詰みセーブ 03 —揺らぎ—
「莉奈! 逃げろっ!」
その誠司の叫び声に応えるかのように、莉奈はライラを抱え飛び立つ。
やがて光線に撃ち抜かれる莉奈とライラ。血を撒き散らしながら落ちる二人。
誠司は拳を握りしめ、その光景を見つめる——。
——あれから、何度繰り返したことだろう。
誠司はその度に娘の死にゆく姿を、目に、脳裏に焼き付ける。
(……すまない…………すまない……)
心で謝罪を行いながら、苦痛に顔を歪めて太刀の刃を引き抜く誠司。
だが、一つだけわかったことがある。
(……莉奈は『飛べ』と言った時には飛ばず、それ以外の時は飛ぶ……何故だ?)
わからない。わからないが——もし突破口があるとするならば、そこにあるような気がする。
しかし何度繰り返しても、誠司がどんな言葉を投げかけても、どうやら莉奈は彼女にできる最速で飛び立っているようだ。サーバトの光線の速度は、それを凌駕してしまっている。
(……魔法の勉強をしておくんだったよ、エリス……)
誠司は絶望に打ちひしがれながらも、なお諦めずに、死に続け、生き足掻くのだった——。
†
「——莉奈、飛べっ!」
娘たちの死は、すでに五十回は超えた。その間、誠司はいろいろな事を試した。
——「——サーバト、私を狙え!」
——「——ライラ、逃げろ!」
だが、どんな言葉をかけても、誠司がどのように行動したとしても、迎える結末に変化はなかった。
その中で、唯一行動が大きく変化する『飛べ』。今はそれに全てをかけている。
『飛べ』と言われ『飛ばない』莉奈。だが莉奈に飛ばれてしまうと、その後誠司は何も介入できない。
しかし、その場に留まってくれれば——。
「……ぐっ!」
サーバトの光線が、間に入った誠司を貫き娘二人を穿つ。
ドサッと床に崩れ落ちる音、広がる血溜まり。
「……エリス……とかいうヤツではないのか? 私は、いったい……」
「——誠司!」
「……もう少しだったんだけどな……」
誠司はそうつぶやき、刃を首にあてがった。
「セイジ!」
「……お前は……確かセイジか。死ね……」
サーバトの指が、誠司に向けられる。
それよりも速く、誠司は自分の首を、掻っ切った。
†
「——莉奈、飛べ!」
最速で叫んだ誠司は駆け出した。
顔を上げたサーバトがライラを視認する。
誠司はサーバトとライラの間に、立ち塞がるように割り込む。
サーバトはゆっくりと手を上げ、誠司に指を向けた。
ライラは父の背中を見る。莉奈がライラを抱きしめる。
やがて、サーバトの指から連続で放たれる、三つの光線。
誠司は腕を胸のあたりに交差させて構え、仁王立ちをする。
そして届く一発目の光線は——誠司の右腕に弾かれ、軌道を変えた。
——そう。今の誠司の右腕は『義手』だ。ヘザーに使われているのと同様、軽くて硬い骨組みが入っている。
だが、続け様に飛んでくる二発目、三発目の光線に貫かれる誠司。しかし彼は倒れながら、口角を上げた。
(……伊達に繰り返してる訳じゃ、ないんだよ……)
あわよくばこの一撃で未来が変われば——そう期待し、誠司は視線を後ろに向けるが——
——娘二人の、倒れゆく姿が見える。
(……ああ、駄目だったか……)
結局、結末は変えられないのか——誠司がそう思った時だ。
彼は、一つの違和感に気づく。
(……待てよ、もしかして……そういうことなのか?)
ドサッ。
瞳孔の開いた瞳で天井を見上げるライラ。彼女の上に覆いかぶさるように倒れる莉奈。
「……エリス……とかいうヤツではないのか? 私は、いったい……」
「誠司!」
「セイジ!」
「……お前は……確かセイジか。死ね……」
「……ああ、早く殺せ。待ち遠しいんだ……」
直後、誠司は口角を上げたままサーバトの光線に消し飛ばされた。
†
誠司は考える。自分の気づきに。見間違いではないかどうかに。
(……確かめなくては)
「——莉奈、飛べ!」
目覚めた誠司は叫び、駆け出した。
顔を上げたサーバトがライラを視認する。
誠司はサーバトとライラの間に、立ち塞がるように割り込む。
サーバトはゆっくりと手を上げ、誠司に指を向けた。
ライラは父の背中を見る。莉奈がライラを抱きしめる。
やがて、サーバトの指から連続で放たれる、三つの光線。
誠司は腕を胸のあたりに交差させて構え、仁王立ちをする。
そして届く一発目の光線は——誠司の右腕に弾かれ、軌道を変えた。ここまでは先ほどと一緒だ。
誠司は続けて飛んでくる光線に貫かれながら、必死に娘たちの方へと顔を向ける。
虚ろな目をしているライラ。莉奈はライラを強く抱え込んでいる。
そして光線が二人に届く瞬間——誠司は、はっきりと見た。
——二人の身体が、若干揺らいでいるのを。
床に崩れ落ちる三人。瞳孔の開いた瞳で天井を見上げるライラ。彼女の上に覆いかぶさるように倒れる莉奈。
「……エリス……とかいうヤツではないのか? 私は、いったい……」
「誠司!」
「セイジ!」
同じ台詞、同じ光景。だが——誠司は、笑い出した。
「……くく……くっくっ……」
「……お前は……確かセイジか。何がおかしい。死ね……」
「……ああ、サーバト。早く殺せ。私は運命に、勝ってみせる」
「……ふん」
サーバトの光線が誠司を襲う。誠司は静かに目を閉じ、死を迎え入れるのだった。




