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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 第四章
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そして私は街を駆ける 08 —遭遇—





「待って! どこ行ったの!?」


 私は『義足の剣士』を探そうと、路地裏に入った。だが、辺りをキョロキョロと見渡すが、どこにも姿がない。


 おかしい。隠れる場所もないし、次の曲がり角まで距離があるというのに。


 私は肩を落とす。こんな時、お父さんだったらすぐ見つけられるんだろうな——。


 ——と、その時。背後に妙な気配を感じた。私は前に跳び、姿勢を低くして振り返る。


「チッ、気づかれたか! オイ、回り込め!」


 その男の指示を聞き、私の背後にもう一人の男が回り込んだ。


 私は、考える——誰だこの人たち?


「嬢ちゃん、大人しくしてくれよな」


 そう言って男はナイフをチラつかせる。


 私は、いらつく——そんなオモチャで何をしようというの?


「——もしかして、おじさん達、人攫ひとさらいの人?」


「ほう。知ってるのか。仲間でも助けに来たのか?泣かせるねえ」


 男は下卑げひた笑みを浮かべる。


 私は、舌打ちをする——こっちは、今それどころじゃないのに。早くしないと剣士様が——。


 その時、私にピコーンと名案が浮かんだ。私は両手を上げ、無抵抗の意志を示す。


 そして、通りの人に気づかれない程度の声量で、叫び声を上げた。


「わあー、たすけてー、さらわれちゃうー、うられちゃうー」


「は? 何だ急に?」


 名演技である。


 剣士様の事は仕方がない、今は忘れよう。この街に来た目的は、攫われたエルフさん達を助ける事なのだから。


 さあ、早く攫うがいい。そして、私をエルフさん達の元へ——


「……なにたくらんでやがる」


「え?」


 男達は、あからさまに警戒している。しまった、名演技すぎたか、と私は心の中で舌打ちをした。


 このままだとまずい。剣士様を見失った上に何の成果も得られなけば、私のこの時間は全くの無駄になってしまう。


 いっそ、やっつけてしまおうか——と私が考えた時だった。


「……まあ、いい。ませろ」


 男の指示で、背後の男が私に猿ぐつわを噛ませる。やった。演技力の勝利だ。


「うーうー」


 私は、相手を振り解かない程度の勢いで抵抗するフリをする。そして駄目押しに、とっておきの手段だ。私は、リナから嫌われる想像をする——


『——もう、ライラのことなんか、知らないんだから。ついてこないでね』


 ——冷たく言い放ち、去っていくリナを想像しただけで、涙が瞳からポロポロとあふれだす。


 ものすごく悲しい気分になったが、大丈夫。女の涙に男はだまされる。ってヘザーが言ってた。


「ハハ、怖がる事はねえ。今すぐ、お仲間の所へ連れて行ってやるよ」


 ——よし、計算通り!


 男達は私の後ろ手に手枷てかせめ、フードを被せて私を抱えた。もう少し優しく運んで欲しい所だが、この際だ、贅沢は言うまい。


 しかし、勝手にいなくなった挙句、こんな事してるとリナが知ったら怒るだろうな——。


「……ひっぐ……ぐす」


 駄目だ、考えただけで泣けてくる。だが、ここまで来たら引き返せない。後でリナにいっぱい謝らなきゃ——。




 ——こうして少女は、無事に攫われていったのである。






 アナは、物陰からその一部始終を見ていた。男達に気づかれない様に、息を潜め、ひっそりと。


 気持ちとしては勿論、ライラをすぐにでも助けに行きたかった。だがアナには、大の男を二人も相手に出来る様な力はない。


 しかし、アナにも出来る事はある。


 ——あたしに出来る事は、気づかれない様に後を追うことだけだ。この街の道なら全部知っている。大丈夫、あたしならやれる。あたしがやらなきゃ……。


 アナは決意し、通信魔法を立ち上げた。







 民家の屋根の上、ここにも路地裏での一部始終を見守っている人物がいた。『義足の剣士』だ。


 男達がライラを攫い、そして一人の女性が後を追うのを見届ける。それをどんな気持ちで見つめているのか、その表情からはうかがい知れない。


 そして、路地裏から誰もいなくなった時——『義足の剣士』の姿も、いつの間にか消えていた。







 サランディア城、兵士詰所(つめしょ)——ここでは元騎士団長のノクスと、現騎士団長のアレンがけわしい顔を突き合わせていた。


「——なあ、アレン。『人身売買』のグループがこの街に来た、という情報が入ってきたのが二週間前。そして、最初の行方不明者が出てから一週間近く経つ。その間、俺たちは兵士を動員して、この街や周辺をくまなく探したつもりだ。なのに、未だ何もつかめてない。どういう事だと思う?」


