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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第六部 第二章
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トロア流迎撃戦 08 —ハティ—







 大地にふりそそぐ青白い炎。退避しその光景を見物している冒険者たちは、茫然としながら次々にため息を漏らした。


「……あれが……ヴァナルガンド……」


「……『白い燕』は……あんなのを単独討伐したのか……」


 その時遠い地で莉奈がガクッとよろめいたのは、また別の話——。




 そして同じようにその光景を見た外壁の上では、ヴァナルガンドの息子ハティが楽しそうに笑っていた。


「ハハッ。オヤジぃ、さては面倒くさくなったな?」


 他の面々はというと、グリムは興味深そうに観察し、サイモンは顎に指をあてて「ほお」と感心している。ミラに関しては過去に戦ったときに『遠吠え』は経験していたので、「やっぱりやったか」といった感じだ。


 骸骨兵はほぼ全滅。撃ち漏らした骸骨兵を今、ヴァナルガンドは跳梁して粉砕している。その様子を眺めながら、ルネディはため息をつく。


「ふう、とりあえずは大丈夫そうね。それで、この後どうするのかしら? このまま影で兵士たちを抑えつけていればいい?」


 そのルネディの言葉を聞いたハティが、興味深そうに彼女を見る。


「へえ。影の力使ってんのって、アンタだったのか、お嬢ちゃ……」


 ハティは再生しきっていない小柄なルネディのことを、マジマジと見直す。


「ええと……ロリババア?」


「……ロリ……ババア……?」


 ルネディの双眸が赤く光る。周囲の空気が凍りつく。


 まさに一触即発。その時。


 ペシン。ルネディが何かを言う前に、ミラがハティの頭をはたいた。


「こら、ハティ! 女性に対してなんて口きくの! 謝りなさい!」


「イテテ……ちょい、ミランダさん。だってこんなちっこいのに、貫禄あるから……」


「謝りなさい」


「……すいませんした」


 ハティはミラの迫力に気圧され、ルネディに素直に謝った。ルネディの瞳から赤みが消える。


「……まったく、次はないから。覚えておきなさい」


「……褒め言葉だって聞いたんだけどなあ……うっ、イテテ、すいませんした。それでアンタ、名前は?——」




 一瞬不穏な空気になってしまったが、打ち解け合う面々。


 ハティに自己紹介をしながら皆が戦場の様子を見守っていると、やがて骸骨兵の殲滅を終えたヴァナルガンドが再び男の姿をとり、外壁の上へと降り立った。


「ミランダよ、骸骨兵は殲滅したぞ。これでよいか?」


「ええ、ありがとうヴァナルガンド! 助かったわ!」 


 まさしく、圧巻。結局ヴァナルガンドは、二千体以上いた骸骨兵を、ものの十分で殲滅した。


 現在、残されたサランディアの兵士たちや、サイモンの指示のもと冒険者たちが、影によって身動きの取れないロゴール兵を『保護・救出』に向かっている。



 ——完全なる、勝利。



 ここサランディアも、ロゴール軍の迎撃に成功した。


 そしてその立て役者であるヴァナルガンドは——スンスンと鼻を鳴らしていた。


「どうした、オヤジ?」


 息子ハティの呼びかけに、ヴァナルガンドは気持ち肩を落とし答える。


「せっかく急いで戻ってきたのに、リナの匂いがせんのう。流石にここにはいないか。なあ、ミランダ。リナという人物を知っているか?」


 その質問に、ミラは「ああ」と答える。


「リナちゃんはね、今、家族旅行中よ。ねえ、そういえばヴァナルガンド……あなたリナちゃんに、コテンパンにされたんですって?」


 ピキ。ミラの言葉に固まるヴァナルガンド。ミラはヴァナルガンドの肩に手を置き、ジト目で彼を眺めながら微笑んだ。


「あなたとリナちゃんの戦い、歌になって広まっているわよ。あなた、尻尾の付け根が弱点なんですってね」


「え、オヤジ、マジかよ……」


 プルプルと震え出すヴァナルガンド。やがて彼は——大声で叫んだ。


「ええい! その雪辱を晴らすために、急いで戻ってきたというのに! リナよ、どこへ行ったあっ!」


 ヴァナルガンドの怒声が響き渡る——。



 こうしてサランディアの戦いは莉奈との再戦を熱望するヴァナルガンドの手によって、見事、最小限の被害で終えたのである。








 オッカトル共和国、ケルワン。



 懐中時計を睨む、ロゴール国将軍武人アキナス。



 静寂が支配する。兵たちも息を呑み、その時を待つ。



 そして——時計の針は、六時を指した。



 武人アキナスと、魔族の女性ヘルタは頷き合う。


 アキナスは手を上げ、号令をかけた。


「——全軍、突撃……」



 その時だ。ロゴール軍のいる地面が、瞬く間に砂に覆われたのは。


 柔らかい砂。身動きが取れない。突然の出来事に、アキナスは狼狽する。


「……ヘルタ殿、なんだこれは!」


「……砂……まさか『厄災』!? 噂は本当だったというのか……?」


「どういうことだ!」


 怒号を上げるアキナス。



 だが、それが、彼の最期の言葉となった。



 ヘルタは見る。目の前で起きた、信じがたい光景を。


 怒号を上げたアキナスの頭部が、口を開いたまま地面に、落ちた。



 ——その人物は、いつの間にか現れた。



 ボロボロの赤いロングマントを風にたなびかせ、フードを目深に被っている剣士——



 ——そう。トロア地方最強と名高い、竜殺しの異名をも持つ三つ星冒険者、『義足の剣士』リョウカだ。





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