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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第五部 第二章
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帝都ブリクセン 01 —北へ—







 ——『魔女の家』での話し合いから三日後。


 早朝に家を発った莉奈達はサランディアに寄って王の親書を預かる。


 そして昼食と買い物を終え、早々にブリクセンへと馬車を進めるのであった。



「じゃあ、クロカゲ、アオカゲ。ブリクセンへ、GO!」


「ヒヒーン!」



 誠司は親書を受け取った後、速やかにライラと交代。最近ライラには夜を任せることが多かったため、皆と触れ合える昼型の生活を送ってもらおうという誠司の判断だ。


 今回御者は、莉奈、レザリア、グリムが交代で担当することになっている。


 今は莉奈の担当なのだが——


「うえっへっへっ、リぃナぁ……」


「……レザリア、危ないから少し離れようね?」


 ——後ろからレザリアが抱きついてくるので、とにかく暑い。夏真っ盛りだし超暑い。道中は念の為マントも羽織っているので超超暑い。


 これは詭弁をろうしてでも、置いていった方が良かったんじゃ……


 と、莉奈が思ってしまうのも無理はないだろう。




 そんな中、街道の先から土煙がこちらに向かってくる様子が『遠くを見る魔法』で強化された莉奈の視界に映った。


(……あー、魔物かな?)


