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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第八章
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大いなる悪意、戦渦の足音 01 —さよなら、万年氷穴①—







『厄災』戦のあった、翌日。氷人族の街、イベルノ。


 その街の入り口で、『厄災』達と莉奈は別れの挨拶をしていた。



「じゃあね、ルネディ、メル、マルティ。元気になったら、家にまた遊びに来てね」


「……リナちゃん……うん、うん」


「リナさん、絶対に遊びに行きます! 冒険者のこと、色々と教えてもらいたいし!」


「ほら、二人とも、リナが寂しがっちゃうでしょ? 元気よく見送ってあげなさい」


 メルコレディとマルテディに、優しく話しかけるルネディ。莉奈はルネディに視線を合わせる。


「じゃあ、ルネディ。みんなのこと、よろしくね」


「ふふ。任せてちょうだい。あなたこそセイジのこと、よろしくね」


 二人は笑い合い、莉奈は人差し指を、ルネディは拳を突き出して軽く合わせた。


 彼女達とは予定通り、ここでお別れだ。次に会う時はきっと、元の大きさに戻っていることだろう。


 そんな和やかな顔をしている莉奈の元に、人の姿をとった氷竜娘達が近づいてきて膝をつく。


「リナ様。帰り道、どうかお気をつけ下さい」


 ズル。莉奈はよろめく。すぐに体勢を立て直した莉奈は、人差し指を立てて彼女達の前に突き出した。


「あー、もう、そういうのナシ! 私、あなた達と普通に仲良くしたいんだから!」


「ですが」


 莉奈は目を覆う。これはアレだ。エルフ族の——いや、レザリアの影響をもろに受けている。あの諸悪の根源め。


 その諸悪の根源は、莉奈の背後に忍び寄ってきていた。無言でガバッと抱きついてくるレザリア。それを莉奈は、ひょいとかわす。


「……リナ。かわすの上手くなりましたね」


「……レザリア。今の私に、死角はないよ」


 ふふふ、と笑い合う二人。レザリアは咳払いをし、氷竜娘達の方を向いた。


「フィア、サンカ、ルー。リナの希望です。いつも通りのあなた達で接しなさい」


「「はい、マスター」」


 そう言って氷竜達は立ち上がった。マスターってなんだよ。


 莉奈はため息をつきながらも氷竜娘達のそばに近寄り、一人ひとりを抱きしめ、別れの挨拶をする。まずはフィアだ。


「フィア……クレーメンスさんのこと、好きなんでしょ?」


「……にゃ……にゃにゃ……うにゃあ!?」


 顔を赤くするフィア。莉奈は悪戯っぽい笑みを浮かべ、フィアの顔を覗き込む。


「人も竜も、関係ないよ。応援してるからね……まあ、難しそうな人だけど」


「……あ、あたしは……別に……ううん、ありがと……」


 赤面した顔で、コクリと頷くフィア。莉奈は目を細め、次にサンカを抱きしめる。


「サンカ。元気でね。その花、すっごく似合ってるよ」


「グスッ……リナさまぁ……」


 サンカの頭には、レザリアが新たに作ってあげたサンカヨウの花が飾られている。ブリクセンに帰ったら、ハウメアがこの花を模した髪飾りをプレゼントするとのことだ。


「ほら、サンカは元気がいいのが取り柄なんだから。笑って、笑って!」


「……うん。リナさま、元気でね!」


 思い返せば、彼女は一番熱心にリナ講座を受けていた。それすなわち、氷竜の中で一番、莉奈の個人情報パーソナルデータを握っている人物なのだ。



 ——新たな諸悪の根源になりませんように。



 莉奈はそんな思いを込めながら、サンカの頭を撫でるのだった。


 最後に莉奈は、ルーを抱きしめる。


「ルー。またライラと遊びに来るから、相手してあげてね」


「…………リナ様。うん。その時また戦おうって、ライラに伝えといて。それまで私、魔法の勉強、たくさんしておくから」


 ルーは昨晩、落ち着きのないライラにずっと寄り添ってくれていた。父の身を思い精神的に不安定なライラの話を、ずっと聞いてくれていたのだ。


 莉奈はそんな優しい氷竜の頭を、優しく撫でる。


「ありがとね、ルー。うん、必ず伝えておく。だから、ルー。元気になったライラと、遊んであげてね」


「…………うん。待ってるね」


 こうして、三人との別れを終えた莉奈は、外へと向かう。



 向かう。向かおうとしたのだが——街の奥からもの凄い勢いで走ってくる人物がいた。その姿を見た莉奈は、固まる。


 やがて莉奈の元にたどり着いた人物は、肩で息をしながら莉奈にこぼした。


「…………ゼェ……ゼェ……やはりこの身体の大きさだと、疲れるのう」


 胸を大きく揺らしながら駆け寄ってきた人物——言うまでもなく、女王竜だ。





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