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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第六章
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天敵・Ⅰ 02 —幸せな風景—





「いいのか、フィアンドロッ……フィア。俺の隣にいても、楽しくないだろう?」


 無表情で酒を飲むクレーメンス。その隣の席には、フィアが陣取っていた。宴が始まってから、ずっと。


「……そんなこと、ない。いいから、もっと色んな話聞かせてよ」


「そうか。俺としてはフィアの話が聞きたいが。お前のことを、もっと知りたい」


「……なっ……!」


 顔を赤らめるフィア。そこに歌を終えたクラリスがやって来て、クレーメンスの隣にドカッと座った。


「フィア? この人に何か変なことされてないですよね!?」


「……へっ!?……へ、変なことって、なんのことかな……?」


 顔を真っ赤にするフィア。クレーメンスはクラリスの方を向き、無表情で抗議した。


「失礼だぞ、クラリス。する訳ないだろう——」


 フンと鼻を鳴らすクラリス。彼女は持ってきた酒を口に——。



「——俺は『白い燕』、単推しだ」



「…………えっ……?」



 動きを止める二人。後。二人は同時に立ち上がった。


「ちょ、ちょちょ、どういうこと!? クレーメンスって、まさかリナ様のことが!?」


「し、し、『白い燕』さんに手を出そうというのですか!? 駄目です、私を通さずに勝手なことしないで下さい!」


 もの凄い剣幕で迫る二人。そんな彼女達のことを、クレーメンスはジッと見つめる。


「待て。単推しと言っても、純粋に応援しているだけだ。別にやましい気持ちは、ない」


 ふうと息をつく二人。とりあえず椅子に座り直す。落ち着いたと判断したクレーメンスは、酒を飲み干し立ち上がった。


「では、いい機会だ。少しリナと話をしてくる——」


「「ダメっ!」」


 両腕を引っ張られ、クレーメンスは強制的に椅子に座らせられた。


 どうやらフィアの前途は、多難なようである。







 マルテディ達『厄災』は、氷人族の少女ペチカと仲良く話していた。


 特にペチカとメルコレディは、気が合うみたいだ。


「わあ、わあ、メルちゃん、とっても涼しい! そんなちっちゃいのに、すごいんだね!」


「えへへ。ほんとはね、ペチカちゃんよりも大っきいんだよ」


 微笑えましいやり取り。そんな二人のことを、ルネディとマルテディは目を細めて見つめる。


 そこに、未だに挨拶回りで色んな所に顔を出している莉奈が通りかかり、皆に声をかけた。


「やっほー。皆んな、楽しんでるー?」


「あら、77……いえ、リナ、ご機嫌よう」


 ぐぎゅうと締め付けられるルネディ。マルテディが慌てふためく中、メルコレディが呆れた感じでルネディに注意をした。


「だめだよ、ルネディ。いつかほんとに潰されちゃうよ?」


「ねえ、ねえ、77ってなあに?」


「……うふふ……ペチカ……それはね、リナの胸……むぎゅう……」


 莉奈の手の中で、くてっとなるルネディ。しまった、調子に乗ってからかいすぎた。


 テーブルの上に降ろされ咳き込んでいるルネディの背中を、優しくさするメルコレディ。そんな彼女に莉奈は、嬉しそうに語りかけた。


「メルー。ペチカと随分、仲良くなったみたいじゃーん」


「うん! 今日ね、ペチカちゃんのところにお泊まりするの!」


 メルコレディとペチカは顔を見合わせ、「ねー」と声を合わせる。


「本当、仲良しさんだねえ。メル、迷惑かけないようにね?」


「はーい!」


 元気よく返事をするメルコレディ。彼女はペチカとの会話に戻る。そんな様子を見て莉奈はため息をつき、ルネディをすくいあげた。


「あら、リナ。まだ潰し足りないのかしら?」


「……そうじゃないんだけどさ……ちょっといい?」


 莉奈はルネディを連れ、メルコレディ達に話を聞かれないよう、席を離れる。


「……こんなことあなた達に頼むのは気が引けるんだけどさ……ペチカね、母親がいないみたいなんだ。だから、その……」


 そこまで言って、言い淀む莉奈。ルネディは莉奈の言わんとしていることが分かり、真面目な口調で返した。


「……わかったわ。幸いメルとも仲良くなったことだし、寂しくさせないよう、気にかけておくわ」


 そう。莉奈達は明日か明後日にはもうここを発つ予定だが、彼女達『厄災』はメルコレディのために、しばらくイベルノに滞在することになる。


 意を汲み取ってもらえたことが分かり、莉奈はルネディに頭を下げた。


「……ごめんね、ルネディ。あなた達も大変だったのに……」


「ふふ。気にしないでちょうだい、リナ。親のいない私達だからこそ、彼女に寄り添えるのかも知れないのだから」


 クスクスと笑うルネディ。莉奈はこの優しい『厄災』のことを、目を細めて見つめる。


「あーあ。でも、あなた達と別れるの、私だって寂しいんだよ?」


「あら、ずいぶんと嬉しいこと言ってくれるじゃない。心配しないで。元の身体に戻ったら、また顔を出すわ。77センチがどんなものかを思い出しに、ね」


「くっ……じゃあ、戻ってきたら、あなたの胸囲、測らせなさいよ」


「ふふ、いいわよ。約束ね」


「うん、約束だからね」


 そこまで言って、たまらず笑い出す二人。


 テーブルではメルコレディとペチカが仲良く話し、それをマルテディがニコニコと見つめている。



 ——こんな日が、いつまでも続けばいいのになあ。



 莉奈とルネディは、優しくその光景を眺めるのであった。




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