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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第四部 エピローグ
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エピローグ ②





 今後の方針を話し合う為、皆は集会所——という名の空き小屋へと向かっていた。


 莉奈は相変わらずライラとレザリアに束縛されていた。まあ、クラリスの歌が切れた今、支えてもらえるのは助かるのだが——。


 ため息をつきながらライラを見る莉奈だったが、なんだか彼女の様子がおかしいことに気づく。なんかこう、口を尖らせてうつむいて歩いているのだ。


「どうしたの、ライラ。何か考えごと?」


 心配になった莉奈は声をかける。ライラは顔を上げ、莉奈の方をジッと見た。


「ねえ、リナぁ……私、リョウカさん? に嫌われてるのかなあ……」


 その言葉を聞き、莉奈は思い出す。


 ——そう言えばあの時リョウカさんは、ライラの挨拶を無視したように見えたけど——


「そんなことないんじゃない? ていうかあなた、リョウカさんに会ったことあるんだね」


「……うん。前にエルフさんを助けた日に、サランディアでぶつかっちゃったの……」


 あの時か。莉奈は思い当たる。確かあの日、ライラは単独行動をしていた。でも——


「うーん。そんなことぐらいで嫌うかなあ。いまいちよく分かんない人だけど、いい人なのは確かだよ」


「ホント!?」


 ライラはパァッと顔を輝かせる。その耳は赤い。おや? と莉奈は思った訳だが、反対側にいるレザリアが身を乗り出してきた。


「ライラ。なるほど、分かりました」


「ん? なにが?」


「あなたはそのリョウカという方に、恋、してますね?」


 立ち止まる三人。プシューと赤くなっていくライラ。


 そして。


「そ、そ、そんな訳ないじゃんっ! 顔だってよく見てないしっ」


「いえ、でもあなた、私と同じ目を——」


「もうっ、バカっ! レザリア、知らないっ!——『子守唄の魔法』!」


 目をグルグルさせながら、逃げようとするライラ。


 待ってこの状況——莉奈は叫ぶ。


「ライラ! 腕を離してええぇっ!」


 しかしライラはガッツリと腕を組んでいる。そのままライラは一瞬の光に包まれた。そして——


 ——莉奈とガッツリと腕を組んだ状態で、誠司が顕現けんげんした。


「……なんだこの状況は。いったいどうなってる」


「私が聞きたいよおっ! とりあえず離してえっ!」


「……いくらセイジ様といえど、異性がリナと腕を組むのはっ!」


 カチャリと細剣を抜く音が聞こえる。片腕を解放され、力が抜け崩れ落ちる莉奈。


「……莉奈、逃げるぞ」


「……待って、私動けないんだけど」


「……乗れ」


 莉奈を半ば無理矢理に背負って駆け出す誠司。追うレザリア。


 莉奈は先刻の誠司とのやり取りを思い出す。



『——私は、大切な家族で、娘である、莉奈、君のことを連れ戻しに来た』



 莉奈は口元を緩め、誠司の温もりを感じるために彼の背中に顔をうずめるのだった。




 そのやり取りを何とはなしに聞いていたグリムは、駆け出していく背中を見送りながらつぶやいた。


「……リョウカ、ね……まさかな……」


 グリムは首を振り、歩き始める。彼女の至ったその仮説は、その胸の中にひっそりとしまい込まれるのであった。









「それで、だ。私がいなくなった後、どうなったんだ?」


 ここは集会所。


 あの戦闘に参加した全員が集まっている。


 皆は語る。誠司がいなくなった後、ジョヴェディとライラは二時間もの間、戦ったこと。


 戦いとは言っても、まるで稽古をつけていたかの様相だったこと。


 そしてジョヴェディは、自らの消滅を試みたこと。


 それは失敗に終わり、リョウカがジョヴェディの身柄を引き受けたこと——。


 話を聞き終わった誠司は「そうか」と短く返事し、その口元をわずかに緩めた。


 その様子を見た莉奈は、首を傾げた。


「そうかって。結果的に大丈夫だったけど、誠司さんらしくないじゃん。ライラに代わって、不安じゃなかったの?」


「そうよ。私も驚いた。あなた、娘を戦わせたくなかったんじゃ?」


 セレスは身を乗り出して誠司の手をギュッと握った。その手を捻り上げ、誠司は目を細める。


「まあ、な。しかし、ライラに怒られてしまってね。私も戦いたいって。何のための『身を守る魔法』だって。私だってリナを助けたいんだ、って——」


 誠司は腕をタップするセレスを解放して、日記を広げた。そこにはライラの文字で、誠司の言う通りのことが書かれていた。


「——だから、必要な場面が来たらライラの力を借りることを私は約束した。そしてあの娘は、無事でいてくれた。どうやら私は少し、過保護だったみたいだね。自慢の、娘だ」


 そこまでの話を聞いたノクスは、額に手を当てて漏らす。


「しかし、セイジ。それにしてもだ。お前さん、よくライラちゃんを『厄災』に対峙させられたな。心配じゃなかったのか?」


「……まあ、心配なのは当たり前だが……彼ならライラを悪いようにはしないという確信があったからね。彼はエリスを、『追求者』と表現してくれたから」


「ん? どういうこと?」


 話のつかめない莉奈。そんな彼女を余所に、誠司はあの日を追憶する。






 ——ねえ、セイジ。この花、セイジの世界ではなんて呼ぶの?


 ——……ああ、これは『ヘザー』……『ホワイトヘザー』だ。懐かしいな、この世界にもあったんだ。


 ——ふうん。じゃあさ、『花言葉』っていうのは?


 ——これに関しては調べたことがあるから覚えてる。確か『追求者』だ……君にピッタリだね。


 ——へえ! セイジがそう言ってくれるなら、私、気に入った!……でも、何で調べたの?


 ——ンッ。うるさい、内緒だ。


 ——ふふ、意地悪だなあ。





 ————。






「……そうだね。なんでもない、内緒だ」


「えー! もう、また勿体ぶっちゃって! ほんと意地悪!」


 頬っぺたを膨らませる莉奈。顔を見合わせる一同。


 そんな反応の中、誠司は目を細め、首を傾げるヘザーを優しく見つめるのだった——。






 

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