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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第五章
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竜の理、人の理 04 —青と青—







「それじゃあ、待たせちゃったねー。わたしはハウメア。いちおー、この地方の代表やってるよー」


「ふうん。私も名前ないんだ。よかったらつけてくれない?」


 そう言ってハウメアのことをニヤついた視線で眺めるのは、ぱっつんボブの小柄な氷竜だ。


 ハウメアもニヤついた視線で彼女を見返して、片手を上げた。


「クレーメンス、出番だ。名付けだってー」


「待って! あの男のはナシ!」


 焦った様子で止めに入る氷竜。一歩踏み出そうとしたクレーメンスは、気持ち肩を落とした様子で元の位置に戻った。


 ハウメアはクスリと笑い、考える。


「そうだねー。じゃ、サンカで。サンちゃんって呼ぶねー」


「ん? どういう意味?」


「あははー。わたしに勝てたら教えてあげるよー」


 にへらーと笑い杖を構えるハウメア。サンカは口元を押さえる。


「ぷぷ……じゃあ、すぐに教えてもらえるね。私達の血の薄まった、出来損ないさん」


「言うねー。サンちゃんも油断しない方がいいと思うよー」


 ニヤリと笑い見つめ合う二人。そして女王竜の合図は響き渡った。


『では、始めい!』





 合図と同時にサンカは氷のブレスを吐く。ハウメアは少し後退し、杖で地面をトンと叩いた。


「——『氷の障壁魔法』」


 ハウメアの目の前に、氷の壁が現れる。その壁は、サンカの吐く氷のブレスを防ぎきる。


 直後、サンカは氷の壁を飛び越え、その爪でハウメアに襲いかかろうとした。だが——



「——『霧の魔法』」



 ——それよりも速く、ハウメアの詠唱は完成し、濃霧が辺りを包み込んだ。


 空振るサンカの攻撃。手応えは、ない。


(……どこへいった?)


 見渡すは一面の白い世界。視界を奪われたサンカは警戒し、注意深く鼻を鳴らす。辺りに魔力が満ちていく。


 と、その時。ある方向からひときわ強い魔力の波動を感じた。そちらからハウメアの匂いもする。


「ぷぷ……見いつけたあ」


 白の中に人影が浮かび上がる。サンカは跳び、その爪を振り下ろした。


「そこだっ!」


 しかし返ってきたのは氷の砕ける手応え。それはハウメアの作り出した氷の彫像。直後、言の葉は紡がれた。



「——『闇深き鋭刃の魔法』」



 漆黒の刃がサンカを取り囲む。サンカは羽根を生やし、宙へと飛び上がり退避した。


 その漆黒の刃は、サンカを追いかけ始めた。それを全力で飛び躱しながら、サンカは羽ばたきでこの場の霧を払っていく。


 ハウメアの声が響き渡る。


「ほらほらー。早くしないと、次の魔法いくよー」


「うるさいっ!」


 煽るハウメア。先ほどから周囲に魔力は満ち溢れている。刃を躱しきったサンカは、霧が晴れ姿が露わになったハウメアに飛び向かった。


「……ひっ!」


 大袈裟に驚くハウメア。彼女は腕で顔を覆っている。その行動に違和感を覚えたサンカは——不敵に笑った。


「……ぷぷ。わかっちゃった。()()()()()()()


その驚きかたに演技くさいものを感じたサンカは、ハウメアの横を通り過ぎる。


 すれ違いざま、サンカは確信した。彼女からは()()がしない。


 姿を現している彼女は罠。恐らくは『分身魔法』か『幻影魔法』を使っているのだろう。


 そして本体は、魔法で姿を隠しているに違いない。だが——。


(……匂いまでは、消せないようね!)


 サンカは彼女の匂いの漂ってくる方へと真っ直ぐに飛び——



「……そこっ!」



 ——匂いのする周辺へ、全力の氷のブレスを撒き散らした。



「…………ぁ……っ……」



 吹き荒ぶ絶対零度の氷の息。凍りつき、呻き声を上げながら姿を現すハウメア。


「ハウメアさん!」


 莉奈が叫び声を上げる。


 いくら氷竜の血が入っているとはいえ、これではひとたまりもないだろう。


 今や氷の彫像となって目を開いたまま固まってしまっているハウメアの前に、サンカは降り立った。


「ごめんなさいね、やり過ぎちゃった。私達の血が混ざっているとはいえ、これはもう無理かなあ……あっ、でもこれじゃあ名前の由来聞けないね、まいった、まいった」


 そしてサンカは女王竜の方を向き、笑顔で宣言した。


「母様、見てくれた? 私の勝ち! しょせん出来損ないに、私の相手は無理だったみたい……」


 そこまで言って、サンカは気づく。



 ——おかしい。女王竜が勝ち名乗りを上げない。それどころか、楽しそうに戦場を注視している。



 サンカは嫌な予感がし、振り返った。そこには——


 凍らされ彫像となっている、サンカが本体と判断したハウメア像。


 その向こうには、先ほどサンカが『偽物』と判断したハウメアが、にへらーと笑いながら立っていた。


 ハウメアは目を細める。



「いやー、知能持ち相手は楽でいいねー。勝手に深読みして、踊ってくれる」



 その言葉と同時に姿を現す、ハウメアの分身体が二体。


 彼女達の杖には、いずれも最上級魔法がストックされていた。


「じゃあ、お返しだ、サンちゃん。あなたなら、死にはしない」


「……えっ」


 三方向から囲まれるサンカ。彼女は慌てて飛び立とうとするが——それよりも早く、『氷属性最強の適性』を持つ、彼女の魔法は解き放たれた。




「「「『凍てつく氷の魔法』」」」



「……いやああぁぁぁっっ!」




 ——凍りつく、凍りつく、凍りつく。


       全てが、全てが、全てが——




 渦巻く白が吹き荒ぶ。やがて嵐は止み、静寂の中響く氷の微かな音。そして、渦巻く白が晴れたそこには——




 ——サンカを閉じ込めた氷山が、静かにたたずんでいるのだった。




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