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ライラと『私』の物語【完結】  作者: GiGi
第四部 第八章
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禊 01 —必要なこと—





 ヘザーはジョヴェディに刺さった矢を一本ずつ抜いていく。グリムは慌ててヘザーの腕を押さえた。


「待て、ヘザー。勝手なことは……」


「ふふ。大丈夫よ、グリム。ねえ、ジョヴェディ。私に会いたかったんでしょう? なら、もう悪さしないよね」


 グリムの『限定解除』の力を持ってしても、ヘザーの腕の動きは止まらない。それほどまでに、彼女の力は強いのだ。


 ジョヴェディは目を見開き、ヘザーを眺める。


『……嘘じゃ……貴様……本当に、エリスなのか?』


「うん、そうみたい。覚えてなくて、ごめんね」


「——ジョヴェディ。この人があなたの会いたがっていたエリスさんだよ。間違いない。私が保証する」


 莉奈は未だに抱きついたままのレザリアを引きずり、ヘザーの横に立つ。ジョヴェディはワナワナと震え出した。


『……なんでじゃ……どういうことじゃ……エリスは……』


 ジョヴェディはヘザーの目を覗き込む。しかしそれは、人をたばかろうとする者の瞳ではなかった。


 ヘザーは最後の一本を抜く。地面に崩れ落ちるジョヴェディ。


 そんな彼に、ヘザーは優しく声をかけた。


「こんな姿だけど、私はエリス。間違いないよ。待たせちゃったね。で、私に会いたかったんだよね。何のご用かな?」


「……認めん……認めんぞぉ!」


 ジョヴェディは喉を修復し、ありったけの叫び声を上げる。ヘザーは振り返り、動き出そうとした皆を制止した。


「みんな、邪魔はしないでね。私に任せて。リナ、バッグをお願い」


「ヘザー……」


 莉奈はバッグを受け取り、心配そうにヘザーを見つめる。グリムは顔を歪めながら声を漏らした。


「……ヘザー……全てが台無しになってしまったではないか……」


「グリム、ごめんね。でも、下がって見てて。ジョヴェディはただ純粋に、私と戦いたかっただけだと思うの」


「……まったく……お人好しだな、キミは」


 グリムはうつむいてかぶりを振った。莉奈はそんなグリムの肩に手を置き、彼女達を引き連れて離れた場所へと距離をとる。


「莉奈、いいのか?」


 グリムは指を鳴らして端末達を解除した。そんなグリムの問いかけに、莉奈は鼻で息を吐いた。


「わからない。わからないけど——」


「——けど?」


 莉奈は寂しそうに笑った。


「きっと必要なことなんだと思う。この戦いに、本当の意味で決着をつけるために。それが当事者である、ヘザーの権利だと思う」





 ヘザーとジョヴェディは対峙する。ジョヴェディは顔を歪めながら、ヘザーに問いただした。


「……もう一度聞く。お主は本当に、エリスなんじゃな?」


「……そうだよ、私の中にエリスの『魂』は入っている」


「……肉体を……失ったのか……」


 ジョヴェディは苦しそうな表情を浮かべる。その時、彼は初めて気づいた。


 あの男、ジョヴェディを消滅させた誠司という男の歳を重ねたと思われる外見。あれから、それなりの歳月が経っていたことに——。


「ワシは、エリスと……全力で戦いたかったんじゃ……」


「そ。じゃあ、始めよっか」


 そう言ってヘザーは伸びをし——ジョヴェディに殴りかかった。


「……!!」


 てっきり魔法での勝負を挑んでくると思っていたジョヴェディは油断する。


 その身体に風穴を開けられ、吹っ飛んでいくジョヴェディ。彼は傷を修復しながら、よろよろと立ち上がった。


 そこに襲いかかるヘザーの追撃。それをかわしながら、ジョヴェディは言の葉を紡ぎ終える。


「——『暗き刃の魔法』」


 手早く紡がれた刃は、ヘザーの身体に突き刺さった。しかし彼女は、それを意に介さない。


「よっと!」


 再び殴られ吹っ飛ぶジョヴェディ。たまらず彼は空中へと退避し、詠唱を終わらせた。


「——『光弾の魔法』!」


 光の線がヘザーを襲う。それをヘザーは回避しようとするが——その光弾は、ヘザーの肩をえぐった。


 杖を構えながら、ジョヴェディは悲しそうな表情をする。


「……お主……魔法が使えんのか……?」


「ふふ。ばれちゃったか。うん、今の私は魔法に憧れる、ただの本の虫だよ」


「…………——『光弾の魔法』」


 何発もの光弾がヘザーを襲う。彼女は全力で回避を続けているが——少しずつ彼女の肉体は削り取られていった。



 光弾が止む。ジョヴェディは詠唱を止め、かぶりを振った。


 そしてジョヴェディは苦しそうな表情で地面に降り立ち、一つの魔法を詠唱した。



「——『身を守る魔法』」



 ——『身を守る魔法』。ライラが得意とする魔法。カルデネの語った思考実験において、名前があがりながらも性格上、ジョヴェディは使用しないとカルデネが踏んだ魔法。


 今、ジョヴェディは、その魔法を唱えた。


 ヘザーは殴る。ヘザーは蹴る。


 しかし先ほどまでとは違い——ジョヴェディは身じろぎ一つせず、ヘザーに憐れむ様な視線を送った。


「……この魔法を使うとな、こうなってしまうんじゃ。もう、お主ではワシを傷つけることは出来ん」


 それは、ジョヴェディの願う戦いではなかった。


 彼は目的の為には手段は選ばない。力無き者は見下す。


 だが——この魔法を使ってしまえば、彼の目的である『ひりつく戦い』など、到底、望めない。


 だから、使わなかった。『厄災』の力に頼っても、なお、この魔法は使わなかった。


 目的の為なら、いくらでも卑怯で残酷な手段を使おう。力無き者は蹂躙じゅうりんすればいい。


 だが、これは楽しくない。この魔法を使ってしまえば、彼に勝てる者はいなくなってしまうから——。



 それでもヘザーは、打つ、打つ、打つ。


 こぶしが削れていき、中の金属製の骨格が見えても殴り続ける。


 戦闘スタイルは違えど、ジョヴェディには分かっていた、分かってしまっていた。



 ——彼女は、エリスだ。



 頭の中で何十回、何百回、何千回と繰り返したあの日のエリスの動き。


 空から眺めた彼女の動きは、確かにエリスの面影があった。


(……ああ……あの時のエリスは、もう、いないんじゃな……)


 彼が封じていた『身を守る魔法』を使ったのは、エリスへの手向たむけ。彼女になら使うべきだと思っていた魔法。


 ジョヴェディはゆっくりと杖を上げた。その瞳から、涙が一つ、こぼれ落ちる。


 そして彼は、つぶやいた。


「……さらばじゃ、エリス……——『火弾の魔法』……」






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