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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第五部 第三章
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『北の魔女』 05 —約束の話—







 ——グリムは知っていた。魔導師ヘクトールという存在を。その悪業を。


 だがそれは、『妖精王アルフレード』から聞いた千年も昔の話。決して口外しないと誓った約束の話。


 ハウメアに問い詰められたグリムは——







「——失礼。私は確かに魔導師ヘクトールという存在を知っている。ただ、先ほども言ったように私は彼のことを何も知らない。何か矛盾はあるかな?」


「……ふうん。けむに巻くつもりかなー? あいつのことを『魔導師』って呼ぶの、魔法国の身内ぐらいしかいないけど?」


 視線を交わし合うグリムとハウメアさん。間違いない。グリムは『魔導師ヘクトール』という存在を知っている。


 いったいどこで? グリムに魔法国の知り合いなんて——あ、いた。


 私は恐る恐る手を上げる。


「あのー、グリム? カルデネから聞いたんだよね?」


 そう。カルデネはかつて魔法国で研究をしていた。なら、グリムが彼女から話を聞いて知っていたとしてもおかしくはない。どうよ、私の推理。


「莉奈、違う。カルデネじゃない」


「あっ。じゃあ、ルネディ達に……」


「……いや、違う」


「……そう、なんだ……」


 ……そこは嘘でも『そうだ』って言って欲しかった、言ってしまえばよかったのに。ほら、ハウメアさんも完全に疑惑の眼差しを向けているじゃないか。


 グリムは苦しそうな顔でハウメアさんを見る。


「……ハウメア嬢。キミが私を疑うのも分かる。だから正直に言おう。私は彼が遠い昔に何をしたのかを知っている。しかしその話は口止めされているし、何より軽々しく公表出来る様な内容じゃないんだ。今はこれで納得してもらえないかな?」


「……納得出来ると思う?」


「……してもらうしかないんだ」


 重苦しい空気が部屋を満たす。そんな二人のやり取りを見守りながら、私は考える。



 ——なぜグリムは、そのことを知っているんだろう?



 グリムはこの世界に来てから、基本的に私達と行動を共にしている。しかも『口止めされている』と言っているので、文献などから得た情報でもない。きっと誰かから聞いたのだろう。


 なら、一体いつ。私が把握していない、グリムと私が完全に別行動をとったタイミングは——ある。


 ジョヴェディを倒し、私と誠司さんがジル村から家に帰るまでの間。その時彼女は、サランディアの冒険者ギルドへと出かけたらしい。それと他には——ジョヴェディと戦う前、彼女が『アルフさんを迎えに行った時』だ。


 私はハッとなって、ルネディ達の方を見る。するとルネディとメルの二人は察してくれたのか、私の方を真っ直ぐに見て小さく頷いた。


 グリムの行動、アルフさんの秘密にしている過去、ルネディ達の視線——間違いない。アルフさんは恐らく魔法国、そして、ヘクトールという人物と関わりがある。



 そして推察するに、グリムはアルフさんから千年前のことについて()()()()()()()



 それならグリムの言っていることも納得が出来る。全てが腑に落ちた。しかもグリムはカルデネやルネディ達を理由に出来たのに、それをしなかった。うん、はなから疑っていた訳ではないが、私はグリムを、信じる。


「——ハウメアさん。私はグリムを口止めした人物に心当たりがあります」


「……ふうん。それは誰かなー?」


「それは……言えません。ただ——」


「ただ……なんだい?」


 ハウメアさんの冷たい視線が私に向く。私は大きく深呼吸をして、続けた。



「——聞いて下さいよ、ハウメアさん。その人、めちゃくちゃ勿体ぶるんですよ!? 肝心なところで話はぐらかすし、そのくせ思わせぶりな態度ばっかりとって。言わないなら匂わせんなって話ですよ! まあでも、あの人にはだいぶ助けてもらってますし色々と便利なものくれたんで……えっ、ちょっと待って。もしかして私、それで誤魔化されているとか……!?」



 はっ、いけない。ついヒートアップしてしまった。日頃の鬱憤うっぷんをぶちまけてしまった。


 そのように熱弁してしまった私のことを、目を丸くして眺める皆様方。あ、やばい、なんか急に恥ずかしくなってきたぞ。


 周りが茫然とするそんな空気の中、ルネディがこらえきれない様子でクスクスと笑い出した。


「ええ、そうね。ほんと、リナの言う通りだわ。ねえ、グリム。その人物で合っているかしら?」


「ああ。まあ、そうだが……お願いだ、その人物の名前は伏せておいてくれないか」


「ふふ。仕方ないわね。ねえ、エンプレス・ハウメア。魔法国に関わりがあって、ヘクトールに怨みのある私が保証するわ。そこの青髪は、()()よ」


 ルネディはハウメアさんを目を細めて見つめる。ハウメアさんもルネディを見つめ返しながら、側近の二人に声をかけた。


「ヒイアカ、ナマカ。二人はどう思ったー?」


「ハウメア。一緒に戦った私達の意見としては、グリムは信じていいと思うよ。ね、ナマカ」


「うん。もしグリムが魔法国のスパイだったとしたら、絶対にあんなボロは出さないと思う」


 そんな二人の意見を聞き、ハウメアさんは目を閉じた。


「……ふう。わかった、信じるよ。でも今のナマカの言いぶりだと、あえてボロを出したとかなのかなー?」


「いや、私は記憶力が良すぎるものでね。意識していないと今のように記憶したものをそのまま引っ張り出してきてしまう時があるんだ。ただ、誓って言おう——」


 そこまで言って、グリムは息を吐く。そして、冷たい空気をその身にまとい、言い放った。



「——ヘクトールの存在を、私は許さない」



 ——背筋が凍りついた。彼女のその姿は初めて見るが、私にはわかってしまった。


 グリムは今、静かに怒っている。





 果たしてアルフさんはグリムに何を語ったのか、私には分からない。そして私がそれを知るのは——だいぶ後の話になるのだった。




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