 ノクスの問いかけに、騎士団長のアレンはうなる。ノクスが、何を言いたいのかが分かってしまったからだ。


 それは、今まで可能性を考えていながらも、口に出すことがはばかれる事だった。そして、それを口にする事で、自分達の無能さを証明してしまう事にもなる。


 だが、認めるしかない。アレンは意を決して、最も可能性の高い考えを口にする。


「考えたくない話ですが……兵の中に虚偽きょぎの報告をしている者がいるとしか……」


 アレンの苦々しい物言いに、ノクスは腕を組みため息をつく。これはもう、認める他なさそうだ。


「——だな。元からなのか、買収されたのか知らんが……グループと通じている者がいるな」


「申し訳ない、私が不甲斐ないばっかりに……」


 頭を下げるアレンを、ノクスは手で制す。


「いや、お前さんはよくやってるよ、アレン。少し気負い過ぎな気もするがな。まあ、集団とはそういうものだ。全員が同じ方向を向いている訳じゃない。それに、俺の時代からの問題かも知れねえしな」


「では、兵を集め——」


 そう、アレンが言いかけた時だった。ノクスに通信魔法が入る。ノクスは「すまない」と言い、通信魔法に応えた。


「——どうした、アナ。何かあったのか」


 普段から通信魔法を共有しているが、仕事中に娘から連絡してくる事は珍しい。ノクスに嫌な予感が走る。


『——……お父さん。お父さんがよく行っている、セイジさんとこの娘さん、ライラ、って名前で合ってる?』


 何故そんな事を? と、ノクスは一瞬思ったが、娘の真剣な声にただならぬものを感じ、真面目に答える。嫌な予感は的中しているのかも知れない。


「——ああ、そうだ。ライラちゃんだ」


『——銀髪、長い耳、無邪気な感じ、合ってる?』


「——……ああ、間違いない」


 ノクスの返事を聞き、アナは通信魔法越しに歯噛はがみする。


 もし、あたしが早い段階で気づけていれば、もしかしたら未来は少し変わっていたのかも知れないのに、と。


『——ごめん、お父さん。そのライラちゃん、今、攫われている』


「——なっ……!?」


 ノクスは絶句した。


 何故、ライラが攫われた? 何故、娘と会っている? いや、そもそも何故、この街に? しかも娘は『攫われた』ではなく『攫われている』と言った。つまり——。


『——それで、あたしが今、後をつけている。ねえ、どうしたらいい?』


 娘の震えながら話す言葉を聞き、ノクスは目の前が真っ暗になる。何をやっているんだ。


「——馬鹿、無理すんじゃねえ!」


『——無理もするよ、あたしの目の前で攫われたんだよ!?』


 声を潜めながらも激しく訴える娘の反論に、ノクスは天を仰ぐ。


 どうしてこんなにもお人好しに育ってしまったのかと、我が娘ながら思う。だが、そんな娘を誇りに思うのも確かだ。


「——わかった。兵を連れて俺たちが向かう。通信魔法はそのままで。危ないと感じたらすぐ逃げるんだぞ。それで、今はどこら辺にいる?」


 アナに指示を飛ばしながら、ノクスはアレンに筆談ひつだんで指示を伝える。


 しかし、だ。あのライラが簡単に攫われるとは思えない。相手は余程の手練てだれか、それとも——。


『——うん。距離はとってるから、いざという時は逃げられると思う。今の場所は北西区、教会の裏手の——』


 ノクスはすみやかに準備を済まし、アレンと信頼のおける兵を連れアナの元へと向かう。


(……どうか無事であってくれよ。アナも、ライラも)


 ノクスはせつに願いながら、夕暮れの街を駆け始めた。






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