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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 第一章
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魔女狩り 02 —ブリクセン・南方—






 同時刻、トロア地方北部、ブリクセン国の南、元魔法国との国境付近——。



 ブリクセンを南から攻めるロゴール軍三千の兵。それを率いるのは、ロゴール国将軍、ゼノンだ。


 彼は進軍しながら、隣を歩く従兵に漏らす。


「……まったく、つまらない戦だ。我々はただの引き立て役ではないか」


「そう仰らないで下さい、ゼノン閣下。我々がいるからこそ、この作戦は成り立つのですから」


「……フン」


 面白くなさそうにゼノンは鼻を鳴らす。


 ——ゼンゼリア国方面と魔法国方面、両面からのブリクセンへの挟撃。


 確かに、ゼノン隊の役割は重要だ。


 ブリクセンがペステラーゼ隊に力を注げば、ゼノン隊がそのまま攻め入ればよし。もしブリクセンがゼノン隊に人員を割いた場合、それはそれでペステラーゼ隊の負担はだいぶ軽くなる。


 とはいえ、あちらはペステラーゼ隊とゼンゼリア国の兵、合わせて三万五千だ。数の暴力で押し切れるだろう。


 順当にいけば、ゼノン隊の出番はない。配属された兵たちには悪いが、ただの賑やかし要員だ。


 ゼノンはため息をついて振り返り、後ろからついてくる軍団を眺める。


「……して、あの気味悪い奴らは大丈夫なのだろうな?」


「……はは、恐らくは。ヘクトール卿のご厚意なので」


「まったく……魔物風情の力を借りるなど……」


 そう。ゼノン隊の後ろをついてくるのは、ヘクトールの魔術によって作り上げられた『骸骨の魔物』の軍団。その数、約五千体。


 ヤツらはヘクトールから渡された指輪を持つ者に従うとのことだが——ゼノンは自身の右手に着けている指輪を、忌々しく眺めた。


「まるで、魔物の王にでもなった気分だな」


「我慢なさって下さい。トロア地方を獲るのは、王の望みなのですから」


「フン、分かっておる」


 骸骨兵一体を一人として数えていいものかは分からないが、合わせて八千。遊撃的な役割を果たすゼノン隊にとっては、十分過ぎる数だ。


 だが——国境に近づくにつれ、彼らの目にはっきりと映し出される黒い影。ゼノンの顔が険しくなる。彼は腕を上げ、進軍を止めた。


 その目に映る影とは、国境に沿って積み上げられた土嚢どのう


 そして、その後ろには——ゼノン隊を迎えうつ無数の人影が待ち構えていたのだった。







「おーおー、圧巻の光景だね、ナマカ」


「そうだね。でも、もうちょっと緊張感持ちなよ、ヒイアカ」


 土嚢の影から顔を出し、敵軍の影を見つめるのはブリクセン国の重鎮、ヒイアカとナマカ。三つ星冒険者としても名の知られている、ハウメアの側近を務める姉妹だ。


 そんな彼女達の元に青髪の女性グリムが、従者の兵士二人を従え近づいてきた。


「なんとか形になったな。ヒイアカ、ナマカ」


 グリムはゴーグルをかけ、遠くに見えるロゴール軍を見据えながら姉妹に話しかける。


 その様にのんびりと語る彼女を見て、ヒイアカとナマカは苦笑した。


「土嚢の壁を作ったのは、グリム、あなたじゃん。確か『クラウド』、だっけ? よくひと晩で作りあげたね」


「うん。私たちはグリムに言われた通り、深夜にバレない程度の兵を動かしただけ。でも、この数で足りるの?」


 こちらの動きを悟られないよう、全ては昨晩の内に、出来るだけの準備をした訳だが——グリムは敵軍の動きを注視しながら、飄々(ひょうひょう)と語る。


「十分だ。キミ達こそ厳しい条件の中、よく秘密裏に『五百人』も動かせたね」


「うーん。『五百人だけしか』、って感じかな。日付けが変わるまでは絶対に動くな、って話だったから」


「うん、ごめんね。もうちょっと集められれば良かったんだけど……」


 申し訳なさそうな表情を浮かべる二人。そんな彼女達に、グリムは口角を上げて応える。


「なに。そのまま突っ込まれたら分が悪いし、土嚢だけ積んだところで警戒してもらえないからね。キミ達の連れてきた兵は、ただ、相手を警戒させてくれればいい」


「……どういうこと? そろそろ教えてもらえると嬉しいんだけど。ね、ナマカ」


「うん、そうだね。私たちも詳しい話は何も聞かされてないから……」


 徹底的な情報統制。ハウメアの側近であるヒイアカとナマカですら、作戦の全容は知らされていない。


 二人に答えようとグリムは口を開きかけたが——その時、敵軍の方に動きが見られた。


 グリムは手を上げ、従者の兵士に声をかけた。


「すまない、敵軍が動くぞ。クレーメンス、クラリス、よろしく頼む」


 その言葉に兜を外す従者の兵士二人。ヒイアカとナマカはその顔を見て、声を揃えて驚く。


「「クレーメンスに、クラリス!?」」


「ふう、ようやく出番か」


「まったく! 顔を隠す必要あったんですか!?」


 兜で蒸れた髪をぺったんこにしながら、プンスカと怒るクラリス。それを見たグリムは肩を揺らす。


「まあ、敵にキミ達の顔が知られていたら面倒だったからね。気にしないでくれ」


「もう! 分かりましたよ……コホン。では、早速始めましょう、伝説をっ!」


 ひと通り文句を言って満足したのか、クラリスは声を抑えて歌い出す。



 ——彼女の透き通った歌声が、クレーメンスの耳に響き渡る——。




 ブリクセン南部、開戦。


 敵軍八千に対し、ブリクセン軍は五百——。



 ——グリムは、口角を上げた。




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