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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第二章
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『父』の物語・冒険 06 —始祖たる存在—






 火竜との戦いから半年後、帝都ブリクセン——。



 私はその日、彗丈がこの街で開く店、『人形達の楽園』を訪れていた。


「やあ、彗丈。なかなか立派な店構えじゃないか」


「……誠司、ありがとう。君のおかげだ。すまない、何から何まで世話になって……」


「気にするな、大変なのはこれからだ。しっかりやるんだぞ?」




 彗丈が店を開くにあたり、開店に必要な資金は私が全部面倒を見た。


 冒険者稼業で荒稼ぎをしているとはいえ、さすがに少し手痛い出費だったが——唯一の同郷人の夢は叶えてあげたいし、何よりこの一年半、彗丈とは楽しい時間が過ごせたのだ。応援してやりたい。


 まあ実のところ、半年前の火竜との戦いの後、何故かオッカトル国名義で私のギルドカードに莫大な報酬が振り込まれていたので、それほど問題ではなかった。


 更には『三つ星冒険者』への推薦もあったらしいが——分不相応だ、こちらは慎ましく辞退させてもらった。




 彗丈は私に、深く頭を下げた。


「……ありがとう、誠司。自分だけの店を持ち、何の気兼ねもなく人形を作り、自分の作った人形を売る……これは本当に、僕の夢だったんだ……」


「はは、だから気にするな。そのかわり、後はしっかり自分でやること。まあ彗丈の作る人形なら、大丈夫だろ。旅先で宣伝しといてやるよ」


「……ありがとう……誠司、困ったことがあったら相談してくれ。僕が力になれることなら、何だってするから」


「ああ。その時は、よろしく頼むよ」


 私たちは固い握手をする。


 椿 彗丈。元の世界ではフィギュア原型師。


 彼の作る人形は、これから人々の生活にささやかな潤いを与えていくのだろう。


(……頑張れよ、彗丈)


 私はこの地ブリクセンで、同郷人である彼と一時の別れを告げるのであった。







 私は冒険者ギルドへと足を運び、一時的にパーティを組んでいた彼らがいるかと覗いてみる。


 果たして彼らは——いた。


 私は彼らのテーブルに、エールを持ち込み相席した。


「やあ。彗丈の店の件、全て終わったよ」


「ふん、そうか。ならセイジ。お前はこれからどうするんだ?」


 エールを流し込み私に問う彼は、狼の顔を持つ獣人族のボッズ君。『巨鳥殺し』の異名を持つ三つ星冒険者だ。


「さあ、どうしたもんかねえ。ボッズ君、何か面白い話はないかな?」


「そうだな、うーん……」


「あ、じゃあ洞窟探索行きましょ、探索! まだ見ぬ洞窟が、ウチらを待ってますって! ぷはー」


 そう言ってクピクピとエールを美味しそうに飲むのは、言わずもがなのジュリ君だ。ケルワンからなんか付いてきた。


「はは。まあ、君たちとの冒険は楽しかったけどね。特にボッズ君からは、色々なことを学ばせてもらった」


「いや、セイジよ。オレの方こそいい刺激になったぞ。まだ若いのに大したもんだな」


「……まったく、このクソ狼、すーぐ先に行っちゃうんっすから……ウチとセイジさんがいなきゃ、のたれ死んでたっすからね!」





 私たちはここ半年近くの思い出話に花を咲かせる。


 彗丈が出店の準備をする中、私たちはパーティを組み、主にジュリ君主導の元でここブリクセン近郊にある洞窟の未踏破エリアの開拓を進めた。


 楽しかった。


 身体能力に任せたボッズ君の戦闘スタイル、ジュリ君の危機回避能力、いずれも感心するばかりだった。


 未開拓の場所を踏破するという高揚感。それに洞窟以外にも、遠征の際に訪れた『万年氷穴』。氷穴の中に広がる幻想的な街並みに、私は心を奪われたりもした。


 この半年間、彼らと過ごした経験——私は確かに、『冒険』をしていたんだなとしみじみ感じる。


 このまま彼らと共に、この場所で冒険者稼業を続けるという道も考えた。


 しかし私は、この冒険を経て欲が出てしまったようだ。『更なる冒険がしたい』と。


 それに、私はまだオフィーリアさんの言っていた『運命の申し子』に出会えたという実感がない。


 出会えたとしても気づかないかも知れない。私の前には現れないのかも知れない。だが、もしも出会えた時、その人を、教え、助け、導いてあげられるような強さを身につけなくては——その為に私は、冒険し続ける。




 数時間ほど語り合っただろうか。すっかり酔いの回った——ならよかったのだが、未だに素面である私たち三人は、何度目になるか分からない締めの一杯を注文する。なんで酔わないんだろう、この二人。


 そんな中、ふと、ボッズ君が思い出したかのように口を開いた。


「なあ、セイジ。そう言えばお前、これからどうするか決めてないんだったな」


「ああ、そうだが……」


「……セイジよ。強い相手と戦いたいか?」


 ボッズ君の問いに、私はジョッキを飲み干して答える。


「言うまでもない、だろ?」


 私の返答を聞き、口角を上げるボッズ君。真似をしてニヤリとする私。ジュリ君は「まあた始まった」と肩をすくめている。


 運ばれてきた締めの一杯を飲みながら、ボッズ君は私を見据えた。


「セイジ。オレ達獣人族のルーツが、ここ、ブリクセンの西の方だということは知っているか?」


「……ああ、聞いたことがある、ような……」


 確か彼らの住む西方の集落に巨鳥が現れ、それを退治したのがボッズ君だということだ。その話はこの半年間で何回か聞いたことがある。


「それで、だ。そのオレ達獣人族には『始祖』と呼ばれる存在がいる。オレ達獣人族にとっては神にも等しい存在、手を出すことは許されないが……どうやら始祖様は、常に戦いを欲しているらしい」


「そんな存在が……本当にいるのか?」


 私は半信半疑ながらもボッズ君の話に耳を傾ける。その隙にジュリ君が私の締めの一杯を飲みやがった。くそ、追加だ、追加。


 ジュリ君を睨んでいる私に向かって、ボッズ君は大きく頷いてみせた。


「ああ。『始祖』はオレ達の集落の南方にいる。サランディア領、西の森。通称『迷いの森』と呼ばれている場所だ——」



 彼は口の周りに泡をつけ、ニィと笑った。



「——『神狼ヴァナルガンド』。それがオレ達の、始祖の名前だ」





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