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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 第四章
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そして私は街を駆ける 10 —そして私は空を駆ける—







 私はライラを捜す為、準備をしに部屋へと戻る。


 急がなくては。何があってもいい様に、私はコートを羽織り、弓矢、小太刀こだちを肩に掛け背中に回す。


(……あっ、そうだ、これもだ)


 ヘザーから預かっているボストンバッグも、忘れずに肩に掛ける。


 そして、私は窓を開けて空へと一気に飛び上がった。もう、目立たない様にとか言ってる場合ではない。


「——『遠くを見る魔法』」


 外は陽が落ち、薄暗くなりつつあった。私は魔法で強化された視界で街を見渡す。


 だが、闇雲やみくもに捜しても見つかるはずがない。


 そもそもすでにライラは誠司さんに代わっていて、人質奪還の為に動き出している可能性もある。


(どうしよう……ああ、そうだ、とりあえず……)


 私は、私達がこの街に入ってきた時に通った、検問が行われている門へと向かう。


 この街に出入り口がいくつあるのか知らないが、思いつく事を片っ端からやっていくしかない。まずは、ライラが街の外に出ていないかの確認だ。




 私は門に到着し、上から検問の様子を窺う。


 どうやら今は馬車が出発の手続きをしているらしい。私は、はやる気持ちを抑え門の上に着地し、衛兵に話しかけるタイミングを伺う事にした。


 その様に、なんとなくで眺めていた訳だが——私は見てしまった。御者ぎょしゃが衛兵に札束を渡すのを、男達の含み笑いを、はっきりと見てしまった。


 私は考える。一つ、その様な文化が有るのかも知れない。一つ、犯罪を見逃して貰う為だ。一つ、家族間でのやり取りである。一つ、最悪の事態に巻き込まれ、ライラがあの馬車に乗っている——駄目だ、考え出したらきりがない。


 面倒くさい、確かめちゃえばいいか。そう結論付けた私は、死角から地面に降り立ち、馬車の中をひょっこりと覗き込んだのだが——


「——おい、どこから湧いてきた」


 ——しまった。思いっきり中の男と目が合ってしまった。


 馬車の中から突き付けられるナイフ。私は反射的に手を上げる。


 馬車の中には男が数人、そして——荷物の影に隠されてはいたが、猿ぐつわをしている女性の姿を、私は見てしまった。ビンゴじゃん。


 私は手を上げたまま後ずさる。


(うわー、逃げたいなあ。でも、義を見てせざるはなんとかなりだよねえ。もしかしたら、ライラもいるかも知れないし……)


「——見られたな、囲め」


 そんな私の事を、馬車の中から出てきた男二人と、賄賂わいろを受け取っていた衛兵が囲いこんだ。


 私は覚悟を決める。目標は馬車の中にいる女性の救出。男達は倒しても構わない。さあ、何処までやれるか。


 私は両手を上げたまま、声を震わせ、上目遣いで嘆願たんがんする。


「——ねえ、抵抗しないから、許してくれる?」


 私の弱々しい言葉を聞き、男達は下卑げひた笑いを浮かべた。そうだ、油断しろ。


「へえ、殊勝しゅしょうな心掛けだな。そうだなあ、俺達の奴隷どれいにしてやろうか?」


 男が舌舐めずりをする。


「へへ、商品には手は出せないからな。自由に出来る玩具おもちゃが欲しかったんだよ」


 男は血走った目で、舐め回す様に私を見る。誠司さんが絶対にしない視線。気持ち悪い。


 すぐにでも殴りたい気持ちだったが、男達は警戒を緩め近寄って来たので、私は我慢する。あともう少し——。


「——ただなあ、これじゃあ物足りないかもなあ」


 男はニヤつきながら、私の胸をナイフの腹でペシペシ叩いた。もう一人の男が釣られて笑う。衛兵の吹き出す音が聞こえる。よし、殺す。全員殺す。


 ——十分に引き付けたと判断した私は、まずは高速で宙返りをしながら、失礼な発言をした男の股間を全力で蹴り上げる。予備動作無しのサマーソルトキックだ。


 グチュっという嫌な音と共に、男は蹴られた勢いで空中で半回転した。そして、股間を押さえながら地面にベチャッと倒れ込む。


 私は空中で止まり、蹴る方向を横回転に切り替える。それは思惑通り、背後にいる衛兵の側頭部にクリーンヒットした。衛兵が地面に口付けするのと同時に、私のつま先も、ふわりと地面に着く。


 間髪入れずに私は、残る一人の男の元へ低空飛行で近づく。そして、男の眼前でピタッと止まり、私は男に選択を迫る。


「ねえ、股間と側頭部、どっちがいい?」


「なっ——」


「はい、時間切れ」


 男の返事を聞かず、私は股間を思いっきり蹴り上げた。男は白目をむいてその場に崩れ落ちる。


 ——決まった。私は倒れている男達に、ビシッと指を立て宣言する。


「私、着痩せするタイプだからっ!」


 ふう、世の中失礼な男が多くて困る——と勝利の余韻よいんひたろうとした、その時だった。


 馬車の方からパチパチパチとゆっくりとした拍手が聞こえてくる。


 そりゃそうか、大切な『人身売買』の取り引きだ。腕の立つ者——用心棒が、居ない訳がない。


「はあ、やるねえ、お嬢ちゃん。いや、立派だよ。ただねえ、困るんだよねえ、邪魔されると」


 身長の高い、痩身そうしんの男がユラリと馬車から降りてくる。見ただけで分かる、今戦ったやから達とは段違いの強さを持っているであろう事を。


「落とし前ってヤツ? つけないとねえ」


 男は無表情で語る。私はこめかみに嫌な汗が流れるのを感じる。さあ、困ったぞ、どうしたものか——。


 ——なぜなら、その男の腕の中には攫われたエルフがおり、そしてその首筋にはナイフがあてられていたからだ。




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