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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 第四章
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そして私は街を駆ける 06 —ライラとクレープ—





「こんにちは。となりいいかな?」


 突然、声を掛けられ、誰かが隣に座った。


 ライラが横を向くと、そこには小麦色の肌の女性が座っていた。ライラはおどろく。さっきまでライラの前に並んでいた女性だ。


「お姉さん、さっきの——」


「死にそうな顔してるんだもん、心配して後つけてきちゃったよー。あの店って、すぐ売り切れちゃうんだよねえ。だいたいみんな分かってて並んでるんだけど……もしかして知らなかった?」


 女性の質問に、ライラは力なくうなずいた。


「うん……私、この街来たの今日が初めてで……でも、見てたらすっごい食べたいって思って……そっか、売り切れちゃうんだね」


「ああ、なるほど。初めてこの街に来たんだ。そりゃ、知らないハズだあ。そっかそっか」


 そう言って、女性は紙袋の中をガサガサあさる。


 そして、袋の中からクレープを取り出し、笑顔でライラに握らせた。


「はい。チョコストロベリークレープキジカタナッツオオメクリームマシマシだよ。食べていいよー」


「えっ、何で……?」


 何でクレープをくれようとするのか、何でライラの欲しかったものが分かるのか、ライラの頭の中は疑問符で一杯だ。女性は笑いながら言う。


「だって、あたしの後ろでずっとつぶやいてるんだもん。あたしもそれ食べたくなっちゃってさー。でも、もう一つあるからね、遠慮せずそれ食べていいよ」


「え、でも……」


 言葉とは裏腹によだれを垂らしまくっているライラの頭を、女性はポンと撫でた。


「あたしね、この街が好きなんだ。だからね、この街をあなたにも好きになって貰いたい。ようは、ただのあたしのお節介。食べてくれると嬉しいな」


「うう……お姉さん、ありがとう。では、いただきますっ!」


 女性の屈託くったくのない笑顔に、ライラはお礼を言いクレープにかぶりつく。


 その瞬間、口の中に芳醇ほうじゅんな甘味とふわふわの食感が広がった。


「んふー!」


 ライラは目を輝かせ、クレープを指差し女性の肩をパンパンと叩く。


 そして、二口目、三口目と、どんどんかぶりついていった。


「おいひー!」


「うふふ。気に入ってくれた?あたしも食べちゃおー」


 女性も紙袋からクレープを取り出し、食べ始めた。




 ——幸せな時間が過ぎてゆく。




「ごちそうさまっ!」


 ライラは食べ終わった後も、口の周りについたクリームを指で取ってペロペロめている。その様子を眺める女性も、幸せそうだ。


「そんなに美味しそうに食べてくれると、あげた甲斐があったね。はい、あたしもごちそうさまっ」


 そう言って、女性は最後の一口を口の中に放り込んだ。


 そこでライラは気づく。クレープをご馳走してくれた女性に対して、まだ自己紹介をしていないではないか。


「あっ、ごめんなさい。私、ライラっていいます。十六歳です!」


「ああ、そういえばまだだったね。あたしはアナ。年齢は……内緒でもいい?」


 アナは苦笑いしながら頬をかき、ライラに右手を差し出した。


 ライラはアナの右手を両手でつかみ、ブンブンと握手する。


「よろしく、アナ!」


「よろしくね、ライラちゃん。ところで、ライラちゃんは一人なの?」


「うん、一人で街を見て回ってるの」


 その言葉を聞き、アナは眉をしかめる。そして、若干声を落としてライラに話し掛けた。


「ええとね、一人でいるあたしが言うのもなんだけど……今ね、あまり女の子が一人で歩き回らない方がいいかも」


「……なんでかな?」


 聞くまでもない。人攫ひとさらいの件であろう。こんな街娘まで知り得てる程の規模なのか、とライラは驚いた。だが、ライラは念の為、知らないフリをする。


「——それがね、今この街で女性が攫われているらしいの。まったく、あたしの大好きな街でなにしてくれてんだって感じ。まあ、さすがにこんな真昼間なら大丈夫だと思うけどねー」


 アナはつまらなさそうに鼻を鳴らす。


 そう、誠司や莉奈が外へ出るなと言っていたのは、それを危惧きぐしてのことなのだ。


「……そっか。もっと色んなとこ見て回りたかったんだけどなあ」


 ライラは急に申し訳ない気分になり、諦めの声をもらす。


 そのライラの言葉を聞き、アナがまるで当たり前かのように口を開いた。


「じゃあさ、夕方まででよければあたしが案内してあげようか? 二人なら、人の多いとこ歩けば全然問題ないし。それにあたし、この街のこと、色々知ってるよ」


「え? ほんと!?」


 ライラの顔がパァッと輝く。


 もし現地人であるアナに案内して貰えれば、色々な場所を知ることが出来る。まさに渡りに船だ。


 ライラの反応を見て、話は決まったとばかりにアナは立ち上がり、耳に手を当てる。通信魔法だ。


「——あ、もしもし、お母さん? クレープ売り切れてたよー——え? しょうがないじゃん。あ、それとあたし、ちょっと寄り道するから——うん、仕事には直行するよ——わかった、じゃあねー」


 通信を終えたアナは、ライラに手を伸ばす。


「んじゃ、ライラちゃん、行こっか」


「え……私、もしかして、お母さんのクレープ……」


 通信魔法の内容が聞こえ顔を青くするライラに、アナはにっこりと笑いかける。


「あー、いいのいいの。お母さん、週四であそこのクレープ食べてるから。それよりどこ行こっか。どんな所見てみたい?」


「うんっ! えとね、えとね——」


 ライラはアナの手を取り立ち上がる。


 アナに色々案内して貰えれば、明日の莉奈との買い物が、もっと素晴らしいものになるはずだ。


 期待に胸をふくらませ、ライラはアナと共に歩き出すのだった——。





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