『父』の物語・旅立ち 05 —『魂』—
——あれは、私がナーディアさんに保護されてから幾許の時だったか。村人が賊に、無惨にも殺されたことがある。
私の、目の前で。
その村人を殺した賊は、笑っていた。
目の前で起きた光景が信じられずに、動けない私。
だが次の瞬間、その賊の身体が燃えた。
私が茫然と振り返ると——駆けつけたナーディアさんが、鬼気迫る表情で崩れゆく人影を睨んでいたのだった——。
†
その光景を見て以来、私は私が悪と定めた人物に刃を向けることを躊躇わなくなった。
人を斬った時は、罪悪感が芽生える。しかし私は、それをあの時の光景で塗り潰す。
命を奪って、高笑いをする男。狂っている。
その狂気に打ち勝つためには、それ以上の容赦のなさで対抗するしかないのだから。
私は光の位置を見定め、静かに駆け抜ける。
この村の付近に現れた、十人と少しの集団。薄汚れた光。その怪しげな動きから、私は奴らを『悪』だと断定する。
やがて息を潜め、身を隠しながら近づくと——奴らのボスらしき声が聞こえてきた。
「んじゃ、そろそろ行くぞ。男は殺せ、女は生かせ。俺が直々に、選別してやる——」
その言葉を聞いてしまった私の脳裏に、あの時の光景が蘇る。怒りが湧いてくる。殺意が私の心を支配する。
私はその抑えきれない殺意を、解き放った。
「…………!!」
賊たちは、怯んだ。私は迷うことなく、ボスらしき男に駆け向かった。
呼吸を止めるな。流れを乗せて斬れ。斬り終わりを意識しろ——。
—— 斬
私のその一太刀は、ボスらしき男を両断した。
突然訪れた事態。私という存在に困惑しているであろう賊たちは、固まっている。
その隙に私は、もう一人を斬り伏せた。
「……このガキィ!」
我に返ったであろう男が一人、叫びながら襲いかかってくる。
しかし。ナーディアさんより、断然、遅い。
私は機動力を活かし、駆け抜けざまもう一人を斬り伏せた。
背後から迫り来る『光』の動きを飛びかわし、光全体の位置を見極めて、取り囲まれない場所へと位置を取る。
その頃には、賊たちはだいぶ及び腰になっていた。当たり前だ。ボスがやられ、次々と仲間が倒れていっているのだから。
だが、まだ数は十人ちょうどいる。なんとか体勢を立て直そうとしている男に、私は斬りかかった。残り、九人。
「……ふざけんなよ、ガキがあっ!」
次の相手は、少し腕の立つ相手みたいだ。加えて、後方から魔力の波動を感じる。何かしらの攻撃魔法か。
その時、先行した私を追いかけてきたマッカライさんが、ようやく追いついてきた。
「大丈夫か!」
「気をつけて。右前方の茂みに、一人隠れている」
私の声を聞き、警戒をするマッカライさん。茂みに隠れていた男は舌打ちをし、飛び出してマッカライさんに襲いかかった。
「……チッ!」
「フン!」
マッカライさんの戦斧が、その一人を吹き飛ばす。残り、八人。
私は、魔力の波動を発する相手との射線上に今戦っている相手を挟みこむように立ち回り、簡単には魔法を撃たせないようにする。
やがて——。
「……なっ……」
私の刃は、相手に届いた。それと同時にマッカライさんも一人倒した。残り六人。
この頃になると、相手もいよいよ逃げ出そうとする動きが見られ始めた。私は殺気を、解き放つ。
「……逃がすかよ……!」
その瞬間、戦意を失くしたかのように座り込む賊たち。その者たちは皆、虚ろな目をしている。
——終わった。
これが何の力かはわからないが、私が力を示せれば、相手は抜け殻のようになる。もはや抵抗の意思はないだろう。
私は地面に転がる屍を眺めながら、唇を噛み締め、つぶやいた。
「……なんなんだよ、お前らは……」
——後でマッカライさんに聞いた話だと、この時の私はとても暗く、冷たい目をしていたらしい。
こうして私たちは、村への襲撃を企てていた賊たちを、返り討ちにしたのだった——。
†
生き残った賊たちを縛り上げ村の牢屋にぶち込んだ私たちは、村長に必要な報告をし建物を後にした。いずれ、王都から兵士たちが賊を連行するためにやってくるだろう。
帰り道、マッカライさんが前を向きながらポツリと漏らした。
「……すまんのう、セイジ。まだ子供のお前さんに、こんなことを経験させちまって」
「……いいんだ、マッカライさん。私は見た目より大人だし……何より、悪党は許せない」
「……そうか」
マッカライさんは短く返事をして、立ち止まる。そして私が握っている刀に目をやった。
「セイジよ。どうだ、その刀は。お前を守ってやれそうか?」
「見ての通りだよ。どうやら私には普通の剣よりも、こっちの方が合っているみたいだ。ありがとう、マッカライさん」
「……うむ」
マッカライさんはうなずき、空を見上げる。私もつられて空を見上げると——
「…………あっ……」
——私の瞳から、涙がひと粒流れ落ちた。
マッカライさんが不思議そうな顔で、私を見上げる。
「どうした、セイジ?」
「……いや……今、オフィーリアさんの光が、天へと昇っていっている……」
私だけに見えている、人や魔物、動物や植物にまで宿っている光。
先ほどの賊たちと同様、生命あるものが死ぬと光は肉体から離れ、天へと昇っていく。
私はこの時、しっかりと認識した。
(……私には、『魂』が見えているんだなあ……)
私はオフィーリアさんの魂を、それが見えなくなってもずっと、ずっと、空を眺め見送り続けるのだった。




