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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 エピローグ
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エピローグ ④









 翌早朝。



『魔女の家』の玄関前には、『支配の杖』を大事そうに抱えながら大きなバッグを持つカルデネと、彼女に付き添うレザリアの姿があった。


「……では行きましょうか、カルデネ」


「……うん」


 名残惜しそうにカルデネは魔女の家を見上げる。やがて軽く目をつむり、振り返って一歩踏み出そうとした、その時だった。



「ちょっと大荷物なんじゃない? どういうことかな、カルデネ」



 その声に驚きカルデネが声のする方を見ると——物陰から莉奈が歩み出てきた。


 彼女の姿を見てカルデネは少し慌てた様子を見せたが、やがてうつむいてポツリと言葉を出した。


「……うん、昨日話した通り、妖精王様に支配の杖をお返ししに——」


「それだけなら、そんなに荷物を持っていくことないんじゃない?」


 カルデネの方に歩みよる莉奈。彼女は真っ直ぐに、カルデネを見つめた。



「カルデネ。家を出るつもりなんでしょ?」



 その質問に答える代わりに、カルデネはうつむいた姿勢のまま寂しそうな微笑みを浮かべた。


 彼女の様子を横目で見たレザリアが、慌てて言い訳をする。


「あの、リナ。カルデネにも理由がありまして……」


「そう。聞かせてくれる? カルデネ」


 沈黙。莉奈は静かにカルデネの言葉を待つ。カルデネは顔を上げ、莉奈の顔を真っ直ぐに見つめ返した。


「うん。セイジ様とライラも在るべき形に戻れて、私の役目は終わったから……」


「一つだけ、聞かせて」


 莉奈はカルデネに、問う。


「この家から、出て行きたかったの?」


「……そんなことない!」


 思わず大きな声を出してしまい、キュッと唇を噛み締めるカルデネ。しかし彼女は意を決し、莉奈に自分の心情を静かに吐露し始めた。


「私だって、ずっと皆んなと一緒にいたいよ……。でも、セイジ様もライラも、そしてリナも、ようやっと幸せな家族の形を手に入れたんじゃん。私なんかがいたら、邪魔になっちゃう……」


「誰かが言ったの? カルデネが邪魔だって」


「……それは……」


 勿論、言われてなんていない。カルデネが自身で判断したことだ。


 誠司がカルデネを迎え入れる時に出した条件、『とりあえずは君が一人で歩ける様になるまで』。それを気にしているのだろう。


 レザリアは思い返す。いつかの洞穴でカルデネと交わした、恋話を。



 ——「……うん、セイジ様と約束したの。あの家にいていいのは、私が独り立ちできるまでって。きっと私は邪魔者だから、早く力をつけて、セイジ様の恩義に報いて、独り立ち出来るように頑張らないと……」



 結局、レザリアが説得するもカルデネは今日の旅立ちを決めた。


 涙ぐみながら莉奈の顔も見れずにうつむいてしまう彼女を見て、レザリアはため息をつく。



 人の心の動きにはさといのに、なんで自分絡みのことは見えないのでしょうね——と。



 すっかり押し黙ってしまったカルデネを見て、莉奈は彼女のことをジト目で見て、つぶやいた。


「『胸を大きくする魔法』」


「……え?」


 カルデネは顔を上げる。


「約束したよね。『胸を大きくする魔法』の最適化に挑むって」


「……あっ」


 そうだ。莉奈達が北に旅立つ前の温泉で、半ば無理矢理にカルデネは約束させられたのだ。


 莉奈は鼻で息を吐いて、踏ん反り返る。


「この家の家族として、改めてあなたにお願いする。カルデネ、『胸を大きくする魔法』を、魔力量57の私でも唱えられるように最適化してちょうだい。それが出来るまで、あなたをこの家から逃がさない」


「……リナ、ごめん……それ、一生かかるかも……」


 困惑しながらも事実を告げるカルデネに、莉奈は「くっ!」とよろめきながらも、笑顔で答えた。


「よし、じゃあ生涯を捧げて。でも……出来れば私が死ぬ前に、お願いね」


「……いいの? 私なんかがいて……」


 恐る恐る莉奈に視線を合わせる彼女の頬は、濡れていた。莉奈は大きく、頷く。


「当たり前じゃん。私も、皆んなも、カルデネのこと待ってるから。だから全部終わったら、この家でまた会おうね!」


「……うん……うんっ!」




 こうしてカルデネは手を振り、レザリアと共に妖精王アルフレードの元へと出かけていった。


 その姿を部屋の窓からこっそり覗いていた誠司は、安堵の息をつく。


(……カルデネ君は大丈夫そうだな。さて……)


 誠司はベッドでスヤスヤと眠っているライラを、愛おしそうに見つめる。


 そして静かに目をつむり、独り言をつぶやいた。


「……まったく、念願の家族旅行が、この様な形になってしまうとはな——」


 誠司は右手を開き、閉じる。問題ない。私は、戦える。


「——願わくば、これで最後にして欲しいものだがね。私はゆっくり、家族と過ごしたいんだ」


 カーテンの隙間から差し込む朝日が、誠司の横顔を照らす。


 手に入れた幸せ——ただ、今は、ゆっくりと享受している暇は、ない。





 そう、半月後、戦争が始まるのだから。








お読みいただきありがとうございます。


これにて第五部完結。活動報告に「あとがき的な何か」を掲載しますので、お時間のある方は、是非。


次回、明後日(8/21)より第六部を隔日投稿いたします。

十分なストック量が溜まりしだい毎日投稿に戻しますので、引き続きお楽しみいただけると幸いです。よろしくお願いします。


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