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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 第一章
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魔女狩り 05 —南部・スドラート—






 同時刻、トロア地方南部、サランディア王国領スドラート。



 その地を目指して行軍する、魔法国所属、魔族の男性オスカーは、毒づきながら歩いていた。


「……ったく、こんな辺境の地を任されるなんて……オレ、ヘクトール様に嫌われてるのかなあ……」


 南の地、スドラートに向けられた軍隊はロゴール軍が千に骸骨兵二千。合わせて三千の、この戦において最小規模の軍隊である。


 オスカーの隣を歩くロゴール国将軍ガラノフは、揉み手をしながら彼の機嫌をとった。


「いえいえ、そんなことはありませぬ。オスカー殿なら少数の部隊でも必ずや目的を成し遂げてくれる。ヘクトール卿が信頼されているのが、このガラノフ、よく分かりますぞ」


「むむ、そうか? しかし小さな漁村に、相手は小娘だぞ? ガキでも出来る戦だ」


「何をおっしゃいます、オスカー殿」


 ガラノフは揉み手を全力で回転させながら続けた。


「だからこそ、失敗は許されない。ヘクトール卿は万全を尽くされたのです。いやあ、私もオスカー殿と行動を共にでき、光栄でございます。いい土産話が出来ましたよ!」


「……はは、そうか、そうなんだな。よし、ガラノフ殿、大船に乗ったつもりで任せてくれ!」


「ええ、ええ。このガラノフ、恐悦至極に存じまするぞ!」


 この様にオスカーの機嫌をとるガラノフだったが、内心では舌打ちをしていた。


(……まったく、文句を言いたいのは俺の方だぜ。なんで俺が、こんな辺境の土地に……)


「——どうした、ガラノフ殿。険しい顔をして」


「……! いやいや、なんでもありませぬ。ただ、辺境の漁村、若い女がいるかどうか、期待をしてよいものかと」


「はは、気が早いな、ガラノフ殿。安心してくれ。少なくとも魔女は若い。ヘクトール様には首だけ持ってくればいいと言われているからな。首を切り落とすまでは好きにしろ」


「……ふふ。オスカー殿はお優しい」


「……ふっ、よく言われるよ」



 ——こうして、邪悪な笑みを浮かべる二人が率いる軍隊は、スドラートへと迫っていったのだった。







「……なにかしら、急に背中がゾクっとしたわ」



 ——ここはロゴール軍を迎えうつスドラートの漁村。



 ウィッチハットにワンピース、マント姿と、いかにも魔女の風体をしている『南の魔女』ビオラは、腕をさすりながら隣にいるグリムにぼやいた。


「どうした、ビオラ。武者震いか?」


「ふふ、そうかも知れないわ。ついにアタシの力が、村のみんなの役に立つ日が来たんですもの」


 気丈に振る舞うビオラ。彼女は村を守るために、立ち上がる。


 各地の敵軍の規模、そして、秘密裏に事を運ぶことを考えた場合、ここ、スドラートに割ける人員はいなかった。


 なので、全てはグリムのスキル『千騎当千クラウド』頼りだ。激戦が予想された。


 グリムはビオラの肩を叩く。


「すまないね。出来ればキミには避難して欲しかったのだが」


「いいのよ。大変なのはみんな一緒だもの。ここで戦わなかったら、お婆様に叱られてしまうわ」


 そう言ってビオラは、崖の上にある『魔女の館』、そしてそこにある『先代・南の魔女』ナーディアの眠る墓のある方を見つめる。


 村人達は『魔女の館』に避難してもらった。ビオラは深呼吸をし、一つの魔法を唱え始めた。


 それを見守るグリム。やがて彼女の言の葉は、紡がれる。



「——『空を飛ぶ魔法』」



 魔法の効果が現れると、ビオラの身体が宙に浮かびあがった。


 彼女は腰のホルダーに加え、魔力回復薬が大量に差し込まれたホルダーをたすき掛けにしている。魔力切れの心配はしばらくは大丈夫だろう。飲み忘れさえしなければ。


 グリムはビオラに、念押しをする。


「ではビオラ。魔力切れを起こさないように早めに飲むこと。それと、私のことは気にせずに、どんどん魔法を撃っていいからな」


「え、ええ。気をつけるわ……じゃあ、行ってくるわね」


 不安そうに答えるビオラ。彼女とて、魔力切れを起こしたくはない。ただ、気がつくと熱中するあまり、つい、飲み忘れてしまうのだ。それはもう、肝心なところで。


 ビオラは頭を振り、不安を振り払う。そしてキッと口を横に結び、上空へと飛びたとうとした、その瞬間ときだった。



 ——突然、声が響いた。



『——ほう。限られた人間族の魔力量、しかもその若さで『空を飛ぶ魔法』を習得するとは、なかなか見所のある娘じゃのう』



 ビオラは驚き、辺りを見回す。しかし、何も見えない——。


 だが、グリムはその声を聞き、口角を上げた。


「やあ。リョウカから聞いてはいたが、本当に来てくれるとは思わなかったよ」


『——フン。青髪よ、久しぶりじゃのう。まあワシはただ、ヘクトールにひと泡吹かせたいだけじゃ。彼奴の思い通りに事が運ぶのは、面白くないからのう』


「えっ? えっ?」


 状況が把握できないビオラ。そんな彼女の隣に、その者は姿を現した。


 その人物に向かって、グリムは語りかける。


「……では、よろしく頼むよジョヴェディ。降伏する兵以外は、殲滅して構わない」


「フン、随分と生ぬるいのう。では——」




 稀代の魔術師、土の『厄災』ジョヴェディは、ビオラを横目で見た。




「——ついてこい、娘よ。ワシが魔法というものを、教えてやる」





 南の地、スドラート。ロゴール軍と骸骨兵合わせて三千を、『不死身の千体』グリム、『人を気まずくさせる天才』ビオラ、そして『対軍最強の人物』ジョヴェディが迎えうつ。



 相手にとって『悪夢』となる戦いが、始まる——。









 同時刻、ここは魔法国跡地、地下。



 ヘクトールはニサに話しかける。



「そろそろ始まったかな、ニサ」


「ええ、そうですね。始まったでしょう、戦いとも呼べぬ戦いが」


「では、日陰暮らしも今日でお終いだ。ニサ、今日を『魔法国ヘクトール』の、建国記念日としよう」


「はい……ついに、ですね。では、城を……」



「——ああ。浮上させる」




 その日、魔法国跡地。半壊した城のあった場所に、新たなる城が地中からせり上がってきた。


 ヘクトールは、ほくそ笑む。


「……これで私の邪魔をする者はいなくなる。そして……世界を……!」




 ——彼らは気づかない。その『戦いとも呼べぬ戦い』が、グリムの手の内にあることに——。




 トロア地方、各地で開戦。『魔女狩り』という名の虐殺。それに立ち向かう者たちの戦いが——始まる。




お読みいただきありがとうございます。


これにて第一章完。次章より迎撃戦、始まります。


引き続きお楽しみいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。


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