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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第二章
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帝都ブリクセン 05 —現れた男—





 その男の風貌を見て、ライラやレザリア、マルティまで後ずさる。そんな中、クラリスは振り返り、彼ににこやかに話しかけた。


「ああ、『魔剣使い』さん! こちらに帰って来ていたんですね!」


「クラリス、久しぶりだな。三つ星冒険者になったんだってな。おめでとう」


『魔剣使い』と呼ばれた男性は、相変わらずの無表情でクラリスの挨拶に応える。


 私は恐る恐るクラリスに尋ねてみた。


「……あの、クラリス? こちらの方は……」


「はい! こちら三つ星冒険者の『魔剣使い』ことクレーメンスさんです。この前の火竜戦の時に招集に応じなかった、とんでもない人です!」


「あの時は調査に出ていたからな、すまなかった。間に合う距離ではなかったんだ」


 相変わらずの無表情で淡々と返すクレーメンスさん。表情どっかに落とし忘れてきたのか?


「あはは、どうも。私、三つ星冒険者やらされている莉奈っていいます」


「ああ、歌を通じて噂は聞いている。そうだ、クラリス。俺の歌は作ってくれないのか?」


「いえ、あなた、華がありませんから!」


 え、クラリスこの人に対して毒舌。まあ彼女の本職は吟遊詩人だ。割り切るところは割り切っているのだろう。多分。


 そのクラリスの返答を気にした様子もなく、クレーメンスさんは私に向き直る。


「という訳だ、リナ。俺も推薦者になろう。この前参加出来なかった、詫びの意味も込めてな」


「えっ……本当にいいんですか?」


「ああ。心強い仲間が増えるのは、素直に嬉しい」


 そう言ってクレーメンスさんは片目をつむった。ウインクか? ウインクなのか? 無表情すぎてわからん。


 そんな私達のやり取りを見ていたオットリーノさんが、揉み手をしながらクレーメンスさんに頭を下げた。


「ああ、助かります、クレーメンスさん……あの、本当によろしいので?」


「無論だ。この魔剣に誓ってな」


 クレーメンスさんはそう返事をして、腰の剣の柄をポンと叩いた。


 見た感じ、普通の剣にしか見えないが——『魔剣使い』という異名や、本人もそう言っているのだ。それがきっと魔剣なんだろう。


 オットリーノさんは振り向き、アリーチェさんに頷いた。それを見たアリーチェさんは、いまだに落ち着かない様子でマルティに向き直った。


「はい、えー、ではマルテディさんと……あと残りのお二人の登録をさせて頂きます……こちらの紙に必要事項を記入して下さい……」


「あら? 私達もいいのかしら?」


 ルネディがぴょこんと顔を出してアリーチェさんに尋ねた。マルティは目を丸くしてアリーチェさんを見る。


「え? あれ? はい、大丈夫……なんですよね?」


 アリーチェさんはルネディとオットリーノのさんの顔を交互に見比べる。コクコクと頷くオットリーノさん。


 私もよくわからないが、流れ的に『厄災』達三人とも冒険者登録をする流れになっている。まあ、あれだ。さっきルネディもメルも飛び出して魔力計測をやったからか。


 状況を察したのか、ニコニコしながらマルティは紙に必要事項を記入し始めた。もちろん、ルネディやメルの分もだ。


 クラリスとクレーメンスさんも、用意された推薦状の用紙に必要事項を記入し、ギルドカードの写しを入れてくれた。これでバッチリだ。



 そして、しばらくして——



「——それではお待たせいたしました。こちらがマルテディさん、ルネディさん、メルコレディさんのギルドカードになります。今から冒険者ギルドについて説明しますね——」


 ようやく平静を取り戻したアリーチェさんの説明を、口元を緩ませながら聞き入るマルティ。うん、かわいいぞ。



 私達は、和やかにその様子を見守る——。





「——では、以上で説明を終わります。それでは冒険者ギルドを、よろしくお願いしますね!」


「はいっ!」


 一通りの説明を終える頃には、アリーチェさんも自然な笑顔が出るようになっていた。多分、噂などで耳にした「『厄災』マルテディ」ではなく、マルティ自身の人柄に触れたからだろう。


 こうして手続きを終えたマルティは、私の元にパタパタと戻ってきた。


「お待たせ、リナさん、皆さん。おかげで冒険者になれました!」


 満面の笑みを浮かべて頭を下げるマルティ。そんな彼女の頭を、私はよしよしと撫でる。


「よかったねえ、マルティ。クエストは受けたの?」


「ええと、とりあえずは氷穴に行ってからかな。落ち着いたら何か私でも出来そうなのやってみるつもり!」


 マルティの顔を見てうんうんと頷く私。だが、その言葉にクレーメンスさんが反応した。


「……氷穴? お前たち、氷穴に行くのか?」


「あ、はい……」


 クレーメンスさんの問いかけに、マルティは私の背中に隠れながら返事をする。


 クレーメンスさんはしばらく固まったあと——多分、何かを考えているのだろう——やがて口を動かした。


「やめといた方がいい。今、あそこには強力な魔物がいる。とてもじゃないが、俺一人では敵わない相手だ。そこで俺は、協力者を求めにここに戻ってきたのだが……」


「えっ、私は行きませんからね!」


 クラリスはそう言って私の背中に隠れる。おい、大人気だな私の背中。


 しかし——私は考える。ブリクセンにある『万年氷穴』は一つだけだったはずだ。


 メルの再生を速めるため、『厄災』達はしばらくそこで過ごすことになる。その予定だった。


 だが、そこに魔物が巣食っているとなると——。


 私はクレーメンスさんに尋ねてみる。


「すいません、クレーメンスさん。力になれるかはわかんないですけど、とりあえず話を聞かせてもらってもいいですか?」


「えっ、『白い燕』さんが行くなら私も行きます!」


 私の背中からぴょっこり顔を出すクラリス。現金だな。


 その言葉にクレーメンスさんは頷き、胸に手を当てた。


「ああ、感謝する。では、落ち着いた場所で話をしたいが——」


「ふむ。その前に莉奈。あれは放っておいてもいいのかい?」


 突然グリムに肩を叩かれ、私は振り返り彼女の指差した方を見た。



 そこには——



「はーい、『白い燕』サイン会はこちらでーす。あ、そこ、列を乱さないでくださーい」


「レザリア、最後尾の人にプレート渡して来たよ!」


「ふふ。ありがとうございます、ライラ」



 ——数十人程の列をテキパキと整理し、忙しそうに動いているレザリアとライラの姿があった。うおいっ!




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