そこに強いヤツがいるから』戦って勝ちたいと思っている、そういうことなのですね?」


「……お、おう。まあ、そういうこと……か?」


「……すまない、ミラさん。改めて言われると恥ずかしいが……そういうことだ」


 今や正座をしてミラの顔を窺い見る男二人。ミラは目を開け、ノクスに問いかけた。


「ねえ、ノクス。それはあなたにとって、任務よりも優先されることなの?」


 その質問を聞いたノクスは。大きく、頷いた。


「ああ。王の当てつけの任務なんかよりは、よっぽどな」


 真っ直ぐな視線。聞くまでもなかった。ミラは彼の眼差しを受け止める。


 ——それはただ、ミラの隣に立ちたいため。力をつけたいため。彼女を守ってやれる男になるため。そして、彼女に格好いいところを見せたいため——。


 口にこそ出してくれたことはない。だが、この不器用な幼馴染の想いを知っているミラは、彼から目を逸らしてつぶやいた。


「——まったく、しょうがないわね。わかりました」


「……ミラ!」


 まるで子供のように目を輝かせるノクスを見て、ミラは頬を緩め応えた。



「——やるからには勝つわよ、ノクス。私に格好いいところ、見せてちょうだいね」






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