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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 第七章
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詰みセーブ 01 —『アンカー』—





 ——『転移者』には、その者の持つ力の行き着く先、理を超越した力、


 いわゆる『チートスキル』というものが存在している。



 誠司が持つのは『魂』の力。


 彼は妻を失って以来、過去を後悔しながら生きてきた。


 そんな日々を送る中で、彼はこの力に目覚めた。



 それは、ただ、やり直すだけの力。


 それは、過去を後悔し続けた彼だからこそ目覚めた力。


 彼のその力は自分の『魂』をその時間に縛り付け、死を迎えることによりその場所へと戻ることができるという、人生で一箇所だけ発動できる、チートスキル。



 例えば、それは『死に戻り』。


 例えば、それは『クイックセーブ』。


 例えば、それは『ロールバック』——。



 彼は、もう二度と妻を失ったあの時のような後悔をすることの無きよう、今、大切な家族を守るために、その力を発動した——。








 顔を上げたサーバトは、ライラを視認した。


 彼はゆっくりと手を上げ、少女に指を向けた。


 ライラが驚いた表情を浮かべる。莉奈がライラを庇う動きを見せる。


 誠司はサーバトに向かって駆け出し、叫んだ。



「——莉奈、飛べえっ!」



 莉奈はライラを抱きしめる。ヘザーとグリムが動き出す。



 やがて、サーバトの指から連続で放たれる、三つの光線。



 直後。ドサッ、と何かが床に崩れる音がする。



 誠司が恐る恐る娘たちの方を振り返ると、そこに見えたのは——



 瞳孔の開いた瞳で天井を見上げるライラ。彼女の上に覆いかぶさるように倒れている莉奈。



 ——『身を守る魔法』の防御すら貫通し、胸に大きな穴を空けて床に伏す二人の娘の姿だった。



 娘二人から流れ出す赤い液体。肉体から離れゆく二つの『魂』。誠司が『百折不撓アンカー』を発動させてから娘が撃たれるまで、わずか五秒の出来事。


 その倒れた少女たちを見て、サーバトは眉をしかめた。


「……エリス……とかいうヤツではないのか? 私は、いったい……」


 頭を振るサーバト、茫然と立ち尽くす誠司。


「——誠司!」


 グリムの叫ぶ声が聞こえる。その声に反応して、サーバトは誠司の方を向いた。


「……お前は……確かセイジか。死ね……」


「……ああ、安心しろ。何度でも、死んでやるよ」


 サーバトの光線が、誠司の脇腹をえぐる。踏みとどまった誠司は、自らの首に太刀をあてがった。


「セイジ!」


 ヘザーの悲痛な声が響く。残していく彼女とグリムに、誠司は心の中で詫びた。



(……すまないな、二人とも。私は、戻る。ライラと莉奈を救うためなら、何度だって——)



 直後、誠司は、自分の首にあてられている刃を引き抜いた——。








 意識が、鎖に絡め取られる。



 時の中を、引き摺られていく——。





 誠司の意識が、覚醒する。


 そこは、『百折不撓アンカー』を発動した瞬間の時間軸だった。


 誠司はライラと莉奈、二人の生きている姿を見てホッとするが——時間に猶予はない。すぐに行動しなくては。



「——莉奈、飛べえっ!」



 誠司は叫び、駆け出す。直後、顔を上げたサーバトがライラを視認する。


 そして彼はゆっくりと手を上げ、少女に指を向けた。


(……やらせるかよ!)


 先ほどの時間と比べ、誠司は数秒先に動いている。最速で動けば——届く。


 ライラが上げられた指先を見つめる。莉奈がライラを抱きしめる。


 ヘザーとグリムも動き出す中——



 —— 一閃



 誠司の太刀が、サーバトを捉えた。


 しかしその刃の軌跡は——無情にもサーバトをすり抜けてしまった。



 ——『厄災』サーバト。光の『厄災』。


 彼はその特性として、物理的な攻撃が一切効かない身体を持っている。


 そう。それはまるで、光を斬ることが不可能なように——。



 サーバトの指から連続で放たれる、三つの光線。


 直後。ドサッ、と何かが床に崩れる音。


 苦痛に顔を歪めた誠司が振り向くと——



 瞳孔の開いた瞳で天井を見上げるライラ。彼女の上に覆いかぶさるように倒れている莉奈。



 ——先ほどと全く一緒の光景が、そこにはあった。



「……エリス……とかいうヤツではないのか? 私は、いったい……」


「——誠司!」


 頭を振るサーバト。叫ぶグリム。


 誠司は深く目をつむり、太刀を自分の首にあてがった。


「……お前は……確かセイジか。死ね……」


 サーバトが、誠司の方を向く。


「……………………」


 誠司は暗く冷たい瞳で、無言のまま自らの首を掻っ切った——。






「——莉奈、飛べ、飛ぶんだあっ!」



 三度目。


 最速で動けば、誠司の太刀はサーバトには届く。だが、すり抜けてしまっては意味がない。


 顔を上げたサーバトがライラを視認する。


 誠司はサーバトとライラの間に、立ち塞がるように割り込んだ。


「……させるかよ……」


 サーバトはゆっくりと手を上げ、誠司に指を向けた。


 ライラは父の背中を見る。莉奈がライラを抱きしめる。


 やがて、サーバトの指から連続で放たれる、三つの光線。


 その光は、サーバトを睨む誠司を貫通した。


(……これなら……)


 致命傷を受けてしまったが、娘二人が助かるなら安いものだ。


 誠司は倒れ込みながら、娘たちの方を見る。


 そこには——


 誠司が盾になったのにもかかわらず、背中に大きな穴を空けた莉奈の姿。そして、焦点の合わぬ瞳で莉奈に抱かれながら倒れゆくライラ。



 ——先ほどと全く一緒の光景が、そこにはあった。



「……お前は……確かセイジか……」


「……くそ……死ねる……かよ……」



 誠司はそう言い遺し、生きるために、娘を救うために、自ら生を手放すのだった——。



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