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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第二章
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『父』の物語・冒険 05 —星に誓って—






「やあ、二人とも、ただいま」


 衣服屋に頼んでいたものを受け取って着替えてきた私は、いまだに酒を酌み交わしている二人に声を掛ける。


「……あ、セイジさんおかえりっす……って、なんすかその格好」


「おっ、誠司。結構似合ってるじゃないか」


「はは。どうだい彗丈、懐かしいだろう?」


 私は腕の袖をピンと引っ張って二人に見せる。ジュリ君はしばらく首を傾げていたが、やがて頷いた。


「うん。確かに通気性がよくて動きやすそうっすね。これ、セイジさんの国の服っすか?」


「ああ、そうだ。これは『作務衣』といってね。どうだい、これを着ていれば、私が私の国から来たことがわかるだろう?」


 そう。私は彗丈と出会えたことにより、この世界には他にも転移者がいるんじゃないかと考えた。


 なので私はアピールをすることにした。この世界には存在しないであろう『作務衣』。これを着ていれば、もし私たちの他に転移者がいた場合、ひと目見れば私の素性に気づくかも知れない、と。


 彗丈が感心したように頷く。


「そうだね、どこから見ても日本人だ。間違いなく、同郷人が見たら気づくだろうね。それに誠司。眼鏡も作ってもらったんだね」


「ああ。最近、視力が落ちてきていてね。まあ、わかってはいた事だが……ンッ」


 私は元の世界の話をしようとしたが、ジュリ君の手前、咳払いをして誤魔化す。別に転移者だということを隠したい訳ではないが、突拍子もない話だ。信じてもらえるかわからないし、何より説明するのが面倒くさい。


 だから私と彗丈は『東方の同じ国の出身』と、普段そう周囲には説明してある。


 そんな私の様子を気にすることもなく、ジュリ君は私たちに尋ねた。


「それでお二人さん、今後のご予定は? 次の街に行っちゃうんっすか?」


「そうだな。彗丈が店を出したいみたいでね。あと数日ほど滞在したら、ブリクセンの方に向かおうと思っている」


「あー……セイジさんの魔物のいる場所がわかる力、助かるんっすけどねー。ま、そういうことなら仕方ないっす。じゃ、ちゃんとした店で飲み直しましょっか。火竜の話も聞きたいし。ささ、早く早く!」


「ああ。私も全然飲んでないしな、行こうか」


「……二人とも、まだ飲むんだね……」


 こうして私たちは冒険者ギルドを後にする。


 私は夕焼け空を眺め、思い返す。火竜との戦いを。


 竜は、強かった。私はまだ未熟だ。もっと、もっと強くならなくては——。


 気持ちの良い作務衣の着心地を肌に感じながら、私は決意を新たにするのだった。








 その夜の冒険者ギルド。そこに、まるでドレスに着せられているような姿の女性が訪れた。


 従者を一人引き連れた彼女は周囲をキョロキョロと見回した後、受付嬢に話しかける。


「あの、ちょっといいかしら?」


「セレス様!……どういったご用件でしょう……?」


 周囲の冒険者の視線が集まる。『東の魔女』セレス。この国の指導者だ。そんな彼女が、なんでここに——。


 そのように注目を浴びる中、セレスは声を潜めて受付嬢に問いかけた。


「……あの……二つ星冒険者のセイジ、っていう人は……いる?」


「……セイジさん、ですか……」


 受付嬢はギルド内を見渡して、困った顔を浮かべた。


「夕方くらいまではいたのですが、その後は……」


「……そう。ねえ、教えて。どんな人? 経歴は? どこに宿をとっているのかしら?」


「あ、あの、いくらセレス様でも、冒険者の個人情報をお教えするワケには……」


「マッケマッケ。法改正の準備を」



 ——スパーン!



 マッケマッケのハリセンがセレスを打つ。


「セ、レ、ス、様ぁ!? 私情で国を動かさないでください! それにギルドは中立だから意味ないですよっ!?」


「……いたた。でもね、マッケマッケ、でもね……グスン」


 乙女の表情で口を尖らせるセレス。マッケマッケは深く息を吐き、受付嬢に謝罪をした。


「すいません。居合わせればと思い覗いてみただけなんで。今、連れて帰りますねえ」


「は、はあ……」


 キョトンとする受付嬢。マッケマッケはセレスを引きずって、冒険者ギルドを後にする——。



「ほら、セレス様。ちゃんと歩いて!」


 涼やかな夜風が吹く中、マッケマッケに促されてようやくセレスは真っ直ぐ立った。そして決意を込めた眼差しで、空を見上げる。


「……マッケマッケ……私、決めたわ」


「はい?」


「……私……私、あの人に相応しい女になってみせる。そして、もし次に出会えた時……私、あの人に交際を申し込むわ……あの星に誓って!」


「は、はいっ!? どの星ですか!?」


 話が飛躍し過ぎてついていけないマッケマッケ。セレスは星空を見上げ、目を輝かせている。


「……だからマッケマッケ。協力してちょうだい。私の、花嫁修行に!」


「……え。ああ、はいはい。はあ……セレス様って、超がつくほどの恋愛脳だったんですね……」


「ん? 何か言ったかしら、マッケマッケ」


「……いえ、なんでも」


 まあ一時的なものだろう。マッケマッケは適当に相づちを打つ。


 しかし、まさかセレスが本気の本気だったとは。


 彼女に付き合わされるマッケマッケはその後、身を持って知ることになるのだが——それはまた、別の話である。





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