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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第七部 第二章
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『父』の物語・冒険 04 —命長けど恋せよ乙女—






「お帰り、誠司。大丈夫だったかい?」


「ああ、彗丈。何てことはなかったよ」


「……いや、セイジさん、血まみれっすけど……」


 ギルドへと戻ってきた私は、隅で酒を酌み交わす二人に声を掛ける。


 小柄な女性はハーフエルフのジュリアマリア。私と同じく、二つ星冒険者だ。


 彼女の護衛の依頼を受け、私と彼女はこの街から近いところにある洞窟まで出向いていた。そう、彼女はトレジャーハンターなのだ。


 成果は上々。無事に探索を終え、私たちはこの街に帰ってきてひと休みしようとしていた。その矢先、先ほどの火竜騒動が起こったという次第である。



 そしてもう一人の男。彼の名は『椿 彗丈』。なんと私と同じ、日本からの転移者だ。


 彼との出会いは一年前。ここケルワンから南にある街の近くで倒れていたところを、冒険者に見つけてもらい保護されたらしい。



 ——『何やら聞いたことのない言葉を話す者がいる』。



 その噂を耳にした私は、一抹の期待を胸に抱きその街を訪れてみた。


 顔を合わせた私たちは驚いたものだ。まさか、この世界に日本から転移してきた者が他にもいたなんて——。



 久しぶりの日本語での会話。意気投合した私たちは、互いに情報を交換しあった。




「——二〇二五年の四月七日、か……まさか、同じ日に『穴』に飲み込まれたとはな……」


「——転移先の時間が違っていたということかな。何でだろうね。それに僕の持っている力と誠司の持っているその力……」


「——ああ。だが、もしも私の力が『魂』に関係する力だとした場合、一つ、心当たりがある」


「——なんだい?」


「——私はたまたま前の晩、『魂』のことを題材にした動画を観たんだ。それで翌朝、『穴』に飲みこまれる時、柄にもなく『死ぬのかな、死んだら魂は何処へいくのだろう』ということを考えた。魂のことを意識したのは、せいぜいその時くらいだ」


「——なるほど……なら、僕の『人形を思い通りに作れる力』も……」


「——どうだい、彗丈」


「——ああ。僕はあの時、部屋の壁に出来た『穴』に吸い込まれていく人形に向かって、必死に手を伸ばしていたんだ。『僕の人形があっ!』ってね……誰にも言わないでくれよ?」


「——はは。わかったよ」



 こうして私はそれ以来、彗丈にこの世界の言葉を教えながら行動を共にしている。


 と言っても彼に戦闘能力はない。私がクエストに行っている間、彼は街で待ちぼうけだ。


 それに引け目を感じたのか、ある時、彗丈は言い出した。『自分の店を持ち、独り立ちしたい』と。


 それもまた人生。彼の力があれば、人形屋として十分やっていけるだろう。少なくとも私の見た限り、この世界において彼の作るクオリティ以上の人形は見たことがない。


 そして今、私たちは街を巡っている。私がクエストに行っている間、彗丈はまだ拙い言葉で物件を探し歩いているみたいだ——。




 ——物思いに耽りながらエールを流し込む私に、ジュリ君が魔法を唱えてくれる。


「——『汚れを落とす魔法』」


 彼女の魔法の効果が現れると、私の血まみれの衣服がみるみるうちにキレイになっていった。ナーディアさんがあの時、私を蜘蛛の巣から助け出してくれた時に唱えてくれた魔法だ。


「すまないね、ジュリ君」


「あー、エール一杯でいいっす。でも、破れた服までは元には戻らないっすからね?」


「ああ。まあ丁度いいっちゃ丁度いいか」


「へ?」


 不思議そうな顔をするジュリ君。彗丈が納得したような声を上げる。


「お、誠司。頼んでいたもの、出来たのかい?」


「そのはずだ。ちょっと取ってくる。ジュリ君、今日は私の奢りだ。少し彗丈の相手をしてやってくれ」


「はいはーい。ささ、ケイジョーさん、飲みましょ飲みましょ」


「……はは、いや、ええと、僕はそんなに……」


 まあ、グイグイいくタイプのジュリ君が相手なら、彗丈も日常会話の勉強になるだろう。私はエールを飲み干し、立ち上がった。






 その頃セレスは——マッケマッケに詰め寄っていた。


「ちょっと、マッケマッケ!? どうして教えてくれなかったのかしら!?」


「……いや、セレス様。逆に聞きますけど、なんで気づかなかったんですか?」


「……だって……だって……グスン」


 セレスは胸を腕で覆い隠し、しょんぼりとする。


 先ほどまで傷ついた者の治療をしていたセレスは、皆が自分から目を逸らしていることに気づく。


 なんで? と首を傾げていると、文官の女性が寄ってきて耳打ちをしてくれた。



「——……あの……セレス様。非常に申し上げにくいのですが……」


「どうしたの?」


「……その……透けて見えています、お胸が……」


「…………!?!?」



 しまった。身体にピッタリフィットしすぎていて気づかなかった。体操服を着る時はいつも肌着をつけているのに、今日に限って忘れてしまった。


 皆が顔を逸らしていたのはそのせいか——いや、有事の際だ、別にそれはどうでもいい。


 問題は——黒髪のあの人にバッチリ見られた、どころか、自分から捲り上げてしまったことだ。


 セレスはマッケマッケに泣きつく。


「マッケマッケぇ! どうしましょう、あの人に、はしたない女だと思われてたらぁ!」


「……ん? あの人……えっ、セレス様……もしかして……あの黒髪の人のこと、を、です、か……?」


 マッケマッケの胸の中でコクンと頷くセレス。ははあんと腑に落ちたマッケマッケは、ため息を漏らす。


「……まあ、あーしだったら……『ああ、そういう人なんだな』って思いますかね……」


「……うわああぁぁぁんっっ!!」


 いつも頑張っている彼女が、こんな姿を見せるのは初めてだ。マッケマッケは夕焼け空を眺めながら、セレスの頭をよしよしと撫でるのだった——。





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