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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第六部 第二章
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トロア流迎撃戦 07 —一つ、二つ、三つ—





「ミランダよ、久しいな。そうだ。我はヴァナルガンドだ。覚えていてくれたか」


 ミラの呼びかけに、ヴァナルガンドは口端を吊り上げる。


 ミラは過去に、誠司、ノクスと共にヴァナルガンドと戦ったことがある。それが、彼との出会い。


 そして数ヶ月前、誠司と莉奈がヴァナルガンドに会いに行った時、ノクスやミラの名前も口にしていたとのことだ。


 その時の話を聞くと、どうやらヴァナルガンドは女性の姿を取ったらしい。


 だが、今の彼は上半身裸で、筋骨隆々の肉体を惜しげもなく晒している。


 疑問に思ったミラは、骸骨兵を威嚇するヴァナルガンドに礼がてら尋ねてみた。


「助かったわ、ヴァナルガンド。でもあなた、女性の姿だ、ってノクスから聞いたけど」


「ああ。あの時はエルフを怖がらせてしまったからな。セイジに言われ、優しげなめすの姿をとったまでだ。おすの姿の方が、格好よかろう?」


「でも、なんで半裸?」


「全裸がよかったか?」


「もう、最低ね」


 軽口を叩きながらも、ヴァナルガンドの拳のひと振りで周囲の骸骨兵が吹き飛んでいく。


 その時、別の男の声がミラの耳に聞こえてきた。



「オヤジぃ、置いてくなよなあ」



 彼女が辺りを見回すと——



「よっと!」



 ——今度はなんと、痩せマッチョな青年が空から降りてきた。驚くミランダ。


 そんな彼女の様子を気にすることなく、ヴァナルガンドは青年に話しかけた。


「すまないな、ハティ。だがこんな楽しげな催し、見過ごす訳にはいかないだろう?」


「はいはい……相変わらずなんだな、オヤジ……」


 肩をすくめる青年。ミラは立ち上がって青年を見た。


「あの、ヴァナルガンド? こちらの方は?」


「我が息子、ハティだ。セイジの頼みで大陸の方に迎えに行っててのう」


「んで、オヤジ。なんか変なことになってるけど、月喰っていいのか?」


 そうだ。ミラは聞いた話を思い出す。ヴァナルガンドの息子、ハティは『月の光』を喰らうことが出来ると。それはさながら、月蝕のように。


 当時『厄災』ルネディと敵対していた誠司は、ヴァナルガンドにお願いをして——いけない、ミラは慌てふためく。


「ダメダメ、今はダメ! ほら見て、月の力で相手の足止めをしているの!」


 その言葉を聞いたヴァナルガンドが、怪訝な顔つきで彼女が指差す方を眺めると——人の群れの足元に、影がまとわりついている姿が映った。


 ヴァナルガンドは首を傾げる。


「ミランダよ。そもそも、なにが起こっているのだ?」


 ガク。ミラは体勢を崩す。この頼もしい狼は、状況も把握していないのに乱入してきたのか——。


 ミラは気を取り直し、ヴァナルガンドにお願いをした。


「ねえ、ヴァナルガンド。説明するから、私達に力を貸して!」








 外壁の上からその様子を見ていたグリムとサイモンは、驚愕の表情を浮かべる。



 ソレは、突然戦場に現れた。


 青白い炎をその身にまとった、巨大な狼——。



 サイモンが呻く。

 

「あれはまさか……ヴァナルガンド……」


「知っているのか、サイモン!?」


「ん? ああ、まあ、ギルドでも彼の依頼を取り扱っているからね。それにグリム君、君も聴いているだろう。『白い燕の叙事詩』第二番の『白き光が神狼を斬る』編を。あの姿、あの炎、まず間違いないだろうな」


 顎に指を当て、戦場を注視するサイモン。


 そんな彼らの元に、ミラを抱えた痩せマッチョな青年がピョンと跳んできた。


「ここでいいかい? ミランダさん」


「ありがとう、ハティ。助かったわ」


 お姫様抱っこから優しく降ろされるミラ。状況が理解しきれずに唖然とする二人。そんな彼らに向かって、ミラは微笑んだ。


「ヴァナルガンドに骸骨兵を殲滅するようにお願いしたわ。もう大丈夫。冒険者たちを、いったん撤収させて」







 ヴァナルガンドは駆ける、戦場を、蒼い軌跡を残しながら。


 次々と踏み潰されていく骸骨兵。実に呆気ない。


(……まったく……手応えがないのう……)


 ヴァナルガンドは駆け続け、蹂躙する。だが、骸骨兵はまだ二千以上はいるだろうか。


 立ち止まり、周囲を見渡すヴァナルガンド。うじゃうじゃと寄ってくる骸骨兵。


 それを見たヴァナルガンドは、青色吐息を漏らした。


「……ミランダの頼みとはいえ、キリがないのう……一掃するか」


 そう漏らして彼は——天へと駆け上がった。







 ロゴール国将軍、シズモンドは見る。


 薄闇の中、宙に駆け上がる銀狼を。天に威風堂々と立つ、彼の姿を。



 そして響き渡る、銀狼の遠吠え。



 ——遠吠え、一つ。



 銀狼の周囲に、次々と青白い炎の塊が浮かび上がった。


「……なんだ、アレは……」


 その神々しさすら感じられる光景に、シズモンドは心奪われる。そして。



 ——遠吠え、二つ。



 遠吠えに呼応し、次々と降りそそぐ青白い炎の雨。地を穿つその火の玉は爆散し、容赦なく骸骨兵たちを破壊していく。


 そしてシズモンドの目に映る、最後の炎。



 ——遠吠え、三つ。



 銀狼の全身が青白い炎に包まれ、彼自身が大地に降りそそいだ。


 青白い巨大な火の玉。シズモンドは、感嘆の息を漏らす。


(……美しい……)


 直後、大きな衝撃が起こり、風が吹き抜け——



 ——ロゴール国将軍シズモンドは、恍惚の表情を浮かべながら気を失ったのだった。







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