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ライラと『私』の物語【年内完結】  作者: GiGi
第四部 第七章
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急・対本体攻略戦 05 —『クラウド』—





 ジョヴェディはまとわりつくグリム達を、払い、踏み潰す。それでもよじ登ってくるグリム達。払っても払ってもキリがない。


「……むう、一体、何なんだこれは!」


 その声に答えるかの様に、いつの間にか土の巨像の肩に降り立っていたグリムが口を開く。


「やあ、ジョヴェディ。どうやらキミは、分身体を同時に五体くらい動かせるようだね」


「……それが、どうした」


 ジョヴェディは答えながら、肩のグリムを叩き潰す。今度は反対側の肩口に現れたグリムが、言葉を続けた。


「分身体を何体作ろうが、それを動かす脳は一つだ。いやいや、それにしても五体同時は立派だ、感服するよ。そこで質問だ。私は同時に、何体動かせると思う?」


「……何が言いたい、小童こわっぱ!」


 ジョヴェディは声を荒げ、そちらのグリムも払い落とす。地に落ちていくグリム。


 しかし今度は頭の上にグリムは現れ、その巨像を見下ろした。


「——悪いね、ジョヴェディ。私は同時に軽く千体は動かせる。その点に関しては、私の方が圧倒的に上だ」





 巨像にわらわらとよじ登っていくグリム。それを呆然とした様子で眺める莉奈。うじゃうじゃいる。まるで大量の虫が這い上っているみたいだ。ゾワゾワする。


 莉奈は腕をさすりながら隣にいるグリムに漏らした。


「……ねえ、何、アレ……」


「ああ。キミのくれた『プラナリア』のヒントのおかげでふたは開いた。どうだい、壮観だろう?」


「……グリム君。プラナリアって、あのプラナリアかね?」


 誠司が疑問を口にする。



 ——プラナリア。


 切断しても、各部から正しい方向で再生される生物。その再生能力は凄まじく、例え百に分断してもその全てが再生され百体のプラナリアになる、と誠司は記憶している。



「そうだ。おおむねその様なものだと解釈してもらって構わない。どれ、見てもらった方が早い。数も減ってきたことだし、補充するか」


 そう言って、グリムは自らの腕を斬り落とした。瞬く間に再生される腕。そして——


 ——斬り落とした腕からは身体が生え、もう一体のグリムを形作る。


 その現れたグリムは腕を斬り落とし——一体が二体、二体が四体、四体が八体、八体が十六体と、どんどんと数を増やしていった。


「——そしてこの出来上がった端末達は、全てが私と意識を共有している。例えるなら私がホストで、端末の脳をクラウド化していると言ったところか」


「……グリム君。これが君のチートスキル……なのか?」


 誠司は声を絞り出す。その力は絶大だ。命の心配をしなくてもいい、千の兵を作り出す能力——。


 新たに作り出されたグリム達は、あっという間に五百体以上にまでその数を増やしていた。グリムは口角を上げる。


「これが私のスキル、『千騎当千クラウド』だ。さあ、仕掛けるぞ。マルテディ、協力を頼む」





 踏み潰す、踏み潰す、踏み潰す——。


 ジョヴェディ操る土の巨像は、まとわりつくグリムを払い落とし、地に群がるグリムを容赦なく踏み潰す。


(……ああ、鬱陶しいわい!)


 ジョヴェディは叫びながら踏み潰す。もう、数百は踏み潰しただろうか。しかしその踏み潰したグリムの数は、減るどころか更に増え続けていた。


 本来なら無視してもいい。だが、あの青髪の彼奴きゃつは底知れぬものを持っている、そうジョヴェディは感じていた。


 万が一があっては困る。もし彼女が何か狙っているのなら——


 ——ジョヴェディは思い返す。彼女との腹の探り合いを。


「……ククッ」


 思わず笑みが漏れる。ジョヴェディとて、長年に渡り他人を出し抜いてきたのだ。腹の探り合いには、自信があった。


 ——いいだろう、最後に笑うのは、ワシだ。


「……ククッ、クハハッ」


 再び漏れ出してしまう笑い声。その声にジョヴェディ自身が驚く。


(……ワシは、楽しんでおるのか?)


 ふと、そんな考えが頭をよぎるが、それは隅に追いやった。ジョヴェディは足を、拳を使いグリム達を粉砕していく。


(……何を狙っておるのか知らんが、年季の違いを見せてやるぞ、小童!)





 グリム達は蹂躙される。踏み潰された彼女達は、土の中へと沈み飲み込まれていく。


 それでも必死に、沈みゆくグリムを踏み台にして巨像へとよじ登るグリム達。


 そして別の方向からは、どこから持ってきたのか巨大な丸太を抱えたグリム達が「やー」と掛け声を上げながら巨像の足へと突撃してきた。


「フン、効くわけ無かろう!」


 巨像はそのグリム達を一蹴する——。



 ——それにしても、いい加減、飽きてきた。ジョヴェディは戦場を見渡す。


(……そろそろ頃合いかのう)


 みると戦場は、ジョヴェディの思惑通りの布陣になっていた。本来の敵である奴ら——無数のグリム以外の者共は、今、ほぼ一箇所に集まっている。


 土の巨像は、この戦況を見守っている莉奈達の方へとその向きを変えた。


「終わりにしてくれるわ!」


 巨像はグリム達を無視し、莉奈達の方へと向けて動き出そうとした。



 その時だ。巨像の肩口までたどり着いたグリムが声を上げる。


「なあ、ジョヴェディ。キミはいったい、何人の私を踏み潰した?」


「……ぬう?」


 そんなの数えている訳はない。だが、もはや数千は軽く踏み潰しただろう。


 グリムは続ける。


「そして——キミはいったい、何人の私達を土の中に飲み込んだ?」


「……!!」


 ジョヴェディは気付く。視野が狭まっていたおのれに気付く。



 ——踏み潰した此奴こやつらを、何故、土の中に飲み込めていた? それは、マルテディの力によって封じられていたはず——。



 慌ててジョヴェディはマルテディの方へと意識を向ける。その彼女は力を込め、この戦場の大地に再びその『固さ』を取り戻させた。


 ジョヴェディはグリムを睨む。


「……貴様、何を!」


「なに、ただ私達は土中でもその数を増やし、私達に夢中になっているキミを余所に、この時を静かに待っていただけさ」


 ——巨像によじ登っていたのはそちらに意識を向けさせるための囮。グリムの目的は巨像に踏み潰され、マルテディの力が解除された土中に()()()()()()ことにあった。



 グリムは口角を上げる。そして彼女は腕を上げ——



「さあ、本当の地盤沈下を、見せてやろうじゃないか」



 ——その指を、鳴らした。





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