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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 エピローグ
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エピローグ ②





「……はは、驚いたね。僕に……魂なんて。君が言うのなら、そうなんだろうね」


 うつむく空間の管理者。そして彼は顔を上げ、悲しそうな顔をして誠司を見つめた。


「……でも、言わないで欲しかったな。僕は消えゆく身だ。今更、魂があると知ったところで——」


「カルデネ君」


 空間の管理者の言葉を遮り、誠司はカルデネに呼びかけた。カルデネは頷いて、その手に抱えている杖を前に差し出した。


「空間の管理者様。これが何か、お分かりになりますか?」


「……なんだい、この杖は? 僕の使っている杖に似ている……いや、同じものか?」


 カルデネが差し出した杖。妖精王アルフレードの力によって作り出された、魔道具としての杖。今は機能を失っている杖。


 カルデネは、杖を優しく見つめ答える。


「セイジ様からお願いされておりました。『私の友人は、支配の杖から生み出された存在だ。なんとかならないか』、と。私は幸運にもこの杖の作製者本人……妖精王様に出会うことができ、あなた様の器を手にすることが出来たのです」


 目を見開き、驚いた顔で杖を見続ける空間の管理者。誠司は目を細め、彼に頷いてみせた。


「『魂』は本来の器でないと『その者』であることを認識出来ないらしい。なら、本来の器なら、きっと君は君であることが認識出来るはずだ。まあ、君と話が出来なくなるのは寂しいが——」


 誠司は空間の管理者の前に歩み出た。


「——それでも君の存在は、記憶は、魂は、この杖の中で生き続ける。なに、もしかしたら会話できるようになる方法が何かあるかもしれないぞ? なんたってこっちにはカルデネ君にグリム君、頼もしい二人がいるのだからな」


「……そうか……セイジ……ありがとう……ありがとう」


「はは、礼には及ばんよ、私の親友。再会出来るその日を、楽しみにしていてくれ」


 空間の管理者は無言で頷き、誠司と軽く抱き合った。空間の管理者は、誠司にお願いをする。


「……なら、魂が宿った記念だ。僕にも名前が欲しいな。君がつけてくれ、セイジ」


「まあ、前から思っていたが、空間の管理者は確かに呼びづらいよな。よし、少し待ってくれ——」


 誠司は少し思案した後、つぶやいた。


「……そうだな。なら、アカシア……アカシアはどうだろう?」


「……アカシア? どういう意味だい?」


「二つほど意味はあるが……まあ、次会った時のお楽しみだ」


 子どもっぽい笑みを浮かべて片目を瞑る誠司。その様子を見て空間の管理者は、呆れつつも微笑んだ。


「はは、君は相変わらず、もったいぶるなあ。よし、僕はアカシアだ。セイジのくれた名前、大切にするよ」


「ああ。元気でな、アカシア」


「ああ。頑張るんだぞ、セイジ」


 二人は固い握手をする。やがて誠司は、カルデネの方に振り向いた。頷き返し、杖を差し出すカルデネ。


「では、アカシア。事を始める前に、君の『魂』を杖に避難させようと思う。いいかな?」


「構わない、やってくれ。じゃあ最後に、セイジ、ライラ。二人ともおめでとう。ケンカせずに、仲良くやるんだぜ?」


 誠司とライラは、アカシアに頷く。


 十八年間、この二人を何もない空間で見守ってきたアカシア——彼との別れの時が、訪れる。


 誠司は優しく、アカシアの『魂』に触れた。


「じゃあな、アカシア。またな」


「ああ、さよならじゃない。また今度な、セイジ」


 誠司はアカシアの魂を、ゆっくりと支配の杖にあてがう。その彼の魂は、身体は、静かに支配の杖に吸い込まれていった。



 そして次の瞬間、カルデネの握る支配の杖は、淡く輝き出した——。



 誠司は杖に宿った魂を見つめながら、心でつぶやいた。



(……またな、アカシア。この空間を管理し見守ってきた、私の親友よ。君がいなければ、私は壊れていたかもしれない。ありがとうな、アカシア。君はこの空間における、ライラと私の物語アカシック・レコードだ——)



 こうしてアカシアは、在るべき場所へと帰った。


 彼の魂は、この杖の中で生き続けるのだろう。これで儀式により、彼の存在が消滅する心配はなくなった。


 そしてついに——誠司とライラを在るべき姿に戻す儀式は始まるのであった。







「じゃあ、準備はいい、みんな?」


 カルデネは誠司、ライラ、ヘザーの顔を見る。皆は頷き、ヘザーはバッグの口を開いた。


「空間の管理者様……アカシア様のいなくなった影響で、この空間は若干不安定になってきている。さっそく始めるね」


 カルデネは歩み出て、誠司とライラの混ざり合っている『魂』に触れた。


 誠司はライラの肩を抱き、その様子を見守る。


「……お父さん」


 ライラは肩に置かれた父親の腕を触り、目をつむる。暖かい。まるで本当の腕みたいだ。よかった。


 カルデネは詠唱を始める。静かに言の葉は紡がれていく——。




 その様子を眺めながら、誠司は物思いに耽る。




 ——長かった。ここまで本当に、長かった。



 諦めていた。自死を選択に入れている時期もあった。


 せめてライラが一人で歩けるようになるまで——その思いで、生き続けてきた。


 しかしそんなある日、一人の少女が私の前に現れた。




 ——『鎌柄さん、ライラと友達にさせてくれて、ありがとうございます!』




 その少女は、ライラと仲良くやってくれた。


 これなら私がいなくなっても大丈夫——そう考えていた時だ。




 ——『鎌柄さん、ライラの為に自分が死ぬって一体どういうつもりですか!?』




 その少女は、私に食ってかかってきた。少女は想いをぶつけてきて、私も想いをぶつけ返す。


 頑固者の少女は、それ以来、遠慮をすることなく私に接するようになった。



 ——ああ、娘って、こういうものなのかな。



 私は少女の中に、ライラを見た。その時からだ。私が欲を出してしまったのは。



 ——いつか、この娘とライラが並んでいる姿を、見てみたいなあ。



 いけない。欲を出してはいけない。そんな方法、ある訳ないのだから。


 しかし少女を見るたび、私の欲は膨れ上がっていってしまった。


 可能性に縋って『生きたい』。そう思うようになってしまったのだ。



 そして少女が一人前の女性になる頃、事態は動き出した。


 『厄災』の、出現。


 今まで引きこもっていた私は、再び表舞台へと出ることになる。


 そこで出会った数々の人の尽力により、私はここまでたどり着けた。


 本当にこの日が来るなんて、思ってもいなかった。



 だがその原点は、



 今の私があるのは、



 私を今の『私』にしてくれたのは、




 ——『誠司さんっ!』




 出会った時にはまだ少女だった、一人の女性のおかげなんだと思う。



 私は万感の思いを込め、彼女に感謝をする。



(……ありがとな、莉奈)





 言の葉が紡ぎ終わる。



 訪れる悲願の時。



 カルデネは力を込め、その魔法の名を口にした。



「——『別れ、出会う魔法』!」



 直後、何もない空間は、光に包み込まれた——。






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