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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第五章
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竜の理、人の理 01 —竜の理、人の理—






「……えっ、ちょっと待って下さい。巣を替えるって……巣を替えるってことですか?」


『……?……何を言っておる。そうだ。この近くにいい龍脈があってな。火竜共と奪い合いになるのも面倒くさくて様子を見ていたが……奴等なき今、なんの憂慮もなくわらわの巣に出来るというわけだ』


 要領の得ない莉奈の質問に、当たり前のように返す女王竜。その言葉にハッとして、グリムは女王竜に尋ねる。


「女王竜。質問が二つある。まず、龍脈とは、大地の気が集まるところをさすのか?」


『ああ。そのような解釈で問題ない。妾の力の源だ。ここも悪くないが、だいぶ吸いつくしてしまってのう。火竜の憂いがないのなら、この地方の南東にある龍脈に移ろうと思っていたのだ』


 顔を見合わせる面々。この地の南東。ここまで聞けば、グリムでなくとも心当たる。


 それを確かめるために、グリムは続けて質問をした。


「——そしてその場所は、オッカトル共和国のケルワンで間違いないか?」


『ケルワン? 妾は人の子のつけた名前なぞ知らんが、どこのことだ?』


「……ああ、すまない。今、地図を書く」


 グリムは地面に簡易的な地図を描く。このトロア地方の全体図を描いていき——そしてケルワンの位置がある場所に印をつけた。


 それを見た女王竜は頷く。


『おお、おお、そうだ。そこだ。ここから南にも龍脈はあるのだが、そこは今、悪い気が満ちていてのう。行くとしたらお前たちがケルワンと呼んでおる、そこだ』


 なるほど。当時、火竜達、そして火竜の女王竜がケルワンを目指していた理由はわかった。その地を流れる、龍脈が目当てだったのだ。


 しかし——ハウメアが前に出る。


「……女王竜。恐れ入るけど、巣替えを待ってもらうことは……出来ないかな?」


『……何故だ?』


 ハウメアの言葉を聞き、途端に不機嫌そうになる女王竜。ハウメアは一瞬ビクッとなるが、真っ直ぐに女王竜を見据える。


「……ケルワンには今、大勢の人が暮らしている。それにさっきも言ったけど、この氷穴にはあなたの子孫である氷人族が暮らしているんだ。今、あなたに出て行かれるとこの氷穴は……」


 そこまで言って、ハウメアはグリムの方を見た。それを受け、グリムが後を引き継ぐ。


「この氷穴は、見たところキミの力で維持されている。もしキミに去られてしまったら……この氷穴は機能を失い、暑さに弱い氷人族は全滅してしまうだろう」


 ハウメアとグリムの訴えを、女王竜は静かに聞き入る。そして、不思議そうに口を開いた。



『それがどうした? 妾に人の子の都合など関係ないし、それに、ここの氷人族が滅んでも、極寒の地に氷人族は繁栄しておるのだろう? 何も問題ないではないか』


 

 絶句。価値観の違い。悠久の時を生きる彼女にとって、それは些末な問題なのかもしれない。


 しかし——



「「だめっ!」」



 ——声を上げる者がいる。莉奈とライラだ。


 二人は同時に声を上げたことに驚いて顔を見合わせたが、すぐに女王竜に向き直った。


「駄目です、そんなの! 皆んな頑張って、ここで暮らしてるんです!」


「そだよ! 女王様はみんなのコト考えなきゃいけないんだからっ!」


 切々と訴える莉奈とライラ。そんな二人のことを、女王竜は一瞥いちべつする。


『……妾の意思に逆らうのか? 人の子の分際で』


「……逆らいます!」


 きっぱりと言い切り、莉奈は真っ直ぐに女王竜を見据えた。


「だって、こうして言葉を使って話し合えてるじゃないですか! だったら、人も竜も関係ない!」


 視線をぶつけ合う莉奈と女王竜。その莉奈の瞳は潤んでいた。


 女王竜は思い出す。遥か昔、人と恋に落ちた娘の言葉を——。





 ——『母様! 人だとか竜だとか、関係ない!』





『……ククッ』


 女王竜が肩を揺らす。それでも真っ直ぐに女王竜を睨み続ける莉奈。やがて女王竜は高らかに笑い始めた。


『カッカッカッカッカッカッ!』


「……何がおかしいんですか」


 女王竜の突然の様相に、撫然とした様子で莉奈は尋ねる。やがて女王竜は笑いを止め、口元を緩めながら莉奈を見据えた。


『……フン、なんでもないわ。しかし、火竜を駆逐してくれた其方そなたの頼みだ。考えてやらんこともない』


「……それじゃあ!」


 一転、莉奈に晴れやかな笑顔が浮かんだ。そんな彼女に、女王竜は告げる。


はやるな。無条件で、ただそちらの言いなりというのも面白くはない。条件を出させてもらう——』


 女王竜は上体を起こした。


『——妾を楽しませてみせろ。それが出来れば巣替えの件、考えてやる』








 女王竜から出された条件はこうだ。


 こちら側——人側から三名の代表者を出し、それぞれの氷竜と一対一で試合をする。


 そして力を示し、女王竜を楽しませることが出来れば良し。勝敗は問わないとのことだが、簡単に負ける訳にもいかないだろう。


 皆は円になって座り込み、話し合う。


「……私が砂に閉じ込めちゃえば、試合には勝てると思いますけど……」


「……いや、それだと女王竜を『楽しませる』ことは出来ないだろうな。今回は勝つことが目的じゃない」


「私の歌は、エンターテイメント性抜群ですよ!」


「……クラリス、歌う前にやられちゃうでしょ」


 ああでもない、こうでもないと話し合う面々。


 そんな中、クレーメンスが立ち上がった。


「まあ、俺は行かなければならないだろうな。どうやら相手は、俺のことを希望しているようだ」


 見ると、一人の氷竜がクレーメンスに刺すような視線を送っていた。先ほど彼と渡り合った氷竜だろう。


 ハウメアが心配そうに声をかける。


「……クレーメンス。ブレスには気をつけなよー……」


「ああ——」


 クレーメンスは剣を抜き、歩き始める。そして去り際、その顔に笑みを浮かべ呟いた。


「——俺がここで頑張れば、氷人族は救われるのか……たぎるな。では、行ってくる」




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