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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 第七章
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詰みセーブ 02 —繰り返す絶望—







「——莉奈、飛べ……飛んでくれ……」



 あれから何度、繰り返しただろう。


 その度に同じ光景が、繰り返される。



 誠司の刃は、サーバトには届く。だがどれだけ試みても、例外なくその刃はサーバトの身体をすり抜けてしまっていた。


 娘を守るために盾になっても、そのいずれもが娘二人を真っ直ぐに貫いてしまう。


 莉奈とライラを突き飛ばしてみたりもした。だが、サーバトの光線は倒れ込んだ二人に容赦なく襲いかかった。



 ——運命は、変えられないのか……?



 ふと、そんな考えが頭をよぎってしまう。


 だが、それでも——私は、生き足掻く。







 容赦なく娘たちを貫く光線。


 それを見た誠司は、太刀を首にあてがいながら考える。


(……莉奈は、なぜ飛ばない?)


 もし莉奈がライラを抱え飛び、初撃の光線さえ躱すことが出来れば——道ができる。


 時間は、五秒もある。


 莉奈なら絶対にできるはず、なのに。


(……なぜだ?)



 誠司は今回の魔法城での戦いの前に、莉奈と話し合ったことを思い返す——。




「——いいかい、莉奈。万一『厄災』サーバトの出現が確認された場合、何があっても全力で逃げること。いいな?」


「ん? 例えば……ヘクトールを追い詰めている時でも?」


「ああ、奴は別格だ。物理攻撃が一切通用しない。魔法でないと、まず勝ち目はないな」


「……うへえ。ヴェネルディみたいなもん?」


「まあ、そうだな。あれを、手を付けられなくしたような感じだ」


「……はは、わかった。そん時はライラ連れて、全力で逃げるよ」


「ああ、頼んだぞ、お姉ちゃん——」




 ————…………。




 だから、莉奈は逃げようとするはずだ。行動に支障をきたすほどパニックになっている様子もない。


 瞳孔の開いた瞳で天井を見上げるライラ。彼女の上に覆いかぶさるように倒れている莉奈。


 娘の死にゆく姿を見るのは、つらい。だが、なんとかして活路を見出さねば——。



 もはや作業的に首を斬った誠司は、意識を鎖に引き摺られながら考える。


 幸い、どのような行動をとっても『厄災』サーバトの本領である『光の雨』は使ってくる様子がない——少なくとも、繰り返す五秒の間は。あれを使われたら終わりだ。


 ——ああ、もしもグリム君に相談する時間さえあれば、彼女なら、或いは——


 誠司が深くため息をつき、十五度目となる覚醒を果たした時だった。



 しまった、考え込み過ぎた——と誠司は急ぎ目を開ける。


 サーバトはゆっくりと手を上げ、少女に指を向けた。


 その指先を眺めるライラを、莉奈は抱きしめ——そして、飛んだ。


「……え?」


 思わず声を漏らしてしまう誠司。莉奈はライラを抱え、天井の穴へと飛び向かう。


(……行け……莉奈……!)


 原因はわからないが、運命は変わった。


 これなら——誠司は淡い期待を抱く。



 だが。



 サーバトの指は、娘たちを狙っていた。


 放たれる、三発の光線。


 その光線は、恐ろしいほど正確に二人を貫き——。



 ドサッと墜落する、娘二人。


 莉奈の身体がひしゃげる。ライラは瞳孔の開いた目で天井を眺める。


「……エリス……とかいうヤツではないのか? 私は、いったい……」


「——誠司!」


 グリムの叫ぶ声が聞こえる。



 ——莉奈が飛んだというのに、何も変わらないじゃないか……。



 誠司は打ちひしがれ、床に膝をついた。

 

「……お前は……確かセイジか。死ね……」


 サーバトの指が、誠司を狙う。


「セイジ!」


 ヘザーの悲痛な叫び声が響く。



 直後、誠司の頭は——弾け飛んだ。







 再び始まりの五秒に戻った誠司は、その瞬間叫ぶ。



「——莉奈、飛べえっ!」



 先ほどは撃ち落とされてしまったが、『変化』という希望が見えた。そこに道はあるはずだ。もっと速く、サーバトが行動するよりも速く、莉奈が飛ぶことができれば——。



「…………な……」



 誠司は固まる。


 顔を上げたサーバトが、ライラを視認する。


 彼はゆっくりと手を上げ、少女に指を向けた。


 ライラは指先を眺める。莉奈がライラを抱きしめる。


 そして、サーバトの指から連続で放たれる、三つの光線。


 直後。ドサッと崩れ落ちる二人。


 瞳孔の開いた瞳で天井を見上げるライラ。彼女の上に覆いかぶさるように倒れている莉奈——。



 ——何も、変わってはいない。



 床に広がる赤い染み。それを誠司は、ただただ茫然と眺める。


「……エリス……とかいうヤツではないのか? 私は、いったい……」


「——誠司!」


 同じ言葉が、繰り返される。


「……お前は……確かセイジか。死ね……」


「……どういうことだ……まさか……」


「セイジ!」


 光線が、放たれる。それを身体に受け、踊るように床に倒れた誠司は——薄れゆく意識を、簡単に手放した。







 意識が、鎖に絡め取られていく——。



 やがて始まりの五秒にたどり着いた誠司は、顔を歪めながらも静観する。


 サーバトはゆっくりと手を上げ、少女に指を向けた。


 その指先を眺めるライラ。その少女を莉奈は抱きしめ——そして、飛んだ。


(……やはり、か。だが……)


 空を飛ぶ莉奈は、前と同じようにサーバトに撃墜され、地に落ちる。


 莉奈の身体がひしゃげる。ライラは瞳孔の開いた目で天井を眺める。


「……エリス……とかいうヤツではないのか? 私は、いったい……」


「——誠司!」


 繰り返される光景。誠司は自嘲気味に笑い、太刀を首にあてがった。


(……痛いだろうな、苦しいだろうな……。すまないな、お前たちに何度もつらい思いをさせてしまう、こんなにも不甲斐ない父親で。だが、二人とも。必ず、助けてやるからな……)



 そう心の中でつぶやき——誠司は太刀を、引き抜いた——。




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