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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第五部 第二章
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帝都ブリクセン 02 —待ち構える者—








「はえー、大きな街だねえ……」


 ブリクセンの街の馬宿に馬車を預けた私は、改めて街を見回す。レザリアに腕を組まれながら。



 ——帝都ブリクセン。『北の魔女』ハウメアさんが治めているという国の帝都。


 その街は大きく栄えており、活気に満ち溢れていた。


「ふむ。この国は大陸の玄関口にもなっているからな。便利さを求め人が集まるのも、まあ必然だろう」


「なるほどねえ」


 グリムの解説に頷く私。レザリアに頬を擦り寄せられながら。



 このトロア地方は東の大陸とは陸続きだが、険しい山々で分断されている。


 その中でも比較的往来がしやすいブリクセン国が大陸との交易を行ない、トロア地方全体の物流の要点を担っているのだ、ってヘザーが言ってた。


 つまりだ。ハウメアさんが本気になれば、物資を独占してサランディアやオッカトルを簡単に窮地に追い込むことも出来るのだが——どうやらそんな事を考えるような人ではないらしい。


 彼女は野心を持つこともなく、このトロア地方を代表する国としての責務を、立派に果たしてくれているのだ。




「それじゃあ、皆んな。誠司さんが起きるまでの時間潰しに、冒険者ギルドに行ってみよっか」


「「賛成ー」」


「あとレザリア。いい加減少し離れて」


 ——新しい街。新鮮な光景。自然と足取りも軽くなる。レザリアの重みさえなければ。


 こうして私達は観光がてら、帝都ブリクセンの冒険者ギルドへと向かうのだった。










「たのもー!」


 ライラが声を上げて、勢いよく『冒険者ギルド・ブリクセン支部』の扉を開ける。やめて。


 ほら、皆んなの視線が——



「お待ちしておりました、『白い燕』さん!」



 ——聞き覚えのある声。なんと扉を開けたその先に待ち構えていたのは、三つ星冒険者、『歌姫』クラリスだった。


「クラリス、久しぶり! この前はありがと!」


「いえいえ!『白い燕』さんの頼みとあらば、なんてことありません。お茶の子さいさいです!」


 私達は顔を緩めてハイタッチをした。



 クラリス——チートにも近い力を持つ人物。彼女の魔法の歌を聴いた者は、滋養強壮、疲労回復、栄養補給など様々な効果が得られる。彼女の歌には本当、助けられっぱなしだ。


 今回の旅でサランディアに寄った際、グリムはギルドに寄って、通信でクラリスに訪問の旨を伝えていたらしい。


 本来、ギルドの通信魔道具なんて勝手には使わせてもらえないはずだが——ジョヴェディ戦の時に力を借りたクラリスへの報酬は、『戦いの詳細を一部始終、包み隠さず伝える事』。ちっ。


 その事を理由に、グリムは通信魔道具を借りてクラリスに連絡したのだろう。いつかグリムがギルドを私物化しませんように。



 クラリスは続けてライラ、レザリア、グリムとハイタッチを続け——マルティの前で立ち止まる。


「あの、こちらの方が……」


 クラリスは振り返ってグリムの顔を見た。グリムは黙って頷く。


 それで察したのだろう。クラリスは神妙に頷き返し、ギルドの奥を手で示した。


「……別室をとってあります。皆さま、こちらへ——」







「はあぁっ! あなたが『厄災』マルテディさん! その節はお世話になりましたあっ!」


「はいっ!?」


 部屋に入るなり、目を輝かせてマルテディの手を取るクラリス。マルティは突然の状況に困惑を隠せないようだ。



 ——火竜襲撃戦の時、マルティは意識を失った状態の私とクラリスを街まで送り届けたので彼女の顔を知っているが、クラリス目線では『厄災』とは初顔合わせだ。


 その様子を見た私は、呆れて口を開く。


「クラリス、落ち着いて。マルティ、この人がクラリス。『白い燕の叙事詩』を作って広めてる人だよ」


「えっ、えっ、あなたが!?……あ、あの『白い燕の叙事詩』、い、いつも楽しみにしてます!」


「ふひゃあ、吟遊詩人冥利に尽きますぅ……あ、サイン要ります?」


「はいっ!」


 サラサラと手慣れた様子で色紙にサインするクラリスの姿を、キラキラとした眼で見つめるマルティ。


 そんな彼女の胸元から、ルネディとメルがぽにんぽにんと顔を出した。


「あひゃ! ルネディ、メル、くすぐったいよう!」


「あら。初めましてね、クラリス。いつもリナを助けてくれてありがとう。私からもお礼を言わせてもらうわ」


「初めまして、クラリスちゃん! わたしメルコレディ。メルって呼んでね!」


 突然胸元から生えてきた二人を見て、クラリスは驚く。


「な、なんと、お二人まで! あの……事前にグリムさんから伺ってはおりましたが、何でお二人は小さくなっているのでしょう。一体、何があったのです?」


「ふむ。それがキミへの報酬だったね。長くなるが、キミの希望通り余すことなく伝えるとしよう——」



 ——グリムは語る。あの時、私が何回泣いたのか、何回椅子からずり落ちたのか、何回ツッコミを入れたのかを——



「うおい! そういうのはいいからっ!」


 私の実績を淡々と語るグリムに、思わずツッコミをを入れてしまう私。はい、プラス一回。


「いや、余すことなくという要望だったから……」


「いえ、グリムさん。そんなことより早く伝説を、伝説をお聞かせくださいっ!——」





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