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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第五章
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竜の理、人の理 07 —白と白—






 開始の合図と同時に、ライラは後方へと下がり距離をとる。


 ルーは動かない。注意深くライラの動きを観察している。


 距離をとったまま対峙する二人。数秒の時間が経過し、これはいけない、とライラは考える。


(……まずは女王様を、楽しませなきゃ、だよね)


 ライラは姿勢を低くし、ルーに向かって駆け出した。


 そして振るわれる白い杖。残像が弧となって、白い軌跡を描く。


 それをヒラリと後方にステップして躱すルー。下がりながら彼女は、口から氷のブレスを吐き出した。


 白いブレスがライラを包み込む。しかし——。


「えいっ!」


 その渦巻く白を割って飛び出したライラは、ルーのいた場所へと杖を振るう。


 だが、そこにルーはいなかった。


 ライラの攻撃を読み、羽根を生やして宙へと退避していたルー。彼女は頭上の死角から滑降して、ライラに襲いかかった。


 その爪を、白い杖でなんなく弾くライラ。ルーはその勢いのまま空中で回転し、元の場所へと降り立った。


「…………へえ、今のを防ぐんだ……」


「ふっふっふっー。空からの攻撃は、リナで慣れているのです!」


 得意げに鼻を鳴らすライラ。そう、彼女は普段から莉奈と模擬戦を行っている。


 それは即ち、ライラは世界で一番、空を飛ぶ相手と手合わせをしている人物ということになるのだ。生半可な空からの攻撃は、通用しない。


 感心した様子のルーは、つぶやく。


「…………じゃあ、こういうのはどう? ——『氷刃の魔法』」


 ルーが手を差し出すと、彼女を中心にいくつもの氷の刃が浮かび上がった。


 そして次の瞬間、その刃はライラを目掛けて次々と襲いかかっていく。


「わっ!」


 ライラは正確に向かってくる氷刃を、ぴょんぴょんと跳び避ける。


 そのライラ目掛けて一瞬で距離を詰めてくるルー。振り下ろされる爪を、ライラは後方転回——バック転の動きで躱した。


 ライラは驚いた声を上げる。


「すごいね、ルー! 魔法使えるんだ!」


「…………うん、使える魔法は。ねえ、ライラ。あなたは『身を守る魔法』を使っているのに、どうして攻撃を避けるの?」


「うひゃあ、詳しいんだね! 内緒なんだけど、『身を守る魔法』には耐久力があるの。だから躱せる攻撃は躱せって、ヘザーが言ってた」


「…………ヘザーって?」


 そう言いながら、ルーは再びライラに迫り来る。警戒するライラ。そしてルーは、言の葉を紡いだ。


「——『麻痺毒の魔法』」


「——『痺れを無くす魔法』」


 ルーの紡がれる言の葉を聞き、先行して解除の魔法を唱えるライラ。


 動けなくして一撃を入れるというルーの思惑だったが——両手からクロス状に振り下ろされた鉤爪を、ライラは難なく避けた。


 ライラは再び感心する。


「へえ!『身を守る魔法』じゃ防げない魔法も知ってるんだね」


「…………これでも魔法には、詳しいつもりだよ」




 氷竜ルー。彼女の武器の一つは『好奇心』。


 彼女はその『好奇心』から、人の世に伝わる魔法というものを調べていた。その悠久な時間を使って。


 そしてその内のいくつかの魔法は、実際に使えるようになっていたのだ。竜としては異常とも呼べる才覚。




 それを理解したライラは——にんまりと笑った。


「……じゃあ、ルー。これがなんの魔法か、わかるかな?」


 そう言ってライラは、詠唱をしながらルーに向かっていった。その白い杖を真っ直ぐに構えて。


 その詠唱文を聞いたルーの顔が、青ざめる。



(…………この響き……光魔法!?)



 この世には『光魔法』という、竜族の魔法抵抗力を貫通する魔法があるということをルーは知っている。


 ルーの口元を真っ直ぐに見据えながら迫ってくるライラ。


 ルーは思い当たる。竜をも内部から食い破ると言われている、『火光かぎろいの魔法』の存在を。



「————、————…………」


「…………こ、こないで!」


 詠唱を続けながら迫りくるライラに恐怖し、ルーはたまらず上空に退避する。万が一にでも体内に杖を突き立てられたら——。


 ライラは詠唱を中断し、ジト目でルーを眺めた。


「あれー、逃げちゃうんだ? もしかして、怖いのかなー?」


「……う、うるさい!」


 女王竜の視線を感じ、警戒をしながら地面に降り立つルー。そんな彼女の怯えた様子を見て、ライラはペロリと舌を出した。


「うそ、うそ、ごめん。私、光魔法使えないから、安心して」


「…………!!……」


 絶句する、ルー。人の子に、完全にもてあそばれた。




 氷竜ルー、彼女のもう一つの武器は、『観察』。


 ルーは人の子がこの場に足を踏み入れてから、各々の動きを余すことなく『観察』していた。


 各人の動き、戦い方、癖、全て覚えた。誰が相手でも、どう戦うのかを頭の中で繰り返し考えていた。


 だから決して舐めている訳ではなく、この試合が行われると決まった時、誰が相手でも上を行く自信はあった。ただ、青髪がきたら面倒くさそうだなあ、とは思っていたが。


 しかし目の前の少女は、ルーの思考の上を行った。しかも、とても単純な方法で。魔法に詳しいことを逆手に取られた。


 どんな挑発にも乗らなかったルーを、手玉に取ったのだ——。




「…………フフ……」


 うつむいて笑い出すルー。


「……どったの?」


 怒らせちゃったのかな? と不安になるライラ。


 その問いに、ルーは心の中で答える。



 ——ううん、どうもしてないよ。ただ、『好奇心』が抑えきれなくなっただけ。あなたとの戦い、胸が躍る——。



 ルーは顔を上げ、つぶやいた。



「………全力でいくね、ライラ!」




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