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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第六部 序章
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序章 動き出す悪意 ②





 トロア地方中央北部、魔法国跡地——。



 今や廃墟と化した街。だがその土地の地下には、広大な空間が広がっていた。


 その空間には一つの街が形成されており、世の破滅を望む一部の魔族達が息を潜め生活していた。


 そしてかつて、二十年ほど前まであった魔法国の城の跡地。その地下に作られた『もう一つの城』の書庫に、彼はいた。


 男の名は、ヘクトール。彼は本から目を上げ、霞んだ目を休める。


 その時部屋がノックされ、いつもの様に一人の女性が入ってきた。



「魔導師ヘクトール様。定時報告に参りました」


 そう言って彼女は、ヘクトールの机の前に立つ。


 ——彼女の名は、ニサ。このトロア地方にて、二十年ほど前に魔法国を襲った『光の雨』事件以来、活動が確認出来ていない『三つ星冒険者』の一人。


 魔法国の被害状況から、冒険者ギルドからは『死亡』と判断された人物である。


 彼女はヘクトールに心酔し、今日まで彼の右腕となってその手腕を振るっていた。ヘクトールからの信頼も厚い人物だ。


 ニサは三日後に控えた戦争に向けての準備、その進捗を報告する。


「——ロゴール国から転移陣を使用しての兵の移動は、先ほど無事、終わりました。すでに出発している先発隊を含め、これで全ての準備が整ったことになります」


 その報告を聞いたヘクトールは、満足気にうなずく。


「そうか。して、配置は?」


「はい。当初の予定から変更なく、ロゴール国一万の兵の内、本日到着した三千はブリクセンへと出発予定。すでにケルワンへは四千、スドラートには千、サランディアには二千の兵が向かっております」


「ブリクセンには……ハウメアにはロゴール、ゼンゼリア合わせて四万近くか。まあ、十分だろう。他の魔女も……骸骨兵を合わせれば問題ない、か」


 何度繰り返したことだろう。顎に手をあて、頭の中で軍の動きを想定するヘクトール。そんな彼に、ニサはゆっくり微笑みかけた。


「ええ。『東の魔女』のいるケルワンへはヘルタ、『南の魔女』のいるスドラートにはオスカー、そして『西の魔女』のいたサランディアにはポラナが同行しております……骸骨兵たちと共に」


「フフ、そうか。まあ……過剰だな」


「はい。過剰ですね」


 二人は目を合わせ、笑い合う。過剰な戦力。だが、相手は魔女と称される人物だ。多いに越したことはない。


「ところで、ニサよ。ハウメアには気づかれていないだろうな?」


「はい。ロゴール国の放った間者の情報によりますと、ブリクセンに動きはない、と」


「そうか。まあ、ここまで来たら、今更気づいた所で手遅れであろう。ハウメアめ……厄介な存在だった。奴さえいなければ、日陰の身として息を潜める必要もなかったのだが。ニサよ、苦労をかけたな」


「いえ。勿体ないお言葉、ありがとうございます」


 恐縮し、深々と頭を下げるニサ。その表情は、恍惚とした色に満ちていた。


 そんな彼女の様子を、感情の抜け落ちた目で眺めながらヘクトールは思いを馳せる。


 長かった。ここまで準備したのだ。この戦は、もはや問題ないだろう。ヘクトールはその先、自身の悲願に頭を切り替える。


「それにしても、二十年ほど前に作った『厄災』。今になって復活してきているらしいな」


『厄災』の復活——ニサは顔を上げ、真面目な顔つきで答えた。


「はい。噂では一人の英雄、『白い燕』なる人物が従えて回っているそうですが——」


 そこまで言って、ニサはフッと息を吐く。


「——所詮は歌。『厄災』の復活は事実らしいですが……どこまで信憑性があるのか、分かりませんね」


 彼女の話を聞き、ヘクトールは考え込む。


 ヘクトールの推測では、『厄災』は例え肉体が滅ぼされたとしても、一年以内には復活出来る計算だった。


 しかし、いつまで待っても復活してこない。いや、ヴェネルディだけは一年後に一回復活したらしいが——人間に『厄災』の力を与えたのが影響したのか?


 もしくは、何か魔女どもが『厄災』を滅ぼす手段を手にしたのか——そう考えていたが、ここに来て『厄災』は復活してきている。


 まあ疑問は残るが、最悪、二十年ほどあれば復活出来ることは分かった。なら、問題ない。自身が『厄災ドメーニカ』の力を手にし、もし万一があったとしても——二十年ほど経てば復活出来るのだ。


 首尾よく力を手に入れ、悠久の時を生きることになるであろうヘクトールにとって、二十年などほんの瞬きをする程度の時間だ。全く問題は、ない。




 ——ヘクトールは気づいていない。『魂』を滅ぼすことの出来る、誠司という男の存在に。『厄災』の復活には、別の何者かの意思が働いていることに——。




 ヘクトールは姿勢を正し、ニサに答える。


「まあ何にせよ、障害と成り得るのは、やはり『魔女』だ。奴らの首、楽しみに待っているぞ」


「はい、必ずや——」



 こうして、戦を目前に控えたニサの報告は終わった。


 ヘクトールはほくそ笑む。


 あとはただ、圧倒的な兵力を持って、この地方を、魔女達を蹂躙すればいい、と。



 そして三日後。九月も終わりに近づき、涼風が吹き抜ける早朝、午前六時——



 ——トロア地方全土を巻き込む『魔女狩り』の幕は、切って落とされるのであった。






 次話より第一章開始です。



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