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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第六部 第二章
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トロア流迎撃戦 06 —守る者たち—








「では、そろそろ始める。ルネディ、よろしく頼む」


「ふふ。今日は半月、下弦の月。午前中には終わらせてちょうだいね」


 そう言ってルネディが手を上げると——このサランディア一帯は、瞬く間に影に覆われた。


 そして、その異変を感じたシズモンドはなんと——



「ひいっ、撤収、撤収だ! 総員、退却うっ!」



 ——即決即断、尻尾を巻いて逃げ出そうとしたのだった。


 将の号令を受け、散り散りに逃げ出そうとするロゴール兵たち。その想定外の動きを見たグリムは、慌てて叫ぶ。


「いかん、ルネディ! なんとか捕らえてくれ!」


「……ふう。やってみるわ」


 ルネディは息を漏らし、腕を振り上げた。地面から生えた影の手が、ロゴール兵の足を掴み取っていく——。




 こうして兵たちに関しては、なんとか全員動きを止められたのだが——範囲が広くなってしまった。これでは当初の計画の『影の壁』で取り囲むことが出来なくなってしまった。


 ——狙ってやったのだとしたら、相当切れる人物だな——。


 グリムは考えるが、そんなハズもなく。シズモンドはただ、頑張って逃げようとしているだけなのである。





「——『光弾の魔法』」



 稀有な光魔法の使い手、三つ星冒険者エンダーの放つ光弾が、骸骨兵を蹴散らす。


 だが、数にものを言わせエンダーを取り囲もうとする骸骨兵。


「下がれ、エンダー!」


 掛け声と共に二つ星冒険者の重戦士が前に出て、骸骨兵の攻撃を受け止める。


「ヒュー、助かったよ」


「任せろ、次の詠唱を頼む!」


「ああ——」


 

 ——冒険者百名に対し、骸骨兵三千。


 後衛の魔法使いの魔法が飛ぶ。戦士は前衛に立ち、壁となる。


 この中で一番の破壊力を誇るのはエンダーの光弾だが、彼には『コントロール』がない。


 味方への誤爆をしないよう、隙を見て最前線に立ち攻撃を仕掛けているが——何しろ相手の数が数だ。


 骸骨兵の猛攻を前に、彼らは耐える戦いを強いられていた。



「——『光弾の魔法』」


「——『火弾の魔法』!」


「……はぁぁぁっ、ふんっ!」


「バカ、ビラーゴ。無茶すんじゃねえ!」



 冒険者たちは戦う、互いを支え合いながら。彼らが連携をすれば、骸骨兵ごときに遅れをとることなどない。


 だが——外壁の上から戦況を見下ろすグリムは考える。


 このまま長期戦になった場合、体力の消耗から深手、もしくは致命傷を負う者が出てきてしまうかもしれない。


 グリムの計算ではそれでも押し切れるが——犠牲を払っての勝利はこちらの望むところではない。


(……南の数を減らして、こちらに注力するか?)


 今、グリムの端末千体は、そのほとんどが南の地スドラートで戦っている。


 あちらは『厄災』ジョヴェディがきてくれたので、余裕は出来ている。


 なら、こちらに五百体程度の私を——。


 グリムが決断した、その時だ——戦場に、異変が起こった。







「——ふっ!」


 ノクスの妻、ミラは先頭に立ち、骸骨兵の注意を一身に引きつけていた。


 お飾りとはいえ彼女は過去、サランディア王国騎士団、副団長を務めていたのだ。骸骨兵の相手をするぐらい、訳はない。


 ミラは軽やかな剣捌きで骸骨兵を砕いていく。


 ただ、いまだ現役である彼女の夫とは違い——ミラは長年のブランクをひしひしと感じていた。


(……まったく……歳はとりたくないものね……)


 彼女は健康とダイエット目的——いや、この様な有事の際に備えて、剣術の稽古は欠かさずにおこなってはいた。だが、やはり若い頃と比べると、動きが鈍っているのを痛感する。


(……ノクスやセイジさんは、すごいなあ)


 ミラは剣を振るい続ける。夫の、娘の顔を思い浮かべながら。


 しかし——そうして集中しながら剣を振るミラに向け、冒険者の慌てた声が飛んできた。


「ミラさん! 前に出すぎだ!」


「……え?」


 その声に我に返り、ミラは辺りを見回して自身が置かれている状況を確認する。


 ——しまった。集中し過ぎた。


 ミラは唇を噛む。彼女は集中するあまり、味方の魔法の攻撃によって出来た空白地帯まで前進してしまい、いつの間にか骸骨兵に囲まれてしまっていたのだ。


(……あーあ、やっちゃった。甘いもの食べないと、やっぱりダメねえ)


 ミラは剣を振りながら活路を開こうとする。冒険者たちもミラへの道を作ろうと必死に骸骨兵を斬り伏せる。


 ただ、この状況、実戦から遠ざかっていたミラには少し厳しく——



「……あっ」



 ——骸骨兵の曲刀を剣で受けたミラは、その剣を落としてしまった。彼女が想像する以上に、握力の消耗は激しかったようだ。


 身を屈め、剣を拾い上げるミラ。その彼女に向かって次々と振り下ろされる骸骨兵の剣。


 ミラは身を屈めたまま足払いをして前方の骸骨兵を崩し、後方から振り下ろされる剣を、両手を使って刀身でしっかりと受け止める。


 しかし、彼女の横の骸骨兵が無防備なミラを——。



 その時だ。



 男が一人、空から落ちてきた。



 その男は、ミラを狙っていた骸骨兵の上に落ち、その骨体を踏み潰した。



「そのまましゃがんでいろ、ミランダ」



 そう言って男は腕に青白い炎をまとわせ、軽く振り抜く。


 途端——周囲の骸骨兵達は、青白い炎に包まれた。


 崩れゆく骸骨兵。開ける空間。


 男は青白い炎の吐息を漏らしながら、彼のことを茫然と見上げるミラに笑いかける。



「匂いにつられてやってきてみれば、随分と面白いことになっているな、ミランダ」


「……えっ……あなた……もしかして——」



 忘れるはずもない。その青白い炎、滲み出る威圧感、ミラのことを愛称ではなく名前で呼ぶ存在——彼女はその名を、口にした。



「——……ヴァナルガンド?」



 ——神話級生物。こちらの世界でのフェンリルにあたる存在。



 神狼ヴァナルガンドが、この地に降り立ったのだった。




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