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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
第四部 第八章
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禊 04 —「おやすみ」—







『身を守る魔法』の効果により、誠司の剣撃もセレスの魔法も受け付けない。


 その隙にジョヴェディは、『空を飛ぶ魔法』の詠唱に取り掛かかっていた。



 ——もう少しだ。もう少しで紡ぎ終わるぞい。



 それは勝利の魔法。空にさえ浮かんでしまえば、あとは万全の体勢で準備に取り掛かることが出来る。


 そうなれば奴等に打てる手は、ない。


 攻撃を躱し、受けながら紡がれていく言の葉。誠司の剣が、セレスの銃弾がジョヴェディを撃つが、それらは全く効かない。


 そして言の葉は紡がれ——……


「……ぐがっ!」


「体内は『身を守る魔法』の対象外なんだな、ジョヴェディ」


 誠司の突きが、ジョヴェディの口の中を貫いた。


 言の葉は、口を動かさないと紡げない。


 誠司は恐ろしい程の集中力を発揮し、この機会をうかがっていたのだ。


 しかしジョヴェディは、不敵に笑う。


「——『空を飛ぶ魔法』」


 刀を口に咥えたまま、ジョヴェディはその魔法の名を口にする。



 ——そう、言の葉はすでに、紡ぎ終えていた。



 空に浮かび上がるジョヴェディ。誠司は刀を引き抜き、舌打ちをした。


 ジョヴェディは高らかに笑う。


「クックックッ! これでお主らに、勝ちの目はなくなったぞい」


「はは。やはり『身を守る魔法』を使わせたのは失敗だったかな、セレス」


「えっ、何か考えがあった訳じゃないの?」


 キョトンするセレスを余所に、誠司とジョヴェディは視線を交わす。


「いや、全力を尽くさなきゃ意味がない、だろう? ジョヴェディ」


「……クックッ、無論だ。さあ、お主らは、どう戦う?」


 そのやり取りを見たセレスは、ため息をついた。


「もう……バカなんだから。でもね、セイジ。私、そんなあなたが——」


「来るぞ、セレス」


「えっ? あ、うん」


 牽制のために放たれる光弾。避ける誠司達。そしてジョヴェディは、次の魔法に取り掛かる。


「セレス、止められるか?」


「やってみるわ」


 そう言ってセレスは詠唱を始めながらバッグから大筒を取り出した。互いに紡がれる長文詠唱。


 その勝負は詠唱文の長さも影響し——セレスに軍配が上がった。


 大筒から放たれる弾。それはジョヴェディの周囲で弾け、空中に水が溢れ出した。


 それに合わせてセレスは魔法を解き放つ。



「——『凍てつく氷の魔法』!」



 ——凍りつく、凍りつく。



 その氷の最上級魔法はジョヴェディを周囲の水ごと凍らせ、彼の半身を氷漬けにすることに成功した。


 だが——首から上は、凍っていない。


 セレスは急ぎ、スナイパーライフルに持ち替えるが——



「——『写し身の魔法』」



 ——ジョヴェディの『分身魔法』は紡がれてしまった。


 崖の上に現れたその分身体は手早く詠唱をし、ジョヴェディ本体に向け魔法を放つ。


「——『火弾の魔法』」


 空中で巻き起こる爆発。セレスは銃を撃ち、誠司は本体の動きを注視する。


 そして煙が晴れた先には、氷が溶かされ自由になったジョヴェディが、誠司達を見下ろしている姿が現れていたのだった。





 戦いは続く。


 今回の分身体は、土塊つちくれを使っていない。


 なので、攻撃を与えれば簡単に掻き消す事が出来る。


「——『渦巻く颶風ぐふうの魔法』!」


 次々と作り出される分身体を、セレスが最上級魔法で掻き消していく。


 純粋な魔法の力による戦い。それが今、繰り広げられていた。


 しかし、相手は世界最高峰とも言える魔術師。彼女の領域である魔道具を駆使しても、セレスは一歩、及ばない。


 誠司はジョヴェディを見ながら、思う。


 彼は、強い。恐らく、魔法に関しては世界最強。


 そんな人物が、彼の妻、エリスのことを『憧れている』と言ってくれたのだ。


 ジョヴェディは敵だ。滅ぼすべき相手だ。


 だが、莉奈に、グリムに敗北を認め、潔く死のうとした彼に対し——誠司もまた、認めることにした。




 ジョヴェディはセレスの攻撃をかいくぐり、ついに分身体に『空を飛ぶ魔法』と『姿を溶け込ませる魔法』を詠唱させることに成功する。


 姿を隠した存在。誠司の能力では見破れない『魂』のない存在。



 ——こうなっては、お手上げだな。



 立ち尽くす誠司に、ジョヴェディは叫ぶ。


「どうした、小僧! さっきから、全く動かないではないか!」


「……ああ。もう私には打てる手はないからね。私の負けだ、ジョヴェディ」


「……貴様、なんと言った?」


「私の負けだと言ったんだ。君は素晴らしい。私では、もう、何も出来ない」


 その言葉を聞いたジョヴェディは、失望した目で誠司を見る。


「フン、ふざけるな。さっきまでの威勢は、何処へいった」


「——だから、遠慮なく撃て、ジョヴェディ。気を遣うんじゃない」


「……ぬう」


 誠司の指摘通り、ジョヴェディは気を遣っていた。この戦いを終わらせたくなくて、まだ見ぬ景色が見れると信じて。


 だが、この男は敗北を認めてしまった。これより先は、無い。


「出来れば『焼き尽くす業火の魔法』がいいな。ひと思いに焼いてくれ」


「……正気か?」


「……ああ。面白いものを見せてやる」


 そう言って誠司は不敵に笑った。ジョヴェディはこの男が何を狙っているのかと考えを巡らせるが——焼いてしまえば、それまでだ。何も出来るはずがない。


 ジョヴェディは失意とほんのわずかな期待を乗せ——誠司に向かって杖を身構えた。


「セイジ!」


 セレスが叫ぶ。そんな彼女に向かって、誠司は微笑んだ。


「君は巻き込まれないよう、離れていなさい。それと——」


 誠司は一旦言葉を区切り、続ける。


「——君が側にいてくれるなら安心だ。よろしく頼むよ。おやすみ」


 その言葉を聞き、セレスは察した。あれは確か、火竜襲撃の知らせを受けた日の夜——。


 その意味を知り、セレスは退避する。




 そして、ジョヴェディの言の葉は、紡がれた。



「——『焼き尽くす業火の魔法』!」



 その炎を確認した誠司は、ゆっくりと目を閉じた。


 巻き上がる炎。包まれる人の影。


 ジョヴェディは苦しい顔をしながらそれを見つめた。


(……結局、何も無かったのか……)




 だが、炎がおさまった時、彼は予想外の光景を見て驚愕する。


 消し炭があると思われた場所に立つ人影。その身に抱える白い杖。その人影は動き——



「——うー、暑っ!」



 ——炎の中から現れた少女は、襟もとをパタパタとしていた。


 そして少女は、空に浮くジョヴェディを見る。



「あなたがジョヴェディさんだね? 私、ライラって言います。十七歳です」



 忘れもしない、白い杖。どことなくエリスの面影が残る、その顔つき——


 ——ジョヴェディは直感する。彼女はエリスの、忘れ形見だと——。





 ——対ジョヴェディ戦。最終局面が、ついに訪れる。




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