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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 第六章
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彼を穿つ凶刃 01 —突入—









 少し前、魔法国城前——。




「こっちだ、誠司!」


「誠司さん、行って!」


「ああ、莉奈。ライラを頼んだぞ!」



 グリムに導かれ、誠司は襲いかかる骸骨兵の集団を切り裂き、道をひらきながら駆け出していく。


「待て、行かせるか!」


 ヘクトールの側近ニサは、振り返り誠司の後を追おうとするが——



「それはこっちのセリフだあっ!」



 ——飛来一閃、白い影がニサの行手を遮る。


 彼女の剣撃をなんとか受け流しながら、ニサは舌打ちをした。


(……なんなのよ、コイツら……)


 侵入者の気配を感じ取り、すぐさま骸骨兵を起動させたのはいいが——ニサが城の前に出た時には、彼らは既に城の目前まで迫っていた。


 白いマント姿の女性と斬り結びながら、ニサは状況を注視する。



 骸骨兵たちと切り結び動きを抑えているのは、無数にいる同じ顔をした青髪の女性たち。


 その乱戦の中に、骸骨兵を軽々と放り投げ、或いは容赦なく砕いていく化け物じみた怪力の女性がいる。


 他にも、骸骨兵の攻撃を受けても物ともしない少女。あれは『身を守る魔法』か。


 更に——。



「そりゃ!」



 今、ニサの行手を遮るのは空を飛ぶ女性。空中から乱れ撃たれるその剣撃に、元三つ星冒険者の彼女も防戦を強いられている。


 その彼女の動きは、ある一羽の鳥を連想させた。それは——。


「……お前、もしかして……『白い燕』か?」


「……そう呼ぶ人も、いるよ」


『白い燕』莉奈は、ニサと打ち合いながら考える。


 グリムから聞かされてはいたが、目の前の女性はニサという元三つ星冒険者だろう。正直、強い。足止めをするので精一杯だ。


 その彼女——ニサは、莉奈の攻撃をいなしながら問う。


「……答えろ。『厄災』を従えたという歌の話は、本当か?」


「……従えたとかじゃない。みんな、友達だ」


「友達だと? あの化け物どもと?」


「……化け物って言うなあっ!」


 莉奈の速度があがった。猛攻を受けきれずに剣を弾かれたニサは、追撃を入れようと迫り来る莉奈に向けて手を伸ばした。


「——『暗き刃の魔法』」


 真っ直ぐに飛ぶ黒い刃。しかし莉奈は空中で回転し、マントでその刃を払い落とす。


「効かないよ」


「…………チッ……」


 舌打ちをしたニサは、身を翻して城内へと向かい駆け出していった。


 一瞬の隙をつかれ距離を開けられてしまった莉奈は、慌てて後を追いかける。


「待て、こらあ!」


「……しつこい!」



(……ヘクトール様はロゴール国へと無事、転移できたのだろうか。今は、今は一刻もはやく確認しに行かなければ……!)



 ニサは男たちの侵入を許してしまった失態を恥じつつ、入り組んだ城内へと莉奈を誘い込むのだった。







 ポコポコポコ。


「あー、もう、じゃまっ!」


 ポコッ!


 骸骨兵に囲まれてポコスカ殴られているライラは、杖で骸骨兵を殴り返す。


 崩れ落ちる骸骨兵。しかし次から次へと、うじゃうじゃ寄ってくる。


「もー、どいて! リナー、どこー、だいじょうぶー!?」


『身を守る魔法』の効果で骸骨兵の攻撃はまったく効かないが、いかんせん数が数だ。決め手に欠けるライラは、ぷんすかと怒る。


 その時。ヘザーが背後から戦鎚をブンブンと振り回し、道を開きながらライラに近づいてきた。


「ライラ。大丈夫ですか?」


「うん、だいじょぶ。でも、ヘザー。グリムも一緒に吹き飛ばされてるけど?」


 軽々と戦鎚を振り、骸骨兵を吹き飛ばしていくヘザー。だがその中には、ライラの言う通り青髪の女性たちの姿も混ざっていた。


 近くにいるグリムが骸骨兵を斬り伏せながら、二人に叫ぶ。


「私のことは気にするな! ここは何とか抑える。キミたちは莉奈の後を追ってくれ!」


「かしこまりました」


「グリム、よろしくね!」


 ライラの呼びかけに、口角を上げて応えるグリム。


 グリムが骸骨兵を抑え、ヘザーが道を作り、ライラが駆け出していく——。


 こうしてライラとヘザーの二人も、決戦の魔法城内部へと突入するのであった。







 ニサは角を曲がったところで仕掛けのある壁を押し込んで、別の通路へと退避する。


 そして急ぎ壁を閉じる。これで『白い燕』は撒けたはずだ。今は早く、大広間へと向かわねば——。



 そのようにひと息ついたのも束の間、壁が、開いた。



「……!!」


「へえ。なかなか凝った造りになってんじゃん」


 白い燕は、迷いなく壁の扉を開けて入ってきた。ニサは反射的に飛び退く。


(……なぜだ……簡単に見破れる仕掛けではないはずなのに……!)


「どうする? 降参する?」


「……くっ!」


 ニサは背中を向けて駆け出す。こんなところで時間を取られている場合ではないのに。


 焦燥感に駆られたニサは、再び曲がり角を曲がり、今度はそこで待機をする。待ち伏せだ。


 全身で集中しろ。耳を澄まし風の音を聞け。そしてタイミングを合わせ——


 ——今だ。


「……!」


 その剣は、空を斬った。目を見開くニサ。急停止してその一刀を躱した莉奈が、彼女の前に躍り出る。なぜだ、タイミングは完璧だったはずなのに。


 莉奈の小太刀の一刀を受け流しながら、ニサは苦悶の表情を浮かべた。


「……なんだ、お前は……さっきの扉といい、なぜわかる……」


「さあ? 女の勘、ってやつ?」


 莉奈はこの狭い通路においても、壁を上手く使い縦横無尽に飛び回る。その息をもつかせぬ連続攻撃に、ニサは翻弄されていた。


 加えて。斬り結んでいるうちにニサは違和感に気づく。


 なにかこう——ニサの攻撃が先読みされているような不気味な感じがするのだ。


「……お前……まさか、未来でも視えているのか?」


 額に汗を浮かべるニサの問いかけに、莉奈は悪戯っぽい笑みを浮かべて答えた。



「ふふ、違うよ。あなたが教えてくれているだけ。こんなふうに、ね」



 フェイントを入れたニサの一撃が、弾き飛ばされた。そのがら空きになった彼女の胴体に、莉奈の飛び蹴りが炸裂する。


「とうっ!」


「……ぐふっ」


 そう。それは莉奈の、視界を、意識を別の場所に飛ばす能力。莉奈はニサの視界を、ジャックしていた。


 よろめくニサ。そんな彼女にビシッと小太刀を向けて、莉奈は宣言した。



「さあ、降参しなさい。そして……あなた達のボス、ヘクトールを倒すまで、お願いだから邪魔しないでね」





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