表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第七章
326/629

天敵・Ⅱ 02 —声—






「……『楽には殺さない』だと……? おい、お前、僕のセリフを真似するなよ」


 ヴェネルディは舌打ちをし、唾を吐いた。


 赤い瞳でそれを見るライラ。ふと、ヴェネルディは一つの考えに思い至る。


「……そうか、わかったぞ。お前、セイジなんだな? このガキがさっきの僕のセリフ、聞いているはずがない」


「……お前は馬鹿なんだな、ヴェネルディ」


「……は?」


 ヴェネルディは剣を振る。不意をついたその一撃は、ライラを捉える。だが、先ほどのようにその剣は、ライラの身体に、ただ当たっただけだった。


「……馬鹿にするなよ、ガキぃ……。それになんだよ、その身体……」


「馬鹿なお前に、教えてやる。この世には『身を守る魔法』というものがあるんだ」


「……ちっ! うざってえなあ!」


 横に薙ぎ払われる剣。それを後方に下がって躱し、ライラは距離をとる。ヴェネルディが追いかけてくる中、ライラは逃げながら祈りを捧げた。


 少女の身体が、淡い光に包まれる——。


 直後、ライラは白い杖を構えなおし、ヴェネルディに迫っていく。


「待たせたな。いくぞ、ヴェネルディ」


「ガキが、教育してやる!」



 ライラとヴェネルディの打ち合いが、始まった。



 ライラの杖が、ヴェネルディを打つ。だがその攻撃は、風の障壁によって流されてしまった。


「効かねえんだよ、ガキが!」


 ヴェネルディは剣を振り上げ、力を溜めた。そして振り下ろされる、風の刃。


 その風の刃は、ライラに当たる瞬間二つに割れ、少女を避けるように流れていく。『風を防ぐ魔法』の効果だ。


(……チッ……厄介だな……)


 目の前の少女は、すばしこい。ヴェネルディの剣を、容易く避けてしまう。


 ——仕方がないことではある。ヴェネルディは剣の稽古など嗜む程度にしかしておらず、『厄災』の力で強化された肉体頼りで剣を振るっているのだから。


 だが、全く当たらないわけではない。


「……そこだあ!」


「……くっ」


 やたらめったら振り回される剣が、ライラに当たる。腐っても『厄災』だ。その膂力りょりょくは、並の人間を遥かに凌駕していた。


 それでも向かっていくライラ。


 繰り返される光景。


 ようやく当たる、ヴェネルディの剣。


 ライラは下がって詠唱をする。


 少女の身体が、淡い光に包まれる——。


 そしてライラは腰のホルダーから魔力回復薬を取り出して、一本飲み干した。


 魔力回復薬、あと九本。ライラは『厄災』を滅ぼすため、白い杖を構えて再び駆け出した——。






 戦いは続いている。


 上空に退避している莉奈は、その戦いの様子を見て必死に考えを巡らせていた。



 ——何か、何か私に出来ることは——。


 

 あの動き。


 莉奈は、ライラが何を狙っているのかは、上空から見て察していた。しかしその先、何をしようとしているのかがわからない。


 こうしている間にも、ライラの魔力回復薬のストックは減っていっている。あと、七本。まだ余裕はあるが——。


(……ライラ。何をしようとしているの……?)


 莉奈は考える。必死に考える。


 その時、莉奈の耳に、声が聞こえてきたような気がした。







 暴風に身をさらしながら、谷の向こうから戦いの様子を見守るグリムは考える。



(……ライラはいったい、何を狙っているんだ……?)



 ライラが怒りに身を任せているのはわかる。しかし、我を忘れている訳ではない。



 ——ライラは今、規則的に行動を繰り返している。



 グリムは考える。ライラの使える魔法、ライラの持っている知識、ライラの戦闘スタイル、ライラの狙いは——。



「……まさか!?」



 グリムはハッとする。いや、待て。グリムは慎重に熟考する。確かに、今のライラがヴェネルディを倒すには、それしかなさそうだが——必須条件がある。莉奈がライラのしようとしている事に、気づくことだ。


 今の莉奈を見る限り、気づいている様子はない。


 しかしこの暴風の中、声を届けるのは難しいであろう。


 これは、無理かもしれない——グリムは唇を噛み、うつむく。


 だが、諦めかけたグリムの心に、先ほどのルーの言葉がふと、思い出された。




 ——『…………ねえ。人の子って、理屈で動くの? もう少し、感情的に動くものだと思ってたんだけど』




 グリムはゆっくりと、顔を上げた。


「……ふふ、いいだろう。やってやろうじゃないか、感情的に」


 すうっと息を吸い込み——グリムは叫ぶ。大声で、腹から、心から叫ぶ。





「——莉奈ーーっ! 矢だ、矢を放てーーっ! 全力でライラを、支援しろーーーっっ!!」






 グリムの声だ。私は声の聞こえてきた方向——谷の向こうへと意識を飛ばす。


 そこにグリムは——いた。


 何やら叫んでいるようだが——私は意識を集中する。


 風の音に混じって、確かに聞こえた。『矢を放て』と。


 正直、何が狙いなのかわからない。ライラの狙いと合致しているのかもわからない。



 でも、私は——グリムを信じる。



 アルフレードさんから貰った『無限の矢筒』に、矢は大量に補充してある。最近はめっきり使う機会が減ったけど。


 私は弓を構え——矢をつがえ、放つ。


 レザリアに見られたら笑われそうな、へっぽこな腕前だけど、それでも私は、撃つ、撃つ、撃ち続ける。


 当たらない。ヴェネルディに当たっても、風に流されて地面に突き刺さってしまう。


 ふと、ライラがこちらの方を見た。赤い瞳のその少女の口元は——綻んでいた。



 ——うん、これでいいんだ。



 私は矢を放ち続けながら、グリムにお礼をつぶやいた。





『——ありがと』





 莉奈の声が聞こえた気がした。グリムは茫然と、崖の上の様子を見守る。


 どうやら声は届いたみたいだ。それを証拠に、莉奈は矢を放ち続けている。


 理屈ではありえない現象。それを経験し、グリムは堪えきれずに笑った。


「……まったく。本当、この世は不思議に満ち溢れているな——」




 ——ライラの魔力回復薬、あと、五本。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