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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第四部 エピローグ
268/625

エピローグ ①





 ジルの村への帰り道。


 レザリアとライラにがっしりと両腕を組まれた莉奈は、ふと思い出し通信魔道具に声をかけた。


「——もっしもーし。クラリス、歌はもう大丈夫だよ、ありがとー!」


『——ラララ〜……はい、こちらクラリス。『白い燕』さん、大丈夫でしたかあ?』


「——うんうん。長い時間歌わせちゃってごめんね。クラリスのおかげで、今回もなんとかなったよー」


 そう。彼女の歌のおかげで、莉奈は飛び続けることが出来た。


 最近大変なことが多すぎて、持久力はついてきた自信はあるが——彼女の歌がなければ途中で力尽き、空中戦でジョヴェディを翻弄することは出来なかっただろう。


『——いえいえ! そのかわり報酬の件、忘れないで下さいねー!』


「——……うっ……あの、本当にお金じゃなくていいの? お金の方がいいと思うけどなー……」


 クラリスへの報酬。莉奈としてはお金でかたをつけたい。金ならある。


『——ふふふー。何を言ってるんですか『白い燕』さん! 私が望むのは「今回の戦いの一部始終を余すことなく伝える」、これ以上の報酬はありませんって! ああ……今から聞くのが楽しみです!』


「——……うー、わかった。今度グリムに会った時に聞いて。あの娘なら全部覚えてると思うから……」


『——はい! それでは回線を切りますねー。お疲れ様でした!』


 ——これは間違いなく『白い燕の叙事詩』の六番が生まれるパターンだ。いや、今回は特に歌にする様な活躍はしてないし、ワンチャンあるか……?


 そんな事をグルグル考えていると、クラリスの歌を中継してくれていたサランディアの冒険者ギルドと通信が繋がった。


『——こちらサランディアのサイモンだ。聞こえるかね?』


「——あっ、サイモンさん! 無事、終わりました。『厄災』ジョヴェディの無力化に成功、もう大丈夫です。多分」


『——……多分……?』


「——あはは……グリムに代わりますねー」


 莉奈はそう言って、グリムに向かってクイクイッと耳を突き出す。両腕が塞がっているのだ、致し方ない。


 グリムは莉奈のインカムを外し、自身の耳に取り付けた。


「——やあ、サイモン。詳しくは後ほど説明するが、とりあえずは警戒を解除してもらって大丈夫だ。多分」


『——……多分……?』


 

 ——これでこの後一斉に、各地に散って待機している冒険者達のギルドカードに通知が行くことだろう。



 目の前のグリムのやり取りをぼんやりと眺めながら、莉奈は物思いに耽る。思い返せば、今回は大変だった。莉奈はライラの方を見る。


 莉奈はこの家族を守るために家を出た。


 しかし最後は、この家族が戦いに決着をつけたのだ。


 リョウカの言う『赤い世界』が何を意味するのか莉奈には分からない。


 でも、結果的にライラが懐いた『厄災』を消滅させない道を取れたことに、莉奈は安堵する。


 莉奈は目を細めて、ライラに声をかけた。


「……ライラ、ありがとね。結局ライラに助けられちゃったね。でも……あまり危ないことは……」


 そこまで言った莉奈の言葉をさえぎり、ライラは非難めいた目で莉奈を睨んだ。


「もう! リナ、前に言ってたよね!?『悪いことするなら一緒にしよう』って! 家出って悪いことだよね? なんで私を置いてっちゃうの!?」


 ぷくーっと頬を膨らませるライラ。莉奈はライラの頭を撫でようとしたが——駄目だ、もう片腕はレザリアガードが仕事をしている。


「……あはは。ごめんね、もうしないよ。だって私、誠司さんに言ってもらえたんだ。私はもう、あの家の……みんなの『家族』だから!」


 晴れやかな顔で宣言する莉奈。もう、ウジウジする必要はない。生まれ変わった私を見てくれ。どうよ?


「え、当たり前じゃん……」


「今更何を言ってるんですか、リナ……」


 両サイドの二人が呆れた声を出す。よろめく莉奈。



 まあ、莉奈も気づいていた。私を否定していたのは、過去の私だと——。



「よし! じゃあ改めて、二人ともよろしく! という訳で、まずはこの腕を離してもらえると……」


「「ダメ!」です!」


 ささやかなお願いは、声を揃えて却下された。


 莉奈は二人に引きずられながら、両腕から伝わってくる温もりをしっかりと胸に沁み込ませるのだった——。







 村に着いた莉奈達を、村人達は歓迎する。


「お疲れ様でした!『厄災』ジョヴェディは、倒せたのですか!?」


 村人の問いかけに言葉を濁す莉奈達。


 確かにジョヴェディの無力化には成功しただろう。しかし、一連の出来事をどう伝えればいいのか——。


 その時、突然背後から声をかけられる。


「——リナ様。『厄災』ジョヴェディは我らに従うことを約束しました。これから、残りの腐毒花を焼いて回るそうです」


 その言葉に莉奈達が驚いて振り向くと——片膝をついて莉奈のことをキッと見つめるマルテディの姿があった。


「……はい?」


 固まる莉奈。何言っちゃってんの、この娘。


 しかし——それを聞いたグリムの口端が上がった。


 そして振り返り、グリムは皆の者に宣言をする。


「皆、聞いての通りだ!『厄災』ジョヴェディは、この『白い燕』が従えた! これからの彼は、人類の為に尽くしてくれるだろう! それでは皆に紹介しよう。マルテディ、前に出ろ」


「はっ!」


 ざわめく村人の視線が集まる中、マルテディは立ち上がり前に出る。


「この娘が沈下しかけた村を止め、救ってくれた、『厄災』マルテディだ! 当初の予定では家屋は諦めてくれと通達していたが……マルテディは見事、それすらをも食い止めてくれたのだ!」



 ——沈黙、後。状況を理解し、喝采を上げる村人。



 村人には事前に、「『厄災』の力が発動したら家屋は諦めてくれ。出来る限りの補償はする」と、ギルド名義で通達はしてあった。


 とはいえ、長年住み慣れた村だ。補償もどこまでされるかわからない。しかし『厄災』ジョヴェディが相手ではやむを得ない——と、彼らは諦めていた。が。


 実際に沈下が始まりかけた瞬間、この地は砂に覆われ沈下は止まる。いったい何が起こっているのか、その時は理解出来なかったが——


 ——今、グリムの言葉を聞き村人達は理解する。


『白い燕の叙事詩』にある『厄災』を従えたという伝説は、本当だったのだと——。


「ワー!」と歓声が沸き起こり、惜しみない賛辞が莉奈とマルテディに寄せられる。


 がっくりうな垂れる莉奈。莉奈の後ろに隠れるマルテディ。レザリアは「どうよ!」と得意げにふんぞり返っている。


「……グリムぅ……」


 恨めしそうに見つめる莉奈に向かって、グリムはウインクをした。


 仕方あるまい。こうすれば全てが丸く収まるのだ。


(……ジョヴェディ……絶対に、ぜーったいに悪いことしないでね……)


 莉奈はゲッソリとしながら右手を挙げ、村人の賛辞に応えるのであった。






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