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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第七章
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天敵・Ⅱ 03 —あと二本—






「うざってえんだよおっ! まったくよおっ!!」



 ヴェネルディは、空から矢を放つ莉奈を睨む。


 万が一にも当たることはないが——とにかく、鬱陶しい。


(……チッ……何が狙いだ?)


 矢の攻撃が通用しないのは、明白だろうに——。ヴェネルディは地面に刺さり、或いは転がっている矢を見渡した。


(……もしかして、足場を悪くするのが狙いか?)


 とはいえ、それは今戦っている少女にも言えたことだろう。


 少女は赤く光る双眸で迫ってくる。しかし彼女は、足元に刺さっている矢を踏んでしまい、少し体勢を崩してしまった。


「……ふん」


 ヴェネルディの剣が、ライラに当たる。


「……ちっ」


 舌打ちをして後方に下がり、魔法を唱え直すライラ。


 少女の身体が、淡い光に包まれる——。


 そして少女は、魔力回復薬を飲み干した。あと、四本。


 その様子を見たヴェネルディは、嬉しそうに顔を歪めた。


(……クックックッ……もうすぐだ……もうすぐ、尽きるぞ……!)



 ヴェネルディは戦いの中、気づいていた。


 少女は二回攻撃を受けると、魔法を唱え直す。先ほどから手を焼いている、厄介な『身を守る魔法』とかいうやつだろう。


 そして、二回魔法を唱えると、魔力回復薬を一本飲み干すのだ。


 少女の魔力回復薬は、目視であと四本。


 加えて、激しく動き回っているせいか、少女の動きは時間を追うごとに鈍くなってきていた。『厄災』であるヴェネルディには、当然疲れなど、ない。


 今はその素早さ、そして防御魔法に翻弄されてはいるが——底は見えている。


 あと少しだ。あと少しで少女は何も出来なくなる——。


 蹂躙するのもいい。辱めを与えるのも楽しそうだ。泣き叫ばせてやる。



 ——当たり前だ、散々、僕を馬鹿にしたんだからな!



 ヴェネルディは間もなく訪れるその時を想像し、舌舐めずりをした。





 同じ様な光景が繰り返されていた。ヴェネルディは剣を振る、風を飛ばす。莉奈の放つ矢が飛びかう。ライラの魔力回復薬、あと三本。


 赤い瞳の少女は息を荒くし、苦しそうに駆けていた。突き刺さった矢のせいで足場も悪いので、尚更動きづらいのだろう。


「ほら、どうしたあ? 僕を苦しませるんじゃなかったのかあ!?」


「……うるさい」


 息も絶え絶えな少女は、眉をしかめて、ヴェネルディを睨む。その時だ。ライラは疲れからか足がもつれて、地面に倒れてしまった。


「……くっ!」


 先ほどからライラは、三発目は絶対に喰らわないように立ち回っていた。


 しかし倒れたライラに、ヴェネルディの剣は振り下ろされた。二発目。


「ハッハァッ! 逃げられないよう、足を斬り落としてやるうっ!」


 倒れたライラに続けざま振り下ろされる、三撃目の剣。少女の防御魔法は解けているはずだ。


 魔力回復薬切れを狙うまでもなかった。これで終わりだ。


 ヴェネルディの勝利の剣が、ライラの足に向かって振り下ろされる——。



 カツッ。



「…………?」


 手応えが、変わらない。その振り下ろされた剣は、ライラの足に弾き返された。


 ライラは跳ね起き、距離を取る。


「惜しかったな」


「……くそっ! 逃げるなあっ!」


 しかし、今の剣でライラの防御魔法は解けているはずだ。ヴェネルディは追撃を入れようと少女を追いかける。


 だが、それよりも速く——少女の言の葉は紡がれた。



 少女の身体が、淡い光に包まれる——。



 忌々しげに少女を睨むヴェネルディ。だが、これで飲むはずだから、あと二本。もう少しだ。これを繰り返し続ければ、奴の魔力回復薬は底をつき——。


「……えっ?」


 ヴェネルディは目を開く。


 魔法を唱え終わった少女は、なんとヴェネルディの目の前で呑気に魔力回復薬を飲み始めたのだった。


「馬鹿にしてんのかあっ!? クソガキがあっっ!!」


 自ら大きな隙をさらけ出した少女に、ヴェネルディは吠える。とは言え、絶好のチャンスだ。


 ヴェネルディは剣を振り下ろした。


「死ねえぇっっ!」


 連撃が風の速さで繰り出される。



 一撃、二撃、三撃……四撃、五撃……——。



「……あ……れ……?」



 ヴェネルディは固まる。三撃どころか、五撃入れても弾き返される。


 頭を振り、続けて連撃を繰り出すが——その全てが、弾き返されてしまった。


 茫然とするヴェネルディに、ライラは空になった瓶を投げ捨て、つぶやいた。



「——お前が馬鹿で助かったよ、ヴェネルディ」



「……な……に……?」



 彼を見据えるのは、赤い双眸、冷ややかな視線。


 ヴェネルディは信じられずに続けて二撃入れるが、結果は変わらない。


 ライラは無表情で口を開く。


「馬鹿なお前に教えてやる。私は今日、一度も『身を守る魔法』を唱えていない」


「……は、はあっ?」


 少女の言っている意味がわからない。ヴェネルディは口をパクパクさせ、言葉を絞り出す。


「じゃ……じゃあ、なんだって言うんだよ……今までのは……」


「教えてやるよ、ヴェネルディ」


 そう言ってライラは、地面に杖をトンと突き、高らかに声を上げた。




「——『反転の結界魔法』、発動」




 その言の葉と同時に——辺りは結界に包まれた。


 唖然としながら辺りを見回すヴェネルディに、ライラは冷たく告げる。




「——これは、『かご』だよ、ヴェネルディ。お前を逃がさない為のな」





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