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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 第三章
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駆けるポラナは涙目で 01 —駆けるポラナは悠々と—






 西の森、通称『迷いの森』と呼ばれる森の中——。



 魔法国所属、魔族の耳を持つ女性ポラナは、魔法国私兵二百名ほどを引き連れ進軍していた。


 そして午前九時。部隊は滞りなく、とりあえずの目的地である結界付近へと到達した。


 馬から降りたポラナは、注意深く魔力を集中させる。


「……えっとお……ああ、あったあった」


 この結界の規模から推測されるに、全六十四箇所はあるであろう結界点の一つ。


 以前訪れた時に傷つけた結界点が、そのままの状態で残されていた。


「ふっふーん。どうやら気付かれてないみたいね」



 ——ヘクトールの『実験』。魔力草『トキノツルベ』から抽出されたエキスを元に作られた魔法薬、『トキノシズク』。


 この雫には結界を破る力がある。


 本来は地中深くに眠っている『厄災ドメーニカ』の結界を打ち破る為に作成されたのだが、その余りを、結界点を探ることの出来るポラナがヘクトールから託されたという訳だ。



 ポラナはポーチから『トキノシズク』を取り出し、結界点に満遍なく振りかけた。


 淡く輝き出す結界点。


 やがて——結界点は、消失した。


 これで、『魔女の家』を守っている結界の機能は失われたはずだ。


 ポラナは馬に跨り、進軍を再開する。


「じゃあ、みんなー。慎重にいくよー!」


 結界が機能を失った今、馬車の通った痕跡を辿れば『魔女の家』に行き着けるはずだ。


 ポラナ達は駆ける。目的地『魔女の家』に向かって——。




 ——その一部始終を木の上から静かに見守っていた一人のエルフは、通信魔法を立ち上げた——。







 それからしばらく進み、木々の隙間から小高い丘が顔を覗かせる頃。


 先頭を駆けるポラナは、異変を感じとり耳を動かした。


(……後ろ……静かじゃない……?)


 ポラナ隊は二百名からなる部隊だ。その全員が、馬に乗っている。その馬の駆ける音が、明らかに少なくなっている。


 ポラナは速度を落とし、注意深く振り向いた。


 見ると、彼女についてきている兵は三分の一ほどしかいない。そしてその向こう、遥か後方に広がっているピンク色の霧。


 彼女が魔法により強化された視界で眺めると、霧の中、兵が、馬が、倒れ込んでいる姿があった。


 ——そう。まるで、眠っているかのように。


 ポラナの顔が、瞬時に青ざめる。何が起きた……?


 と、その時だ。頭上から一斉に部隊に向かって降り注ぐ、矢の嵐。


 その矢の狙いは恐ろしいほど正確で。兵も馬も、次々と射抜かれて倒れてゆく。


 混乱したポラナは、たまらずに叫んで命令を下した。


「みんな、走って!『魔女の家』まで、もうすぐだからっ! 多分!」


 駆けていく、駆けていく——残った兵たちはポラナの後を追うように、一目散に駆け出していったのだった。





 やがて彼女達の姿が遠くなったのを確認し、次々と大勢のエルフ達が木の上から飛び降りてきた。


 『風の集落』の男エルフ、チゼットが遠くを見つめる。


「とりあえずは、上手くいきましたな」


 『花の集落』の女エルフ、ミズレイアが口元を押さえる。


「ふふ。この森に害をなそうなんて、許せませんよねえ」


 『鳥の集落』の男エルフ、ゾルゼが大きく頷く。


「フン。まあ、あの嬢ちゃんが数を減らしてくれたからな。こんなもんじゃろ」



 ——この森に住まう、各集落の戦えるエルフ総勢三十名余り。


 彼らはこの一帯の木の上で待ち伏せし、ポラナ隊にとって致命的とも呼べる奇襲攻撃を成功させた。


 遅れて後方から、カルデネを連れた『月の集落』の女エルフ、ニーゼがやってくる。


「みんな、大丈夫だった?」


「ああ。万事計画通り、上手くいったよ」


 にこやかに微笑むチゼット。ゾルゼが高笑いを上げる。


「ハハハ。それにしても嬢ちゃん、すごかったな! 確か……『深き眠りに誘う魔法』だったかのう?」


「……!……は、は、はい……」


 ゾルゼの大声に、震えながらニーゼの背中に隠れるカルデネ。ミズレイアがゾルゼとの間を遮るように立つ。


「こおら、ゾルゼ。カルデネちゃん、男性が怖いって言ってあったでしょう?」


「お、おう、すまん。つい興奮してしまってのう……」


 ミズレイアに窘められ、ゾルゼはシュンと肩を落とす。


 その様子を見たカルデネは、口元を緩めた。


「……申し訳ありません、私は大丈夫です。気を遣わせてしまって……その……ありがとうございます」


「気にするな、友人よ。だが、お前さんの魔法に驚いたのは事実だ。感謝はさせてくれ」


「……はい……!」




 ——作戦は成功した。


 まず、カルデネの『深き眠りに誘う魔法』で後続の兵たちを馬ごと眠らせる。


 そして、魔法の範囲外にいた前方の兵士を矢で穿ち、出来るだけ数を減らす——十分に数を減らしたら、あとは将を『逃がす』だけだ。




「さあ、では皆、生き残りを縛り上げるぞ」


「「はい!」」


 チゼットの号令で、一斉に動き出すエルフたち。



 まずは第一段階成功。ニーゼは通信魔法を立ち上げ、魔女の家に控えている『レザリア』に連絡を入れるのだった。




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