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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第六章
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天敵・Ⅰ 03 —朝霧の立ち込める中—






「カッカッカッ! 皆の者、わらわは楽しかったぞ! また、ちょくちょく来るでな、その時はよしなに頼むぞ!」


 宴も終わりに近づき、すっかりご満悦の女王竜は高笑いをしながら皆を見渡す。


 隣に座る氷人族の長老が、寂しそうな表情で女王竜に語りかけた。


「女王竜様、泊まっていかれてはどうですかな。一番良い部屋を用意しますので……」


「よいよい。娘達はともかく、妾は無理矢理この大きさの身体を形作っておるからな。そろそろ巣で身体を伸ばしたいのだ。そのかわり、娘達を泊めてやってくれ」


「左様ですか。では、次は我らの方からそちらに出向きますゆえ——」



 この宴は、大成功だった。


 ルーは氷人族やライラ、そしてグリムから色々な話を聞いて目を輝かせていたし、サンカは氷人族と肩を並べ、レザリアから『リナ講座』を熱心に受けていた。


 そしてフィアは——クラリスと共に、クレーメンスにだる絡みをしていた。それはそれで、幸せそうではあった。



 この街は氷竜と共に歩んでいくのだろう。時間の許される限り。


 こうして宴は終わり、莉奈はペチカを家へと送り届けるのであった——。




「じゃあ、ペチカ。メルのことよろしくね」


「ちょっとリナちゃん、逆じゃない!?」


「うふふ。うん、メルちゃんのことは、ペチカに任せて!」


 トンと胸を叩くペチカのことを、周りは穏やかな視線で見つめる。


 一緒に帰って来たペチカの父親が、莉奈達に頭を下げた。


「すいません、リナさん、メルさん。娘のわがままに付き合ってもらって……」


「ああ、大丈夫です。こちらこそメルが、ご厄介になります」


 頭を下げ返す莉奈。そうは言っても、莉奈も母親のいないペチカのことが他人事に感じられないのだ。なら、少しでも助けになれることがあれば何とかしてあげたい。


「ねえ、リナお姉さんも泊まっていけばいいのに」


「こら、ペチカ」


 娘のわがままを注意しようとする父親を手で制し、莉奈はペチカの前にしゃがみ込んだ。


「ありがとね、ペチカ。でもね、ほら、ライラが拗ねちゃうから」


「うーん。なら、しかたないか! じゃあ、今度はライラお姉さんも一緒にね!」


「ふふーん。そうだねー。また来た時はそうさせてもらうよー」


 莉奈はペチカの頭を撫で、立ち上がった。そして、ふわりと宙に浮く。


「わあ! お空飛んでる、すごーい!」


「じゃあ、皆んな、おやすみなさーい!」


 両手を振りながら、莉奈は宿へと戻っていった。その姿を興奮した様子で見送ったペチカは、ポケットの中に入っているメルコレディに話しかけた。


「なあに、あれ! お空飛んでたよ!」


「えへへ、あれはリナちゃんのねえ——」





 それからも、二人はいっぱい話した。


 水風呂に浸かりながら、いっぱい話した。


 ベッドに入ってからも、二人は話した。


 やがて、話疲れたペチカは寝息を立て始め——


 メルコレディは窓辺に座り、ペチカの寝顔を眺める。


 メルコレディは、ルネディを通じて莉奈に頼まれたことを思い返す。



 ——ペチカね、母親がいないみたい。だから、寂しくならないように、気にかけてあげて。



 その約束に、メルコレディはフンスと気合いを入れ直す。


(……ペチカちゃん、頑張ろうね。わたしがついてるよ)




 それから、何時間、経っただろうか。


 ペチカはごそごそと動き出し、身体を起こした。


 眠らずにペチカの様子を見守っていたメルコレディは、彼女に優しく声をかけた。


「……どうしたの、ペチカちゃん。目が覚めちゃった?」


「……メルちゃん……」


 ペチカはメルコレディの方を向く。


 窓から差し込む街灯に映し出された彼女の頬は——涙に濡れていた。


 ペチカは鼻をすすりながら、メルコレディに漏らした。



「……メルちゃん……ペチカ……お母さんに……会いたいよお……」









 ——翌朝。




 莉奈は早起きをし、窓を開ける。


 昨晩はゆっくり眠れた。最近、馬車での生活が続いていたのだ。やはりベッドは心地良い。昨夜はレザリアの夜這いもなかったし。


 加えて莉奈は、この万年氷穴への旅で朝食を担当していた。だからその癖で早起きしてしまったが、これは早く起きすぎてしまったか?


 とはいえ、起きてしまったものはしょうがない。身体を軽く動かすために外へと出ようと着替え、換気のために窓を開けた訳なのだが——外には見慣れた人影があった。誠司だ。


「おはよー、誠司さん。どうしたの、こんなところに佇んじゃって」


 窓から出て、誠司の元に莉奈は降り立つ。氷穴内に朝霧の立ち込める中、誠司は莉奈の方を振り返らずに尋ね返した。


「なあ、莉奈。ルネディ達から聞いたが、メルコレディはペチカ君の家に泊まりに行った、間違いないな?」


「うん、そうだけど……それがどうかした?」


 誠司は振り向く。その顔は苦渋に満ちていた。


 ただならぬ様子を感じとり、莉奈の表情も強張る。


「……ねえ、誠司さん。何が……あったの?」


 一気に不安が押し寄せる莉奈。その彼女に、誠司は苦しそうに告げた。




「……莉奈……メルコレディとペチカ君の『魂』が、今、この街にない。少なくとも、半径五百メートル以内には……。あの子達は、どこへ行ったんだ……?」





 ——この地に、風が吹き始めていた——。






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