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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 第七章
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詰みセーブ 04 —秋空—






 誠司は繰り返す。



 何度も。



 何度でも——。




「……お前は……確かセイジか。死ね……」



 サーバトの光線が、誠司を撃つ。



 すでに百を超える死。だが、誠司は、挫けない——。







「——莉奈! 飛べえ!」



 百を超える死の中で、誠司は身体に染み込ませる。


 サーバトの光線、その弾き方を。


 おかげで、一発目の光線はほぼ確実に弾き飛ばせるようになっていた。


 だが、二発目、三発目は、誠司がどう動いても防ぐことは出来そうになかった。


 しかし——誠司の目は輝きを失ってはいない。


 何故なら。誠司の推測が正しければ、この三発の光線さえ凌げば勝ちが確定するからだ。


(……すまないね、君の協力はどうしても必要そうだ。娘を助けるために、頼んだぞ)


 ——誠司は諦めない。愛する二人を救うために。


 そして、試行錯誤を繰り返し——ついに彼は、最後の一回に辿り着く。






 それは、二百三十二回目の死に戻り。


 男は娘たちの死を、その回数分見た。だが一度として、娘たちの死に『慣れる』ということはなかった。



 これで、終わりにしてやる——。



 男は、黒く輝くその瞳を、開いた。







「——莉奈ぁ、飛べえっ!!」


 誠司は叫び、駆け出す。幾度となく叫んだ言葉。


 サーバトが意識を覚醒させる。顔を上げたサーバトは、ライラを視認する。


 続けざま誠司は、叫んだ。


「ヘザー、こっちに来い!」


 誠司の言葉に素早く反応し、駆け出すヘザー。


 サーバトはゆっくりと手を上げ、少女に指を向けた。


 ライラは虚ろな目で父の背中を見る。莉奈がライラを庇う動きを見せる。誠司が叫ぶ。


「バッグを開けえっ!」


 そしてヘザーが飛び込んできたタイミングで——



 ——サーバトの指から三つの光線が放たれた。



 一発目。それは誠司の右腕で弾き飛ばされた。



 そして誠司は、弾かれた勢いを利用し二発目の光線に手を伸ばす。



 二発目の光線は誠司の右手の指に当たった。わずかに逸れる軌道。



 だが無情にも、三発目の光線が誠司を貫いた。



 わずかに逸れた二発目の光線は、飛び込んできたヘザーの頭に当たり、軌道を大きく逸らす。



 勢いで吹き飛ぶ、ヘザーの頭。



 だが——ヘザーは誠司に言われた通り、バッグを開いていた。



 誠司は口角を上げる。三発目の弾道も、計算通りだ。当たり前だ、そう貫かれたのだから。



 そして、まるで吸い込まれるかのようにバッグに入っていく三発目の光線。バッグは弾けてしまったが、その光線は空間の中に吸い込まれていった——。




 防いだ。防ぎ切った。見事誠司は、三発の光線を防ぎ切ったのだ。




 ——長かった。どう弾き、どう逸らし、どう貫かれるか、何度もやり直して身体に染み込ませた。




 誠司は倒れ込みながら、万感の思いを込めて叫ぶ。



「——莉奈、飛べ……『空間』を……飛び越えるんだぁっ!」



 誠司は視界にとらえる。莉奈とライラの身体が揺らぎ、その場から忽然と消えるのを——。



 それは莉奈の『飛ぶ』能力。


 誠司は見た、莉奈の揺らぎを。


 そこから誠司は推測した。『転移者』に現れる、スキルの拡張性。


 あの揺らぎ。誠司は知っていた。今は亡き彼女の妻、エリスがもっとも得意としていた『空間魔法』に近しい現象を。


 誠司の『飛べ』という言葉で目覚め、莉奈は『空間』を飛び越えようとしていた。だから誠司が『飛べ』と言った時、空には飛ばなかったのだ。


 そして今、まさに、誠司の願った通りの結果は訪れた——。






 娘二人の『魂』が、現れては消えを繰り返しながら遠ざかっていくのがわかる。


 それを感じとった誠司は天井を見上げ、血を吐き出しながらつぶやいた。



「……はは……ざまあみろってんだ……」



 ——勝った。『運命』に、勝った。



 誠司の上に、ヘザーの胴体が倒れ込む。


 サーバトは、床に転がっている二人を見つめた。


「……お前は……確かセイジか。死ね……」




「…………『百折不撓アンカー』、解除」




 すべてをやり遂げ、穏やかな顔つきで静かに目を閉じる誠司。




 直後——




 ——誠司とヘザーの身体は、光線で燃やし尽くされた。








 ——二つの魂が、寄り添うように天に昇っていく。




 その魂は触れ合い、混じり合い、意識を交わし合った。




 ——『——待たせてしまったね、エリス。本当は、君にも助かって欲しかったんだが』




 ——『——んーん。いいよ、セイジ。私たちの子供のためだもん、気にしないで。それに私、残されるのはイヤだから』




 ——『——はは、すまないね。しかし、あの二人は私たちがいなくても大丈夫だろうか……』




 ——『——ふふ、大丈夫だよ、きっと。リナもライラも強い子だから。信じてあげましょ』




 ——『——……そうだな。さて、二十年ぶりぐらいか。君とこうやって話せるのは』




 ——『——もう。ヘザーとしての私も、私だよ?』




 ——『——あはは、そうだね、すまない。しかし……不思議なもんだな。娘のために死ぬのは惜しくないが、死んだら死んだで……こんなに心配になるとはな』




 ——『——……うん。まあ、あっちで見守ってあげようよ。あの子たちの作る、物語を』




 ——『——ああ、君と二人で、な——』





 ————…………。





 薄青と白の光が、天へと還っていく。




 誠司とエリス、二人の魂は、遺していく娘たちの心配をしながら——




 寄り添い、混じり合い、寂しそうに、幸せそうに、




 澄み渡った秋の空を、昇っていくのだった——。







次話、第六部ラストです。


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