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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第五章
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竜の理、人の理 03 —『フィア』—






『そこまで!』


 女王竜の声が高らかに響く。


 クレーメンスの放った巨大な火の鳥を前に、なすすべのなかったフィア。


 この試合は勝敗は関係ないとはいえ、結果は火を見るより——いや、火を見て明らかだっただろう。


 女王竜は高らかに笑い出す。


『カッカッカッ! ここにいる娘達はわらわの後継の候補となる程の実力者。その者相手に、見事だったぞ人の子よ!』


 楽しそうに語る女王竜。とりあえず初戦は満足してもらえたらしい。


 血にまみれ、自らの炎で火傷を負いながらも立ち、頷いて話を聞くクレーメンス。そんな彼の元に、ライラがてててと駆け寄ってきた。


「ぴーぽーぴーぽー。救護班です!」


「……ぴーぽー? なんだ、それは?」


「んとね、お父さんやリナの国ではこうするんだって。きゅーきゅーしゃー? って言ってた」


 無表情でライラを見つめるクレーメンス。言葉の意味を理解しようとしているのだろう。


 そんな彼の様子を気にすることなく、ライラは魔法を詠唱する。


「——『傷を癒す魔法』」


 魔法の効果が現れると、クレーメンスの傷口はみるみると塞がっていった。ライラはついでに『汚れを落とす魔法』も唱える。


 そうしてクレーメンスへの処置を終えたライラは、フィアの方へと駆け寄った。


「はい、フィアも。あ、少し焼けちゃってるね。ちょっと待っててね——」


 魔法の詠唱を始めるライラを見つめながら、フィアは『フィア』と呼ばれたことに口を緩める。


「——『傷を癒す魔法』」


 ライラの魔法を受け、傷を回復させたフィア。ライラにお礼を言った彼女は、クレーメンスの元へと歩み寄った。


「クレーメンス……だったよね」


「ああ。どうした、フィアンドロッセ・マルチャリオス」


 ガクッ。少しよろめいたフィアだったが、すぐに立て直し、気持ち頬を赤らめてクレーメンスを見つめた。


「……フィア」


「ん?」


「……フィアがいい。フィアって呼んで」


「そうか? ならフィアと呼ぼう。それで、どうしたフィア」


 フィアと呼ばれ嬉しそうな表情を浮かべた彼女は、くるりと背中を向けて少し声を張り上げた。


「なんでもないよ、ありがと!」


 そう言い残して、仲間の氷竜の元へと駆け出していくフィア。


 それを無表情で見送ったクレーメンスは、ライラに話しかけた。


「助かった、ライラ。では、俺たちも戻るとしよう」


「……あの、クレーメンスさん、もう少しなにかこう、なんとかしてあげればいいのに」


「何をだ?」


「なんでもない!」


 無表情で問い返すクレーメンスに、呆れた様子でくるりと背を向けるライラ。




 ——こうして初戦は終わった。だが、まだこれからだ。女王竜を楽しませる戦い、その次の試合の準備が始まる。








「お疲れー。いやー、すごかったねー。なにアレ?」


 戦いを終えたクレーメンスを、ハウメアが出迎える。


 クレーメンスは無表情のまま、ハウメアに迫ってきた。声を掛けておいてなんだが、一歩後ずさるハウメア。


「ああ、あれか。あれは魔剣を媒体にした、ただの魔法の重ね掛けだ。繊細なコントロールが必要なので、クラリスの歌で集中力が増している時しか使えないがな」


「そうなんですよ! そのせいで私、何かあるとすぐこの人に呼び出されるんですから。あなたからは報酬、別に貰いますからね!」


 話に割り込み、ぷんすか怒るクラリス。なるほど、彼女はクレーメンスと行動を共にすることが多いらしい。当たりの強さもそれゆえなのだろうか。


 莉奈は気になり尋ねてみた。


「クラリス、クレーメンスさんと一緒のこと多いんだ。だから仲良いんだね——」


「冗談はやめて下さい!」


 莉奈の言葉をピシャリと遮るクラリス。彼女はクレーメンスをキッと睨む。


「この人、私の歌を聴いても顔色一つ変えないのに、戦闘中はあんなに楽しそうな顔をして……吟遊詩人の名折れですう……」


 莉奈の胸に飛び込み、よよと泣き崩れるクラリス。レザリアが細剣の柄にカチャリと手をかける。


 クラリス大ピンチ。その時だ。空洞の中央から声がかかる。


「ねえ、まだー? 待ちくたびれちゃうんだけどー」


 見ると、すでにそこには次の氷竜が待ち構えていた。皆は顔を見合わせる。次に行くのは——



「しょうがないねー。わたしが行くよー」



 ——ハウメアが杖を携え前に出た。莉奈が驚きの声を上げる。


「……あの、ハウメアさん、大丈夫ですか?」


「ん? リナちゃん、どういう意味かなー?」


 ハウメアはため息をつき、莉奈に振り向いた。莉奈は「ええと……」と言葉を詰まらせる。


「んー、竜族は魔法抵抗力が高い。加えてわたしは『火属性』の魔法が使えない。あと、普段動いていないのに大丈夫か、そんなところかなー?」


 ハウメアの全てを見通す言葉を聞いて苦笑いをする莉奈。そうだ、彼女がそこいら辺を理解していない訳がない。


 ハウメアは莉奈に微笑みかけた。


「まあ、見ててよリナちゃん。ここはわたしの場所フィールドだ。女王竜を楽しませるくらい、訳ないさ」




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