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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 第六章
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彼を穿つ凶刃 03 —傀儡—








「——未来永劫、死に続けろ、ヘクトール。それがお前にできる、唯一の、贖罪しょくざいだ」




 城の最上階にある大広間にてヘクトールと対峙する誠司は、太刀を構える。


 その姿を見たヘクトールは、眉をひそめた。


「……なんなんだ、お前たちは。何故、千年前のことを知っている?」


「さあ、な」


 誠司が、跳ねた。


 駆け抜ける一筋ひとすじの凶刃が、ヘクトールを光の線となって捉える。反応出来ないヘクトール。


 だが——その誠司の刃は、ただヘクトールに、当たっただけだった。


 誠司は距離を取って振り返り、太刀を構え直す。


「……『身を守る魔法』か。その強度、随分と年季が入っているな。狡猾なお前には、ぴったりだよ」


「フン、用心深いと言ってくれたまえ。——『結界の魔法』」


 ヘクトールが言の葉を紡ぐと、転移陣のあった場所に結界が現れた。誠司は一太刀入れてみるが、その刃は弾き返されてしまった。


「……チッ。随分と用意がいいな」


「有事に備え自衛手段をいくつも用意しておくのは、当たり前じゃあないか。まったく、勉強不足だな」


 ヘクトールはほくそ笑む。それを忌々しげに見つめる誠司に、ヘクトールは問いかけた。


「お前たちはなんだ。ハウメアの手のものか? なぜ、千年前のことを知っている」


 ヘクトールの問いかけに、無言で返す誠司。その質問には、グリムがゆっくりと歩み寄りながら答える。


「簡単な話だよ、ヘクトール。アルフレードの意志は引き継がれているってだけのことさ。千年経った、今もね」


「遺志、か。まったく、大人しくあのままのたれ死んでいればよかったものを……」


 グリムの返答に、ヘクトールは鼻白んだ。結界越しに正面に立ったグリムを無表情で見据えながら、ヘクトールは問いかける。


「答えろ。さっきお前は『この戦争の指揮』だとか抜かしていたな。どういう意味だ」


「なに、そのままの意味さ。キミが『魔女狩り』と称した戦争を仕掛けてくるのを、私たちは事前に察知していた。結果は、我が軍の圧勝だ。残っているのはもう、キミだけしかいない」


「……な……に……?」


 初めてヘクトールの顔に狼狽の表情が浮かんだ。グリムは続ける。


「キミの用意したロゴール軍も、骸骨兵も、キミ達魔法国の将も全滅だ。全部返り討ちにしてやったよ」


「……まさか……ヘルタにオスカー、ポラナまでもか?」


 ヘクトールは身を震わせながらグリムに問う。そんな彼にグリムは無慈悲に告げた。


「そうだ。キミの仲間は、もういない」


「……おお……おお!……何ということだ!」


 仰々しく額に手を当て、悲嘆の表情を見せるヘクトール。彼は首を横に振り、涙を流しながら漏らした。


「……ああ、まったく余計なことを……ドメーニカの復活まで、時間がないというのに……また傀儡くぐつを、一から用意しなくてはならないではないか……」


 その言葉を聞いた誠司の眉がピクリと動く


「……どういうことだ、傀儡とは。彼らは君の仲間ではなかったのかね?」


「フン」


 誠司の問いかけに、ヘクトールは鼻を鳴らす。


「仲間だ? 笑わせるな。あれは私の夢を叶えるための、ただの人形だ」


「……おい。オスカーはキミのために、絶望的な状況下でも最期まで戦ったんだぞ……」


 グリムが歯ぎしりをする。そう、少なくとも南の地でオスカーは、ヘクトールのために、使命を果たすために、その命尽きる最期まで抵抗を続けた。


 だが、ヘクトールは、こともなげに言う。


「フン。魔法が効いているんだ、当たり前だろう?」


 ただの操り人形、魔法によって操られた傀儡。しかし、実際に彼と言葉を交わしたグリムは思う。


「……それでも彼には、自分の意思がちゃんとあった……」


 睨むグリム。無表情で見つめ返すヘクトール。その時、誠司が叫んだ。


「グリム君! 魔力が集まっている、気をつけろ!」


「遅い。『魅惑の魔法』」


 言の葉は、突然紡がれた。ヘクトールの目を見ていたグリムの目が、だんだんと虚ろになっていく。


 誠司は歯噛みをして呻く。


「……無詠唱、だと?」


「勉強不足だな。この世に無詠唱など存在しない。私は口をあまり開かずとも魔法が詠唱できる。ただ、それだけの話だ」


「……腹話術みたいなものか。本当にお前は、どこまでもこすっからいんだな」


「フン、せいぜい喚いていろ」


 つまらなさそうに誠司に返したヘクトールは、虚ろな目をしたグリムに語りかける。


「グリムとか言ったな。さっきは何事か抜かしていたが、そこまで言うならお前が人形でないことを証明してみせろ」


 ヘクトールは口端を上げ、グリムに命令を下した。


「さあ、グリムよ。この男を、排除するのだ」


「……はい、ヘクトール様」


 グリムは短刀を抜き、構える。


 そして——誠司に向かい、駆け出した。


 身体能力の『限定解除』をしているグリム。その彼女の渾身の一撃を、誠司は受け流す。


「目を覚ませ、グリム君!」


「誠司、キミには世話になったな。これから私は、ヘクトール様に仕えることにする。ここで、お別れだ」




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