 莉奈は馬車を止め、土煙の方角へと意識を『飛ば』す。


 そこには——猛然とこちらに迫って来る『暴れ牛の魔物』二十体程の群れが確認できた。


 莉奈は荷台に声をかける。


「ごめーん、マルティ。『暴れ牛の魔物』二十体ぐらい。足止めよろしくー」


「あ、うん!」


 皆でカードゲームに興じていたマルテディは手を止め、馬車の外へと降り立つ。


 そして彼女が右腕を振り上げると——真っ直ぐに砂の道が伸びてゆき、街道一帯は瞬く間に砂で覆われた。


「んじゃ、ちょっくら行ってきまーす!」


 莉奈は皆に声をかけ、街道の先へと飛んで行く。


 続けてグリム、レザリア、ライラが馬車を飛び降り、莉奈の後を追う様に駆け出していった。




 やがて『限定解除』をしたグリムが、莉奈に追いつく。


 そこには流砂に揉まれて満足に動けない暴れ牛たち。その魔物の弱点である眉間を、的確に突き刺して魔素に還していく莉奈の姿があった。


 グリムはフッと息を吐いた。二十体程と聞いていたが、もう既に半数近くが倒されているではないか。


 グリムも跳躍し、一匹の牛にまたがって眉間に短刀を突き立てる。


 遅れてやって来たレザリアの矢が、魔物の眉間を正確に穿つ。


 ライラは砂に飲まれないよう気をつけながら、立ち昇る魔素に向けてギルドカードをパタパタする——。




 こうして莉奈が戦闘を開始してから二分ちょっと。『暴れ牛の魔物』の殲滅せんめつは終了した。


「ふいー、みんなお疲れー。パタパタしちゃってー」


 莉奈の言葉に、立ち昇る魔素を追いかけながらギルドカードをパタパタするライラとレザリア。


 そんな二人を見ながら、グリムは莉奈に話しかけた。


「私がこの世界に来た時から比べても、随分と手際が良くなったんじゃないか? 莉奈」


 その問いに、小太刀に『汚れを落とす魔法』を唱え終えた莉奈は答える。


「そうかな? 自分じゃ分からないけど。まあ、最近色々あったからねー」


「……そうだね。色々、あった」


 グリムは思い返す。彼女がこの世界に来てから、オッカトルの火竜襲撃戦。それに先日は『厄災』ジョヴェディとの死闘が繰り広げられた。


 グリムはその旅に大部分、莉奈と同行した訳だが、その旅の道中に出会う魔物討伐も、彼女は回数を重ねるごとに手際が良くなっている様に感じる。


 聞けば、グリムが来る少し前までは実戦経験はほとんどなかったと彼女は言っていた。



 ——やはり、経験は偉大だな。



 グリムは息を吐き、彼女もまた、ギルドカードをパタパタしにライラ達の元へと向かうのだった——。




「……って、ちょっと待て、うぉい!」


 莉奈が叫ぶ。グリムは魔素を追いかけながら返事をした。


「なんだ、莉奈。素っ頓狂な声を上げて」


「素っ頓狂言うな! グリム、あなたいつ冒険者になったのよ!?」


 確かに彼女の手に握られているのはギルドカードだ。いったい、いつの間に——。


「ああ、これか? キミ達がジル村から家に帰ってくるまで暇だったからね。ギルドにおもむきがてら、冒険者登録をしたのさ。色々と便利そうだからね」


「……はあ、そうですか……ってあなた、一つ星スタートなのね……」


 莉奈に向かって突き出されたグリムのカードには、星が一つ輝いていた。まあ、何があったのかわからないが、火竜襲撃戦もジョヴェディ戦も無事に乗り切れたのは、ひとえにグリムの戦略あってのことだ。


 そのことはギルド長サイモンも把握しているので、便宜を図ってもらったのだろう。その場面を想像し、莉奈は苦笑する。



 と、その時。おっかなびっくり馬車を操縦するマルテディが、莉奈達の元へと追いついた。


「みんな、だいじょうぶ……って、わあ! それ、ギルドカード!?」


 御者台からぴょんと飛び降りて、ギルドカードをまじまじと覗き込むマルテディ。その目はキラキラと輝いている。


「そうだよー。ジャジャーン! 見て、私のギルドカードも!」


「きゃー、きゃー、三つ星だ! 見せて見せて!」


 マルテディは夢中でギルドカードを手に取り、じっくりと眺め始めた。そんな彼女を見て、莉奈はこの時初めて思う。


 ——ああ、私、三つ星冒険者になって、良かったなあ、と。


 そのようにしばらくギルドカードを眺めていたマルテディだったが、だんだんと彼女の顔は曇っていく。


 戻ってきたライラがその様子に気づき、心配そうにマルテディの顔を覗き込んだ。


「どしたの、マルティ?」


「……あ、うん。私ね、冒険者に憧れてたんだ……」


 そう言って彼女は寂しそうな表情をする。


 冒険に憧れていたマルテディ。施設を出ることが出来たら、冒険をしよう。そう思うことにより、彼女は度重なる非道な実験を耐え、心を支え続けていたのだ。



 ——しかし、彼女を待ち受けていたのは『厄災』という結末。


 巡り巡って幸運にも今の自分があるが、『厄災』という事実は、もう、消せない——。



「えっ。じゃあ、なっちゃえばいいじゃん、冒険者」


「はいっ?」


 突然の莉奈の言葉に驚くマルテディ。彼女は顔を赤らめてしどろもどろで返事をする。


「……だ、だって私、『厄災』だしっ……!」


「多分、大丈夫じゃない? どう、グリム?」


「ふむ。少なくともギルドの規則に、『『厄災』はダメ』、とは書かれてはいないな」


「え、マルティ冒険者になるの? やったー!」


 飛び跳ねるライラを見て、慌ててマルテディは手をブンブン振る。


「あ、あのね、まだなれるって決まった訳じゃ……」


「まあ、とりあえずだ。私はブリクセンの冒険者ギルドに用事がある。着いたら一緒に行こうじゃないか」


「……えっ、えっ……」


「行くよね、マルティ!」


「……はいっ!」


 莉奈の言葉に決心をし、大きく頷くマルテディ。


 彼女は馬車に戻り、待ちぼうけを食らっている二人に晴れやかな笑顔で報告する。


「——あのね、ルネディ、メル、聞いて! 私……!——」




 ——旅路は頼もしい仲間たちと共に、順調に進む。



 そして、予定通り家を発ってから十日後——彼女達はブリクセン国の中心地、帝都ブリクセンへと無事、到着するのだった。




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