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ライラと『私』の物語  作者: GiGi
第四部 第八章
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禊 07 —叶わぬ願い—






「ジョヴお爺ちゃーーん!!」


 ライラの悲痛な叫び声は、爆音にかき消される。



 ——ジョヴェディを中心に巻き起こった爆発。



『身を守る魔法』の抵抗力を無視する、光魔法の最上級魔法『爆ぜる光炎の魔法』。


 その爆発が収まり、未だ大気中にパチパチという残滓ざんしが立ち込める中、土煙の中をライラは駆け出していった。


「ライラ!」


 莉奈を始め、その場にいる全員が後を追う。


 やがて土煙は晴れ、莉奈達が目にしたのは——両腕までもがれた上半身だけの姿になったジョヴェディを抱え込んで、大声で泣きじゃくるライラの姿だった。


「……ジョヴお爺ちゃん! ジョヴお爺ちゃんっ!!」


「……フン。生き残ってしまったか。お主らを巻き込まぬよう、力を抑えたのは失敗じゃったか……」


「……ジョヴお爺ちゃん!——『傷を癒す魔法』!」


「……ライラよ、やめるんじゃ。そんな事をしても、『厄災』には意味はない」


 茫然と、無言でその光景を見つめる莉奈達に、ジョヴェディは顔を向けた。


「さあ、お前ら。ワシの気が変わらん内に殺せ。もう、充分じゃ」


「ジョヴお爺ちゃん!」


 泣き叫ぶライラ。周りは動けない。



 ——この『厄災』は、確かに悪だ、悪だった。人類の脅威。危険な存在。


 滅ぼさなければいけない人物なのは確かだ。今のジョヴェディの人物像はただの気の迷いの結果で、再び人類の脅威として立ちはだかるのかも知れないから。



 ただ——誰も動けない、決められない。



 それほどまでにライラと戦っている時の彼は、純粋で、楽しそうで、悲しそうで。


 皆が固まる中、グリムが苦しそうな表情を浮かべ前に出た。


「……もしここまで計算して生き延びようとしているのなら……キミは私を遥かに凌駕する頭脳の持ち主だよ」


「……フン。そんな訳なかろう。ワシはただ、くたばり損ねただけじゃ……。お主との知恵比べ、なんだかんだで楽しかったぞい。さあ、もう悔いはない。はよう殺せ」


 ジョヴェディの言葉を聞き、ライラは心配そうな眼差しでグリムを見る。


 その視線に耐えきれず、グリムは顔を背けた。


「……すまないね、ジョヴェディ。どうやら私達では決断出来ないようだ。今、誠司を呼ぶ。彼の意見を——」




『——それには及ばないよ、グリム。この場は私に預けてくれ』




 突然、皆の頭に声が響いた。


 一部の者は聞き覚えのある声。その声の持ち主は——赤いマントをたなびかせ、突然空から降ってきた。


『——いやあ、これは間に合った……という事でいいのかな?』


「……リョウカさん!」


 莉奈は、その場の皆は目を開き驚愕する。


 唐突に降って湧いた人物——『義足の剣士』リョウカだ。




 その姿を見たライラはジョヴェディを優しく寝かせ、慌てて髪をクシクシと整えて挨拶をした。


「わ! この前はぶつかってごめんなさいでした。私、ライラって言います、十七歳です!」


 リョウカに向かってペコリと頭を下げるライラ。


 そう。ライラはサランディアでの人身売買の事件の時にぶつかって以来の再会である。


 ずっと会いたかった。会って謝罪とお礼を言いたかった。顔が熱を帯びている。多分、耳まで真っ赤だ。



 ——なんでだろ?



 そんなグルグルした気持ちを抱えたまま頭を下げ続けるライラの横を——リョウカは無視して通り過ぎる。


「……え?」


 もしかして、聞こえなかったのかな? と考えるライラの頭の中に、リョウカの声が流れ込んできた。


『——ライラ、下がっていてくれ』


「……は、はい!」


 言われるがまま、皆の所まで下がるライラ。


 リョウカは振り返り、皆に告げる。


『——『厄災』ジョヴェディの身柄は私が引き受ける。皆、それでいいかな?』


 沈黙。誰も言葉を返せない。


 そんな中でジョヴェディが、つまらなさそうに口を開いた。


「……お主、ケルワンからここまでどうやって来た」


『——どうだい、不思議だろう?』


「……情けをかけるな。早く殺せ。ここで見逃せば、またワシは暴れるぞい」


『——未練はないのかい?』


 リョウカの言葉に、険しい顔をするジョヴェディ。



 ——ある。当然ある。エリスの忘れ形見、それを教え、導きたいという、叶わぬ願いが。



「……フン。あるわけなかろう。ワシは満たされた」


『——困った爺さんだね』


 そう言ってリョウカはジョヴェディの方を向いてしゃがみ込み——彼にだけ見える様、仮面をとってその顔を晒した。


「……!……お、お主は……なぜ……!」


 その顔を見たジョヴェディは驚く。リョウカは鼻に指を当て、悪戯っぽい笑みを浮かべて、その仮面を付け直した。


『——どうだい、この世は不思議に満ち溢れているだろう? 生きてみようという気になったかな?』


「……いや、ワシは……」


 口ごもるジョヴェディを見て、リョウカはため息をつく。


『——やはり、あの手しかないか……ヘザー』


 リョウカはヘザーにだけ声を届けた。そのお願いを聞き、ヘザーはバッグへと入っていく。



 そして一分後。ヘザーはカルデネを引き連れ戻ってきた。


『——ありがとう、ヘザー。やあ、カルデネ。少し貸してもらっていいかな?』


「え? あ、はい……」


 状況が把握出来ていないカルデネ。ヘザーは半壊しているし、リョウカという人物の思惑もまったくわからない。


 しかし彼女は言われるがままに、持ってきた紙束をリョウカに渡した。


「ん? あれって?」


 その見覚えのある紙に、莉奈は首を傾げる。あれって確か——。


『——ジョヴェディ、これを見てごらん。そうしたら死のうなんて気、起こらなくなるはずだ』


 リョウカはそう言って、紙束をジョヴェディに見えるように広げた。


 それを見たジョヴェディの顔色は変わっていき、唇はワナワナと震え始め——彼は叫んだ。



「『胸を大きくする魔法』じゃと!? 何故この様な、限られた者にしか需要のない魔法が存在しておる!?」



「わー、わー、わー!」


 莉奈は慌てて駆け寄り、リョウカから紙束を引ったくった。


「ふざけんなよ、おまえら!!」


 フーフーと息を荒くし、リョウカとジョヴェディを睨む莉奈。


 リョウカは肩を揺らしながら、ジョヴェディに向き直った。


『——どうだい? 君は魔法を探し求めていたんだってね。その為に、このトロア地方に来たんだろう?』


「……そうだったんじゃが……何故、あのような魔法が……」


 ジョヴェディの瞳が光を帯びていく。リョウカはある人物を親指で示した。


 エヌ・エーの眉がピクリと動く。


『——簡単さ。あそこの彼、アルフレードは魔法を作り出せる。君が探し求めていた人物、その人だ』





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