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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第五部 第四章
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眠れる氷の女王竜 02 —万年氷穴—









 ここは『万年氷穴』へと向かう二台の馬車の片方、『北の魔女』ハウメアが乗っている馬車の中——。



 ハウメアとマルテディは指を繋ぎ合わせ、プルプルと震えていた。


「……ねー、マルテディ。この人、怒ってんのかなー……?」


「……わ、わかりません、ハウメアさん。私達、何かしましたっけ……?」


 その二人の正面に座るのは三つ星冒険者クレーメンス。彼は怯えている二人のことを、無表情でジッと見つめていた。


 そこにマルテディの胸元から顔を出しているルネディが、呆れた様子で口を開いた。


「……マルティはともかく、ハウメア。あなた、そんな人見知りでよく国を治められるわね……」


「……いやー。だって普段、ヒイアカとかナマカがそういうのやってくれるし。私は頭を使うだけだし……」


「……ふう。クレーメンスと言ったかしら? もう少し愛想よく出来ないかしら」


 その言葉に、クレーメンスは無表情を崩さずに口を開いた。


「努力する。いや、努力はしている」


「……ひっ、喋った!」


 思わずマルテディに抱きつくハウメア。間に挟まれたルネディが潰れる。


 その様子を眺めている、ハウメアの頭の上に乗っかっているメルコレディが足をパタパタさせながら彼女に注意をした。


「だめだよ、ハウメアちゃん。ルネディ潰れちゃうから。でも、クレーメンスちゃん。どうしてそんなに無表情なの?」


「よく言われるが、なんでだろうな」


 その時、会話が聞こえていたのか、馬車を操縦しているクラリスが振り返り声をかける。


「無駄ですよ。この人が表情変えるの、戦闘の時だけですから!」


 それを聞いたハウメアは、興味深そうにクレーメンスを見た。


「へー、表情失くした訳じゃないんだ。戦闘中だけ表情が出るということは——」


 ハウメアは口角を上げ、続けた。



「——もしかして、君の使っている『魔剣』と何か関係あるのかなー?」


 ニヤリと笑うハウメア。まず間違いな——



「いや、何の関係もない」



 即答。もしこの馬車に莉奈が乗っていたら、馬車の外に放り出されるくらいには体勢を崩していたであろう。


 さすがのハウメアも少しよろめいていたが、すぐに姿勢を正した。


「そ、そ、そうなんだー。じゃあ、戦いが好きとかかな?」


 沈黙。恐らくクレーメンスは、真剣に考えているのだろう。無表情で。


 ハウメアとマルテディが再びプルプルと震え始めたところで、彼は口を開いた。


「……そうなのかもな。ただ、これだけは言わせて欲しい」


 クレーメンスは首を回し、馬車の外を見る。


「……ひっ、動いた!」


「ハウメアちゃん、失礼だよ」


 ポクリ。メルコレディがハウメアの頭を叩く。


 そんな二人のやり取りを気にすることなく、クレーメンスは独り言の様につぶやいた。


「……俺は平和が好きだ。俺が剣を振るうことで、一歩ずつ平和に近づくだろう。だから俺は、戦うことが好きなのかもしれないな」








 道中、天候はあまりすぐれなかった。とはいえ大きく崩れることもなかったので、暑さが苦手なハウメアにとっては多少は過ごしやすかったに違いない。


 夜が来て、昼が来て、また夜が来る——。


 旅を共にし、彼らは打ち解け合い、笑い合う。


 そして予定通りブリクセンを発ってから二日後、彼らは目的地である『万年氷穴』の入り口の前に立つのだった——。






「はい、みんなー。ここが私の故郷、万年氷穴だよー」


 日傘をさしたハウメアさんが、皆を見渡して微笑む。


 山の中腹に空いた、人が通るには充分な広さのある氷穴。その穴からは、冷気が流れ出してきていた。冷んやりとして、涼しい。


 おかげでマントをまとっていても大丈夫そうだ。というか流れ出してくる冷気から察するに、中に入ったら夏服のままでは寒いかもしれない。


 私は隣にいる誠司さんに話しかける。


「ねえねえ、誠司さん。この中に街があるんだよね?」


「ああ。氷人族が暮らしている、な」


 なんでも誠司さんは過去、何回かここを訪れたことがあるらしい。


 その誠司さんやハウメアさんからの話を聞く限りだと中は結構広く、氷人族の皆さんがちょっとした街のようなものを作って暮らしているとのことだ。


「んじゃみんな、いこっかー。メルちゃんもありがとー、もう大丈夫だよ」


「うん!」


 頭の上に乗っていたメルを降ろし、マルティに手渡すハウメアさん。


 私達はハウメアさんに先導され、氷穴の中へと足を踏み入れる。空気が冷たくて心地よい……いや、少し寒いか?


「ねえ、ハウメアさん。この奥って、どんどん寒くなっていくんですか?」


「あー、そうだねー。この地方で例えると、真冬で一番寒い日くらいの気温かなー」


「あ、じゃあ『防寒魔法』配っておきますね」


 私は歩きながら皆んなに『防寒魔法』を配ってまわる。


 誠司さんにグリム。マルティにルネディ。クラリスにクレーメンスさんと順番に魔法を唱える。


 そして、レザリア。


「んじゃ、レザリアにも掛けちゃうねー」


「いえ、私はリナが人肌で温めてくれれば——」


「……——『寒さを防ぐ魔法』」


「……ちえっ」


 …………。


 ちなみに、ハウメアさんとメルは必要ないとのことだ。


 こうして皆に魔法を配り終わり、青みがかった壁の、整備された通路を歩くこと十分じっぷん——



「さあ、ついたよー。ここがわたしの故郷、イベルノだ。みんな、ようこそー」



 ——通路を抜けた先。幻想的な青に包まれた、開けたその空間には、五十人ほどの氷人族が暮らす『イベルノ』の小さな街並みが広がっていたのだった。



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