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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第七章
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天敵・Ⅱ 04 —一番得意とする魔法—






「……カゴ……?……はは、何を言ってるんだ、お前は……」


「『反転の結界魔法』だ。全てを対象にした、ね。この結界の中のものは、全て、外に出ることは叶わない——」



 ——『反転の結界魔法』。入れなくするのではなく、出られなくする魔法。ライラはヴェネルディを、結界内に自身ごと『閉じ込めた』。ライラは続ける。



「——私が唱えていたのは、その魔法だ。苦労したよ。効果を発揮させるには最低十六箇所、全てに私の魔力の半分ほどを注ぎ込まなくてはいけなかったから。まあ、馬鹿なお前なら、勝手に勘違いしてくれると思ってたけどね」


「……馬鹿って言うなあっっ!」


 怒気をはらませた声を上げながら、ヴェネルディはその剣でライラを、打つ、打つ、打つ。そんなヴェネルディをつまらなさそうに見ながら、ライラは魔法を唱えた。



「——『身を守る魔法』」



 ヴェネルディは剣を止め、青ざめる。



 ——ちょっと待て。コイツは確か、『今日、一度も唱えていない』って言っていた。だとしたら——。



 すっかり動きを止めたヴェネルディを、ライラは見据える。


「見ての通り、『身を守る魔法』は唱えても身体が光ったりはしない。あれは結界魔法特有のものだよ。そして——」


 ライラは一歩前に出て、ヴェネルディの剣先に首をさらす。


「——お前は知らないだろうね。この魔法は、世界有数の破壊力を持つ元騎士団長や、竜の爪でも簡単には破ることが出来ない、私の一番得意とする魔法だ。お前ごときの剣じゃ、何発だろうが破れないよ。やってみるか?」


「……う……う、うわああぁぁぁっっ!」


 ヴェネルディは叫びながら狂ったように剣を振る。だが、先ほど以上に少女の防御は強くなっているのが感じられた。まるで破れる気が、しない。


「どうしたんだ? さっきまでの威勢は?」


 赤い双眸で睨みながら、ライラは一歩前に出る。怖気付き、一歩後ずさるヴェネルディ。



 魂を突き刺すような、ライラの視線。先ほどから感じられる、まるで『魂』に死神の鎌を当てられているような感覚。



 恐怖——今のヴェネルディは、その感情に支配されていた。



「…………くっ……この場は引いてやる……お、覚えてろよっ!」


 ヴェネルディは捨てゼリフを吐いて、風に乗って空へと浮かび上がった。


 このままここに居てはマズい。ヴェネルディは本能でそう、直感していた。



 だが——空へ逃げようとしたヴェネルディは、見えない天井にぶつかって落下した。



「……ぐはっ!」


 悶えるヴェネルディ。そんな彼の元に、ライラが近づいてくる。


「やはり馬鹿だな、ヴェネルディ。もう忘れたのか? 結界が張ってあるって言ったのに」


「………………くっ……ククッ……」


 地面に座り込みながら、ヴェネルディは肩を揺らし始めた。ライラの歩みが止まる。


 そして彼は地面を向いたまま、焦点の合わない瞳で笑い始めた。


「アーハッハッハッハ! アーハッハッハッハ!!……考えてみたらさあ、それが何だって言うんだ? 僕は『厄災』だ! 食事も、睡眠も必要ない! いつか! そう、いつかお前の方が先にくたばるだろうさっ!」


「……お父さんやリナは……こんな馬鹿のせいで……」


「おい」


 上げ続けていた笑いを止め、ヴェネルディは立ち上がった。


「……いい加減にしろよ? 僕のことを馬鹿っていうのを止めろ。お前が力尽きた時が最後だ。お前の知り合い、全員を——」


「だからお前は馬鹿だと言っているんだ、ヴェネルディ」


 ヴェネルディの言葉を遮り、放たれるライラの冷たい言葉。固まるヴェネルディに、少女は残酷な事実を告げる。


「——結界魔法は術者が死んでも効果は残る。私が自分の意思で解除しない限り、お前はここから、出られない」


「……くっ!」


 ライラに背を向け、ヴェネルディは駆け出す。やがて結界にぶつかって倒れ、尻餅をつき——ふらつきながら立ち上がった彼は、奇声を上げながらやたらめったらと剣を結界に打ちつけ始めた。


「……うわああぁぁ……うわあああぁぁぁっっ!!」


 カン、カンと結界に当たり、虚しく音を立て続ける彼の剣。そんな彼の元に、ライラは静かに近づいた。


「お前にしては頭がいいな、ヴェネルディ。そうだ。そのように攻撃を与え続けていれば、結界はいつかは壊れるだろう。まあ、竜の大群の攻撃をも長時間耐える私の結界だ。骨が折れると思うけどね」


「……うわあああぁぁぁっ!」


 振るわれる剣。虚しく響き続ける音。ライラは憐れんだ視線を、ヴェネルディに向ける。




「——それで、ヴェネルディ。私がそれまで待ってやるとでも、思っているのか?」




 ピタリと動きを止めるヴェネルディ。彼は恐怖の表情を浮かべ、ゆっくりと振り向いた。


 ライラは冷めた目で、最後通告を行う。


「ヴェネルディ。お父さんやリナに謝罪をするなら、今しかない。お前に残された時間は、そんなにないのだから」


「……ふ、ふざけんなあっ! なんで僕が謝らなきゃいけないんだっ……!」

 

「……そうか——」


 ライラは静かに目を伏せる。諦観の表情を浮かべながら。この救いようのない馬鹿を憐れみながら。


「——終わりにしよう、ヴェネルディ。約束通り、苦しませて殺してやる」


「……は、はあ!? 出来るもんなら、やってみろよお!」


 もはや焦点の合わない瞳で、強がるヴェネルディ。


 ライラは息をつき、一つの魔法を唱え始めた。


「————、————…………」


「……や、やめろおっっ!!」


 すっかり目の前の少女に恐怖しているヴェネルディは、無駄だとわかりつつもライラに剣を振るい続ける。


 しかしそれを意に介することなく、少女の言の葉は紡がれた。




「——『木に花を咲かせる魔法』」




「……は?」



 ヴェネルディは動きを止める。



 ——木に、花を……?



 少女は赤い目を開き、その双眸で、困惑するヴェネルディを冷たく見据え、告げた。




「——ヴェネルディ。お前を殺す、魔法だ」





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