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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 第五章
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千年の野望 05 —再会の日—





 現在の時間軸から五十年ほど前——。



 ハウメアのいるブリクセン国の城、通称『魔女の城』には、久しぶりに再会する三人の魔女の姿があった。


「いやー、二人とも久しぶりー。もうちょっと頻繁に会いにきてくれてもいいんだよー?」


 出迎えたハウメアの笑顔に、自然と顔を綻ばせるエリスとセレス。三人は席につき、他愛のない会話を始める。


「ほら。私はエリスみたいに空間魔法得意じゃないから。ねえ、エリス。あの魔法、コツとかあるの?」


「んー。ぐねぐねー、ってやってピーン! みたいな?」


「うん、まったくわからないわ」


 身振り手振りで説明するエリスに、呆れた様子のセレス。ハウメアは昔を懐かしみ、にこやかに笑う。


「変わってないねー、二人とも。で、どうだい、あなた達の国の方は」


「そうね。オッカトルは問題ないわ、マッケマッケが上手くやってくれてるから。最近は任せっぱなしだし。ただ、渡り火竜が定期的に来るのは勘弁して欲しいかしら」


 そう言ってセレスは、頬に手を当ててため息をつく。とはいえ、彼女の右腕を務めるマッケマッケは優秀だし、火竜も現状、セレスが出張れば問題ない。ここは安心だろう。


「んで、エリス。サランディアはどうかなー?」


「そうだねー。今の五代目国王は優秀なんだけど、その息子がちょっと頼りないかな。まあ、オフィーリアもいるし、彼女と協力してなんとかするよ」


「あら、オフィーリアって?」


 首を傾げて尋ねるセレスに、エリスはニコニコしながら答えた。


「ふふ。聞いてないかな、『南の魔女』。彼女、人間族なのに魔法が凄くて人望も厚いから、スドラートの方を任せてるんだー」


「へえ、『白き魔人』のあなたが認めるほど凄いのね!……でも、人間族だと、すぐにいなくなっちゃうんじゃない?」


 そう。人間族は長くても百年ほどしか生きられない。だが、そんなセレスの質問にエリスはしたり顔をする。


「ふっふー。彼女ね、お弟子さんがいるの。確か……ナーディアっていったかな。だから全然心配ないよ」


 その話を聞き、ハウメアとセレスは嬉しそうな顔をする。


 人間族は魔族に比べて寿命は短い。だが、だからこそ、彼らは次の世代への『継承』を重んじるのだ。魔族が軽んじている部分。それだけに、彼らから学ぶことは多い。


 話の区切りのついた所で、セレスがうっとりとしたように言う。


「……あーあ、人間族かあ。人間族でもいいから、私の前にステキな人、現れないかしら」


「えー。私は残されるの嫌だから、人間族はいいかな。死ぬ時は愛する人に看取って欲しいもの」


 なぜだか恋話に花を咲かせ始めるセレスとエリス。ハウメアは学生時代を懐かしみながら、エリスに突っ込んだ。


「あれー、エリス。その前にあなた、西の森に引きこもってる、って聞いたけどー? そんなんじゃいい男、捕まえられないよ?」


「わ、わわ、城に引きこもっている先輩に言われたくないしっ! 森にもいい男いるもん!」


「いい男!?」


 セレスが身を乗り出して食いつく。まさかエリスに先を越されてしまうのか? いや、いい男なら私に……!


「あー、うん。いい男ではあるけど、私のタイプじゃないかなあ……魔法の話をするのは楽しいんだけど」


「エリス? 私たち、友達だよね?」


「うっ……セレス、ごめんね。あの、アルフ……その人、あまり人に会いたくないみたいで——」


 仰け反るエリスに詰め寄るセレス。ハウメアは苦笑いを浮かべながら、話を戻した。


「まあ、問題ないようでなによりだ。ここ、ブリクセンもヒイアカとナマカが上手く回してくれている。よし、じゃあ、政治的な話、いくよー」


「「はーい!」」


 声を揃えて返事をする二人を見て、ハウメアは微笑む。


 ——この二人なら、大丈夫だ。あなた達に任せて、本当によかった——


「……では、まずは大陸諸国の動向について——」




 ——再会の日は過ぎていく。


 こうして三国は、更なる結束を強めていくのだった。







 魔法国。



 ここにある城の書庫で、ヘクトールは提出された数ヶ月分の成果物に目を通していた。


 研究班の主任が、唾を飲み込みながらその様子を見守る。


 やがてヘクトールは、とあるレポートで手を止めた。


 それをじっくりと読み込むヘクトール。その目は大きく開いていき——


「おい」


 主任はビクッと身体を跳ねさせ、返事をする。


「は、はい。なんでしょう……」


「この研究をしたのは、誰だ?」


「は、はい……」


 主任は恐る恐るレポートを覗き込む。


 そこに書かれていたのは、『魅惑の魔法』の制限解除、及び最適化の研究の進捗状況。


 その進捗状況の部分には——『90%』の文字が書かれていた。


 ヘクトールは主任の返事を待ちながら、付随したレポートに目を通していく。


 主任は眼鏡を直しながら返事をした。


「……はい、あの、こちら、カルデネという研究員が……」


「連れて来い」


「……は?」


「今すぐ連れて来い」


 そう事務的に主任に命じるヘクトールは、内心、驚愕していた。


 彼が二百年以上かけても辿り着けなかった到達点。


 そこに、短期間で辿り着いた研究員がいる——。


 しかし。


 ヘクトールの命令に、主任は言葉を詰まらせていた。


「……あ、あの、カルデネは、もう……」


「……なんだ?」


「カルデネは退職しました!」


 観念したかのように大仰に頭を下げる主任。


 その様子を見てヘクトールは訝しみ、問いただす。


「なぜだ? 理由は?」


「……は、はい。彼女は目立つというか何というか……女性からは容姿、男性からは才能を疎まれて、研究室の空気が悪くなっていったので、それで……」


「まさか、追放したのか?」


「……い、いえ、ちょ、直接的には。ただ、遠回しに、君がいると研究室の空気が悪くなると……」


「そうか。その彼女一人で、お前たち研究員が束になっても敵わないほどの成果をあげられる人物、と知った上での判断なんだな?」


「……!……そ、そのような……」


 すっかり顔を青くして、しどろもどろになる主任。


 ヘクトールは目を閉じ、深く息を吐いて立ち上がった。


「……君、ついて来なさい」


「……は、はい……」




 …………————。




 ヘクトールは魔素に還り始めている主任の脳を弄りながら考える。


(……惜しい。その研究員がいれば、幾ばくも時間はかからなかっただろうに……)


 だが。


 あそこまで研究が終わっていれば、凡人のヘクトールでも手が届くだろう。


(……やはり神は私の味方だ。待っていろよ、ドメーニカ。もうすぐだ、もうすぐお前に届く)


 あとは結界を破る手段だけだ。しかしそれにも、一つの考えがある。


「……やはり、脳を弄るのは……落ち着くな」


 ヘクトールは孤独な部屋で、人知れずつぶやくのだった——。





 それから約十年後、彼、ヘクトールは『魅惑の魔法』の制限を解除することに成功する。




 ——しかし、ヘクトールは、知りようがない。




 ちょうどその頃、彼を穿つ凶刃、『白き魔人』の伴侶となる男——



 ——日本からの刺客、転移者『鎌柄 誠司』が、この地に降り立ったことを——。




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