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ライラと『私』の物語【最終部開幕】  作者: GiGi
第一部 第三章
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月の集落のエルフ達 11 —一時の別れ—





 誠司の言葉を合図に、各人がそれぞれの準備の為に散っていく。


 莉奈も早速、自分の準備に取り掛かろうとしたが、それを呼び止める声が聞こえた。ヘザーだ。


「リナ、こちらのバッグを持っていって下さい」


 そう言って彼女が莉奈に手渡したのは、ヘザーが持ってきていた黒いボストンバッグだった。


 彼女が休憩の時、そこから本を取り出したりしてるのを莉奈は覚えている。


「ん? いいけど、なんで?」


 確か眠り薬とかも入ってるんだったっけな——と、日中の会話を思い出し莉奈がバッグを受け取ってみると、異様に軽い。まるで何も入ってないかの様に。


 莉奈の質問に答えず、ヘザーは話を続ける。


「そして、そのバッグを肌身離さず持ち歩いて下さい。くれぐれも中を開けない様に」


「え。もし開けたら?」


「もし、開けたら——」


 ヘザーの真剣な表情に、莉奈はゴクリと唾を飲む。


「——別に何かある訳ではありません」


「あ、ないんだ」


 莉奈は軽く崩れ落ちた。


「ただ、迂闊に開け閉めするとちょっと困った事になるかも知れませんので、念の為です」


 まあよく分からないが、ヘザーのお願いだ。莉奈はバッグのヒモの部分を引き出して、肩から掛けた。


「オーケー。ヘザーがそう言うなら、このバッグに何か意味があるって事だよね。わかった、持ち歩くよ」


「ありがとうございます、リナ。セイジとライラの事、お願いしますね」


「まっかせといて!」


 莉奈の返事にヘザーは満足そうにうなずき、中央に集まっているエルフ達のもとへと向かって行った。


 彼らは地面に地図を書き、簡単にルートを確認している様だ。エルフ達の事は、ヘザーと、そしてレザリアがいれば何の心配もないだろう。


(よし……頑張るか!)


 深夜に暗い森を縦断するなんて、なかなかドキドキするじゃないか。莉奈は不安を押し潰し、気合を入れ、街へと向かう準備に取り掛かった。







 ——二十分後。彼らは洞穴ほらあなの前に集まっていた。


 街へ向かう誠司と莉奈。『魔女の家』に向かう、ヘザーとエルフ達。ひとまずのお別れだ。


「周囲五百メートル内に人影なし。もし必要なものがあれば、集落に寄っていくか?その間くらい、私が見張りをするが」


 誠司の提案に、ナズールドはゆっくり首を振る。


「いえ、集落には寄っていきますが、レザリアがいるので大丈夫です。セイジ様はどうかお気遣いなく。今は急ぎましょう」


「わかった。では、気をつけてな」


 そう言って街へと旅立とうとする誠司を、ナズールドは呼び止める。


「セイジ様!」


 ゆっくりと振り返る誠司。ナズールドは決心する。今までとは違う、今こそ新しい関係を築く時だ。


 ナズールドは背筋を伸ばし、誠司に右手を差し出した。


「セイジ様——いや、セイジさん。さらわれた集落の者を、我々の仲間を……どうか、よろしく頼む」


 そのナズールドの言葉を聞き、誠司は破顔する。この方が気楽でいい。


「それだよ。おさたる者、やはり堂々としてなきゃな」


 誠司はナズールドの右手を強く握り返した。


「任せろ。全て終わったら、旨い酒でも飲もうじゃないか」




 そのやり取りをポヤーっと見ていた莉奈のもとに、レザリアが駆け寄って来た。


「リナ! 私、必ずリナのもとに駆けつけますから、待っていて下さい! 友人ですのでっ!」


 気持ち顔を赤らめながらも、レザリアは莉奈の手を取り、両手でがっしりとつかんだ。


「うわっ、嬉しいけど無理しないでね。私はライラの相手をする為に行くようなもんだし」


「いえ、万一リナに何かあっては、私は数千年悔やみ続けることになります。私には、そんなの耐えられません!」


 ——数千年かあ。重い、重たいよレザリア。


 しかし、やたらと仲良くしてくれるのは嬉しいけど、ここまで好かれる心当たりがないなあ。今度聞いてみよっかなあ——。


 その様な事を莉奈が考えている横で、レザリアはあごに手を当て何やらブツブツと呟いていた。


「……皆を送り届けて、その足で街に向かえば……急げば昼頃には着くでしょうか……」


 そのレザリアの呟きに、莉奈は思わず突っ込んでしまう。


「ちょっと、レザリア。睡眠時間」


「?……ああ、すいません、聞こえてましたか。いえ、リナの事が心配でどのみち眠れないと思うので、睡眠時間は計算しなくても……」


「……レザリア、ちゃんと寝よ?」


 しっかり止めておかないと、このエルフの友人は本当に無茶をしそうだ――と、莉奈は本気で心配する。


 そんなやり取りをしていた所で、ナズールドがやってきてレザリアを引きはがしてくれた。


「レザリア、行くよ」


「待って、ナズールド! まだちゃんとしたお別れが……ふにゃあっ!」


 耳を引っ張られて連れていかれるレザリアの声が、奇妙な叫び声と共に遠ざかっていく。


 莉奈は手を振りながら見送り、そして緊張がいい具合に解けている自分に気づいた。


(あえてやってるんだとしたら、すごいよなあ……)


 気持ちも軽い、身体も軽い、準備は万端だ。


 いつの間にか隣りに立っていた誠司が、莉奈に出発の声を掛ける。


「よし、行くか莉奈」


 莉奈はその呼び掛けにこころよく頷く。


「うん、行こう誠司さん!」


 こうして、さらわれたエルフを救うべく、二つの影は森の闇の中へと消えていったのだった。






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